夜は異世界で舞う

穂祥 舞

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extra track ミチルの恋のものがたり

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 その後一人ずつ同じことをやらされたが、小学生の頃の感覚で逆立ちもできないと分かり、美智生は軽くショックを受けた。

「持っててやるから思いきり脚上げろ」

 村地は美智生が振り上げた足首をしっかりと支えてくれた。

「腕の力を信じろよ……はい」

 村地の声に合わせて、マットの縫い目を見つめたまま腕を思いきって曲げると、腰に手を添え、回転の勢いをつけてくれた。
 その後も自宅で出来るストレッチなどを学び、皆で笑いながら1時間を過ごした。童心に帰ったようで楽しかったが、それ以上に、自分の身体に触れた村地の手の力強さが心に残った。頼りになる、大人の男の手。
 お腹の目立ち始めた副担任が産休を発表したのはその直後で、後任が村地だと知った時、美智生は明らかに、これまで感じたことのないときめきを覚えた。……これまで授業でだけ顔を見ていたむらちぃに、ほぼ毎日会うことになるのか。
 姉たちより歳上の同性にときめいているという事実への戸惑いよりも、その男と毎日顔を合わせる喜びが上回った。面倒だった副委員長の雑務は、彼を独占する絶好の機会と化す。

樫原かしはらは接客の仕事が合うような気がするな」

 ある日、ホームルームで配るプリントを帳合ちょうあいしながら、村地は美智生に言った。自分は誰にでも気安い訳ではないので、美智生は驚く。

「無理だよ、クレームが続発する」
「店舗とかじゃなくってさ、大きめのお金が動く、特別感のある……銀行の融資とか、証券とか、不動産とか」

 ぴんと来なくて、美智生はホッチキス片手に首を傾げる。

「きっちりして口堅そうだし……意外と水商売もいけそう」

 えーっ、と言って美智生は笑った。何だろ、ホストクラブとか?

「注意、個人の感想です」
「何か無責任」

 真面目に言ってるぞ、と村地は大きめの口許から白い歯を覗かせて笑う。家族からも示唆されたことのない自分の個性を見出してくれたことが、嬉しい。美智生は彼の、初夏の太陽の光を連想させる屈託ない笑顔を見て、胸がきゅっとなった。
 夜、村地の逞しい腕に抱かれて眠る妄想に耽るようになるのにそう時間はかからなかった。気温は上がるばかりなのに、美智生は肌布団をきつく身体に巻きつけて、あの肩や腕や背中を想い描き、先生、などと呟いてみる。この多幸感。ああでも……こんなことをしていると先生にバレるようなことがあれば、ドン引きされて終わりだな。美智生はそう思うと、切なくて泣きそうになるのだった。
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