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16 熱誠
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晴也は意を決して、長年のわだかまりの根源にメスを入れることにした。
「あのさ……結婚式って俺の知らない間にやってた?」
2人は顔を見合わせる。
「結果的に知らない間……だったよなあ、他の連中にも後でめちゃくちゃ文句言われた」
晴也は佑介の話に目を見開く。惠が説明した。
「ぶっちゃけお金もかかるから、近い身内だけでこぢんまりやったの」
話が違う。同期は俺以外の全員が、披露宴に呼ばれたのではなかったのか? 晴也の心臓がどくどくと速く打つ。
佑介が苦笑混じりに言った。
「ちょうど同じ頃に一年上の……佐山さんと岡本さんが結婚したんだ、同期も全員呼んですごい派手婚だったらしい、OBで集まる度に比べられて割と嫌だったわ」
晴也は一人で呆然となる。あれはこの2人の結婚式の話ではなかったのか。もしかすると、あの情報をもたらした後輩は、晴也が誰と同期だったのか、取り違えていたのかもしれなかった。卒業して時間が経つと、学生時代の先輩後輩が、どれだけ学年が離れた人なのかわからなくなると、会社で誰かが話していたことを晴也は不意に思い出す。
要するに俺は勝手な思い込みで、好かれていないと判断したのだ。一方的に誤解して、学生時代の友人を切り捨てた。晴也は三松夫妻に不必要な悪感情を抱き続け、三松夫妻は音信不通になった晴也を気にし続けていた。……何て愚かな。
「……そうだったんだ」
晴也はようやくスプーンを手に取った。掬ったアイスクリームは溶け始めていたが、黒蜜の味とよく合って、その甘さが晴也の心と身体の緊張を、ふわりと緩めた。
「美味しい」
もうひと口、アイスと一緒に白玉を頬張る。白玉の柔らかさが、優しかった。
「福原くん……そんなに美味しいの?」
惠に言われて顔を上げた晴也は、自分の目から水滴が零れ落ちたことに驚いた。
「あっ……うん、すごく美味しい、こんなとこで賑やかに甘いもの食べるのも久しぶりで……」
晴也は思わずごまかす。佑介は申し訳なさそうに言った。
「福ちゃんは感じやすいんだなぁ、俺たち昔たぶん、福ちゃんのこと全然ちゃんと見てなかった……黙って傷ついてたこともいっぱいあったんじゃないのか?」
晴也は違う、と言って小さく首を振る。また目から水が落ちた。晶は鞄を探ってハンカチを出すと、晴也に差し出した。
「感じやすいんですよ、俺ハルさんのバーの近所で踊ってるんですけど、ショーを観に来て泣いてくれる数少ないお客様のうちの一人ですから」
「えーっそうなんですか? でもそんな泣けるショーならちょっと見てみたい……」
惠の言葉に晴也はやっと笑った。晶のハンカチで頬を拭く。
「新宿に夜の11時に行かなきゃいけないよ」
「あっ、厳しいなぁ……福原くんの勤めてるバーは?」
「7時から11時までやってる」
「それなら行けそう」
「お嬢ちゃんどうするんだよ」
どうしよう? と惠は夫の顔を見る。連れてくか、それはまずいよと言い合う2人を見て、仲良しなんだなと晴也は思った。そして、橋渡しをして良かったと感じた。かつて晴也が身を引いたことは、もう誰も知らなくていい。惠は佑介と幸せな家庭を築き、晴也は晶と歩き出そうとしているのだから。
サークルのOB会の発足は遅れているらしかった。晴也は大きな集まりにはあまり興味が無いが、同期だけで集まるなら参加したいと三松夫妻に告げた。そして2人とLINEのIDを交換して、娘を迎えに行く彼らをその場で見送った。もしかすると、晴也が晶と2人でゆっくりできるように、気を遣ってくれたのかもしれなかった。
「一件落着だな、ハルさん」
晶は晴也の向かいに座り直して、微笑しながら言った。
「泣きながら手紙を書いた甲斐があっただろ?」
それを聞いた晴也は少しむくれた。
「……それは単なる結果論だ、俺はあの夜あんな思いをしてまで手紙を書く必要があったのか、未だに疑問だ」
「あったんだよ、涙しながら種を蒔く者は喜びながら収穫するって聖書にも書いてる」
「それ絶対たとえが相応しくない」
晴也はガラスの器の中に沈んでいた、最後の白玉をスプーンで掬った。
「でも……ありがと」
小さ過ぎて聞こえなかったかと思ったが、晶は晴也を見ながらにっこり笑った。晴也は白玉とあんこを口に入れた。
晶は泣くほど白玉が美味しかったのかとは訊かない。晴也の涙の理由を知っていて、上手くごまかしてくれた。そんなことができるくらいには、自分と晶は親しいのだ。その事実が、くすぐったくて嬉しかった。
「これからも大切にしたい友達だったよ、ってことかな」
