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extra track 飼い主が不機嫌なので手を尽くす文鳥(俺)
12:00②
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晶は目を見開き、スプーンと晴也の顔を順に見た。そしてにんまりと笑った。餌をねだる鳥の雛のように口を開けるので、晴也はその中にケチャップライスを押し込んでやる。彼は目を細めて、やけに幸せそうに口をもぐもぐさせた。晴也は周囲にそっと視線を巡らせたが、自分たちの行動を気にしている客はいなさそうだった。
「ハルさん食べさせるの上手だな、将来介護されるようになっても安心だ」
「‥‥‥そんな年を取るまで一緒にいたらの話だけどな」
晶は自分もデミグラスソースのついた部分をスプーンに掬い、晴也に差し出す。晴也は周辺に視線を走らせて、注目を集めていないことを確認してから身を乗り出し、スプーンに食いついた。デミグラスソースも美味だったが、自分をやけに優しく見つめる晶の表情が、愛おしく思えた。
晶は晴也がバターライスを飲み下すのを待ち、うっとりとした声で言った。
「早くこんなことをするのが日常になればいいなぁ」
「日常になったら絶対飽きるから」
晴也は苦笑する。本当にそう思っているのに、晶はまたもう、と笑った。
「ハルさんのそんな照れ隠しが好き‥‥‥」
照れ隠しなのだろうか? 晴也は自分でも、ちょっとよくわからない。まあしかし、今現在こんなことをしていて割に楽しいことは、認める。
「食事のあと何か映画見る? せっかくだし」
晶の言葉に、晴也は頷く。きっと何を見るかがなかなか纏まらないだろうけれど‥‥‥今日のような何でもないデートが、今までの生き方や考え方が正反対の自分と晶を、少しずつ繋いでいく。
ふたりの意見が同じにならなくていい。それはつまらない。本当は合わないかもしれないふたりが、たまには喧嘩しながらつくる化学反応が、自分たちにも周囲にもちょっと面白いものをもたらしてくれたらいいと思う。
「一緒に暮らすようになっても、週末時間が合うときはこうやってドライブしよう」
「はいはい、まだ一緒には暮らさないけどな」
「ハルさんと買い物したりご飯食べたりキスしたりするのが好きだ」
「‥‥‥あ、そう‥‥‥」
晴也は少し視線を下に向けた。これは照れ隠しだった。晶はそれを見て、調子に乗る。
「帰りラブホに寄ろうか、ハルさん行ったことないだろ?」
「はぁ? 俺今夜おまえん家に泊まるのに、そんなとこに行く理由が無い」
ラブホテルは、お互いが自宅に暮らす若いカップルか、人目を忍ぶ不倫カップルやデリヘルの利用者が使うものだと思っている。童貞である晴也は、もちろん使ったことは無い。
晶の提案をシャットアウトした晴也に晶は目を丸くした。
「最近のラブホは結構楽しそうだよ、ちょっとしたアトラクションだと思って」
「どんな楽しみ方があるって言うんだよ、俺はおまえの性的なおもちゃじゃないぞ、何度も言わせるな」
つい口調が強くなり、晴也は言い過ぎかなと思ったが、果たして晶はまだぶすっとした顔になった。
「ハルさんは俺の希望をちっとも聞いてくれない」
「聞いてるよ、ランチだって焼肉からオムライスに変えたのに」
「だいたいハルさんは俺の意見を軽んじる傾向がある」
そんなことないと呟き、晴也は溜め息をついた。ペットショップで余程不愉快だったのだろうか。まあ映画を観たら晶の気が変わるかもしれないと思い、晴也は水を口にした。
「ハルさん食べさせるの上手だな、将来介護されるようになっても安心だ」
「‥‥‥そんな年を取るまで一緒にいたらの話だけどな」
晶は自分もデミグラスソースのついた部分をスプーンに掬い、晴也に差し出す。晴也は周辺に視線を走らせて、注目を集めていないことを確認してから身を乗り出し、スプーンに食いついた。デミグラスソースも美味だったが、自分をやけに優しく見つめる晶の表情が、愛おしく思えた。
晶は晴也がバターライスを飲み下すのを待ち、うっとりとした声で言った。
「早くこんなことをするのが日常になればいいなぁ」
「日常になったら絶対飽きるから」
晴也は苦笑する。本当にそう思っているのに、晶はまたもう、と笑った。
「ハルさんのそんな照れ隠しが好き‥‥‥」
照れ隠しなのだろうか? 晴也は自分でも、ちょっとよくわからない。まあしかし、今現在こんなことをしていて割に楽しいことは、認める。
「食事のあと何か映画見る? せっかくだし」
晶の言葉に、晴也は頷く。きっと何を見るかがなかなか纏まらないだろうけれど‥‥‥今日のような何でもないデートが、今までの生き方や考え方が正反対の自分と晶を、少しずつ繋いでいく。
ふたりの意見が同じにならなくていい。それはつまらない。本当は合わないかもしれないふたりが、たまには喧嘩しながらつくる化学反応が、自分たちにも周囲にもちょっと面白いものをもたらしてくれたらいいと思う。
「一緒に暮らすようになっても、週末時間が合うときはこうやってドライブしよう」
「はいはい、まだ一緒には暮らさないけどな」
「ハルさんと買い物したりご飯食べたりキスしたりするのが好きだ」
「‥‥‥あ、そう‥‥‥」
晴也は少し視線を下に向けた。これは照れ隠しだった。晶はそれを見て、調子に乗る。
「帰りラブホに寄ろうか、ハルさん行ったことないだろ?」
「はぁ? 俺今夜おまえん家に泊まるのに、そんなとこに行く理由が無い」
ラブホテルは、お互いが自宅に暮らす若いカップルか、人目を忍ぶ不倫カップルやデリヘルの利用者が使うものだと思っている。童貞である晴也は、もちろん使ったことは無い。
晶の提案をシャットアウトした晴也に晶は目を丸くした。
「最近のラブホは結構楽しそうだよ、ちょっとしたアトラクションだと思って」
「どんな楽しみ方があるって言うんだよ、俺はおまえの性的なおもちゃじゃないぞ、何度も言わせるな」
つい口調が強くなり、晴也は言い過ぎかなと思ったが、果たして晶はまだぶすっとした顔になった。
「ハルさんは俺の希望をちっとも聞いてくれない」
「聞いてるよ、ランチだって焼肉からオムライスに変えたのに」
「だいたいハルさんは俺の意見を軽んじる傾向がある」
そんなことないと呟き、晴也は溜め息をついた。ペットショップで余程不愉快だったのだろうか。まあ映画を観たら晶の気が変わるかもしれないと思い、晴也は水を口にした。
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