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extra track 飼い主が不機嫌なので手を尽くす文鳥(俺)
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やめておけばよかった。自分に注がれる晶の粘っこい視線に半ば怯えながら、晴也は後悔していた。
「福原さん、チューしていい?」
バスローブ姿の晶は、晴也を膝の上に座らせて、妙に芝居がかった口調で訊いてきた。晴也は彼から何を要求されているのか、よくわからない。視界に入るのは、見たこともないような大きさのテレビとベッド、青空に雲が浮かぶ天井、壁は森を表現しているつもりなのか、木や草花が描かれている。しかし、何だか総合的に趣味が悪い。
趣味の悪さの最たるものは、晴也自身の姿だった。ここに来るなり、紺色のセーラー服を従業員が持ってきた。晶はそれを、やたらに広い浴室を覗いていた晴也に、楽しげに手渡したのだった。
「ハルさん、シャワー浴びたらこれ着てくれる?」
晴也は目を剥いたが、女装男子としての好奇心に負けた。胸の前で花のように広がる赤いタイや、細いプリーツのスカートは、確かに身につけるとときめいた。鏡を見ても、割と似合っていると自画自賛できた。しかし、背後に立ち晴也を見つめる晶の顔を鏡越しに見た瞬間、晴也は危機感を覚えたのだった。
「思った通りだ……可愛い……」
晶は切れ長の筈の目尻を下げて、物欲しげに言ったのだった。紛うことなき変態が、そこに存在した。
「ショウさん、あのさ、俺たちの関係性は……」
晴也はおずおずと、自分の腰を抱く晶に尋ねた。彼はえっ? と声を高くした。
「やっぱり教師と生徒じゃない?」
「あのなぁ、それって……おまえの発想そのものが犯罪って理解してる?」
晶は晴也を見上げながら、首を傾げた。
「ハルさんは未成年じゃないし、妄想は自由だ」
「……このシチュエーション、楽しいのか?」
晴也の問いに、晶は悪びれもせず、うん、と力強く答えた。
「ハルさんは俺の機嫌を直したいから俺の言う通りにしてると思ってるだろうけど、セーラー服を着たい欲望があったことはわかってるからな」
そこは、晴也は否定できなかった。溜め息混じりに応じる。
「わかったよショウ先生、でも俺映画見たいんだけど」
「あっショウ先生はやめて、ダンスのレッスンでそう呼ばれてるから」
「知るか! ……じゃあ吉岡先生、エッチなことをしたいんじゃなくて、家みたいに横になりながら映画が観たいから、ここに来たんですよね?」
吉岡先生は半笑いで、仕方ないなぁ、と言った。何が仕方ないんだよクソが、と晴也は胸の中で突っ込んだが、つき合っておいてやろうと腹を括りつつあった。
「福原さん、チューしていい?」
バスローブ姿の晶は、晴也を膝の上に座らせて、妙に芝居がかった口調で訊いてきた。晴也は彼から何を要求されているのか、よくわからない。視界に入るのは、見たこともないような大きさのテレビとベッド、青空に雲が浮かぶ天井、壁は森を表現しているつもりなのか、木や草花が描かれている。しかし、何だか総合的に趣味が悪い。
趣味の悪さの最たるものは、晴也自身の姿だった。ここに来るなり、紺色のセーラー服を従業員が持ってきた。晶はそれを、やたらに広い浴室を覗いていた晴也に、楽しげに手渡したのだった。
「ハルさん、シャワー浴びたらこれ着てくれる?」
晴也は目を剥いたが、女装男子としての好奇心に負けた。胸の前で花のように広がる赤いタイや、細いプリーツのスカートは、確かに身につけるとときめいた。鏡を見ても、割と似合っていると自画自賛できた。しかし、背後に立ち晴也を見つめる晶の顔を鏡越しに見た瞬間、晴也は危機感を覚えたのだった。
「思った通りだ……可愛い……」
晶は切れ長の筈の目尻を下げて、物欲しげに言ったのだった。紛うことなき変態が、そこに存在した。
「ショウさん、あのさ、俺たちの関係性は……」
晴也はおずおずと、自分の腰を抱く晶に尋ねた。彼はえっ? と声を高くした。
「やっぱり教師と生徒じゃない?」
「あのなぁ、それって……おまえの発想そのものが犯罪って理解してる?」
晶は晴也を見上げながら、首を傾げた。
「ハルさんは未成年じゃないし、妄想は自由だ」
「……このシチュエーション、楽しいのか?」
晴也の問いに、晶は悪びれもせず、うん、と力強く答えた。
「ハルさんは俺の機嫌を直したいから俺の言う通りにしてると思ってるだろうけど、セーラー服を着たい欲望があったことはわかってるからな」
そこは、晴也は否定できなかった。溜め息混じりに応じる。
「わかったよショウ先生、でも俺映画見たいんだけど」
「あっショウ先生はやめて、ダンスのレッスンでそう呼ばれてるから」
「知るか! ……じゃあ吉岡先生、エッチなことをしたいんじゃなくて、家みたいに横になりながら映画が観たいから、ここに来たんですよね?」
吉岡先生は半笑いで、仕方ないなぁ、と言った。何が仕方ないんだよクソが、と晴也は胸の中で突っ込んだが、つき合っておいてやろうと腹を括りつつあった。
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