晴也が女装し男と交際していると知っても、三松夫妻が笑ったり嫌悪感を見せたりしなかったことも嬉しかった。晶の言葉に、晴也はうん、と小さく頷くのだった。
「あのさ……結婚式って俺の知らない間にやってた?」
2人は顔を見合わせる。
「結果的に知らない間……だったよなあ、他の連中にも後でめちゃくちゃ文句言われた」
晴也は佑介の話に目を見開く。惠が説明した。
「ぶっちゃけお金もかかるから、近い身内だけでこぢんまりやったの」
話が違う。同期は俺以外の全員が、披露宴に呼ばれたのではなかったのか? 晴也の心臓がどくどくと速く打つ。
佑介が苦笑混じりに言った。
「ちょうど同じ頃に一年上の……佐山さんと岡本さんが結婚したんだ、同期も全員呼んですごい派手婚だったらしい、OBで集まる度に比べられて割と嫌だったわ」
晴也は一人で呆然となる。あれはこの2人の結婚式の話ではなかったのか。もしかすると、あの情報をもたらした後輩は、晴也が誰と同期だったのか、取り違えていたのかもしれなかった。卒業して時間が経つと、学生時代の先輩後輩が、どれだけ学年が離れた人なのかわからなくなると、会社で誰かが話していたことを晴也は不意に思い出す。
要するに俺は勝手な思い込みで、好かれていないと判断したのだ。一方的に誤解して、学生時代の友人を切り捨てた。晴也は三松夫妻に不必要な悪感情を抱き続け、三松夫妻は音信不通になった晴也を気にし続けていた。……何て愚かな。
「……そうだったんだ」
晴也はようやくスプーンを手に取った。掬ったアイスクリームは溶け始めていたが、黒蜜の味とよく合って、その甘さが晴也の心と身体の緊張を、ふわりと緩めた。
「美味しい」
もうひと口、アイスと一緒に白玉を頬張る。白玉の柔らかさが、優しかった。
「福原くん……そんなに美味しいの?」
惠に言われて顔を上げた晴也は、自分の目から水滴が零れ落ちたことに驚いた。
「あっ……うん、すごく美味しい、こんなとこで賑やかに甘いもの食べるのも久しぶりで……」
晴也は思わずごまかす。佑介は申し訳なさそうに言った。
「福ちゃんは感じやすいんだなぁ、俺たち昔たぶん、福ちゃんのこと全然ちゃんと見てなかった……黙って傷ついてたこともいっぱいあったんじゃないのか?」
晴也は違う、と言って小さく首を振る。また目から水が落ちた。晶は鞄を探ってハンカチを出すと、晴也に差し出した。
「感じやすいんですよ、俺ハルさんのバーの近所で踊ってるんですけど、ショーを観に来て泣いてくれる数少ないお客様のうちの一人ですから」
「えーっそうなんですか? でもそんな泣けるショーならちょっと見てみたい……」
惠の言葉に晴也はやっと笑った。晶のハンカチで頬を拭く。
「新宿に夜の11時に行かなきゃいけないよ」
「あっ、厳しいなぁ……福原くんの勤めてるバーは?」
「7時から11時までやってる」
「それなら行けそう」
「お嬢ちゃんどうするんだよ」
どうしよう? と惠は夫の顔を見る。連れてくか、それはまずいよと言い合う2人を見て、仲良しなんだなと晴也は思った。そして、橋渡しをして良かったと感じた。かつて晴也が身を引いたことは、もう誰も知らなくていい。惠は佑介と幸せな家庭を築き、晴也は晶と歩き出そうとしているのだから。
サークルのOB会の発足は遅れているらしかった。晴也は大きな集まりにはあまり興味が無いが、同期だけで集まるなら参加したいと三松夫妻に告げた。そして2人とLINEのIDを交換して、娘を迎えに行く彼らをその場で見送った。もしかすると、晴也が晶と2人でゆっくりできるように、気を遣ってくれたのかもしれなかった。
「一件落着だな、ハルさん」
晶は晴也の向かいに座り直して、微笑しながら言った。
「泣きながら手紙を書いた甲斐があっただろ?」
それを聞いた晴也は少しむくれた。
「……それは単なる結果論だ、俺はあの夜あんな思いをしてまで手紙を書く必要があったのか、未だに疑問だ」
「あったんだよ、涙しながら種を蒔く者は喜びながら収穫するって聖書にも書いてる」
「それ絶対たとえが相応しくない」
晴也はガラスの器の中に沈んでいた、最後の白玉をスプーンで掬った。
「でも……ありがと」
小さ過ぎて聞こえなかったかと思ったが、晶は晴也を見ながらにっこり笑った。晴也は白玉とあんこを口に入れた。
晶は泣くほど白玉が美味しかったのかとは訊かない。晴也の涙の理由を知っていて、上手くごまかしてくれた。そんなことができるくらいには、自分と晶は親しいのだ。その事実が、くすぐったくて嬉しかった。
「これからも大切にしたい友達だったよ、ってことかな」
晴也が女装し男と交際していると知っても、三松夫妻が笑ったり嫌悪感を見せたりしなかったことも嬉しかった。晶の言葉に、晴也はうん、と小さく頷くのだった。
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