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15 昼に舞う蝶とダンサー
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「俺のいない間……この部屋を好きに使ってくれていい、何なら引っ越してきてくれてもいい」
晶は晴也の背中を撫でながら、言った。
「毎日朝晩メールするよ、時間が合う時は電話もする」
「……そんなのいいよ、練習で忙しいのに」
「そういうのはうざいって思うなら正直に言ってくれ」
晶に覗き込まれて、晴也は少し考える。朝晩毎日は、ちょっと面倒かも。
「夜連絡ちょうだい、電話は毎日でなくてもいい……おまえの練習の途中なんかにはしてくれるな」
晴也はようやく身体から力を抜いた。こういうのを、甘えるのが下手と言うんだろうなと思う。いや、晶のロンドンでの仕事を絶対に妨げたくはないし、毎朝毎晩連絡も要らない。ただ……ずっと繋がっているという確信が欲しい。
「時間を取るメールとか電話が欲しいんじゃないんだ、たまにハルさん今何してるかなぁって思ってて欲しいというか……」
何言ってんだ俺。晴也は馬鹿なことを言う自分が嫌になり、口を噤んだ。晶はくすっと笑った。
「ハルさんは考え方が女性的というか、唯物的じゃないんだなぁ……でも時間を使うこと以外の方法で、相手に気持ちを伝えるのは難しい……俺はテレパシーは無いからな」
晶の言うことはもっともである。彼は晴也のうなじを指先で撫でながら、吐息混じりに言った。
「俺の可愛い小鳥ちゃんは……どうすれば安心して俺に何もかも委ねてくれるんだろう……」
晴也は晶に対し、申し訳なく思う。大切な舞台を控えているのに、彼を困らせたくない。
「何だかんだ言って、週1日以上ずっと会ってたから……2ヶ月半大丈夫かなって心配なんだ」
晴也は晶を見上げ、ゆっくり話す。
「気持ちいいことしなくなって……ショウさんみたいにオナニー魔人になるのも嫌だ」
「オナニー魔人は酷くない?」
晶は軽く反論したが、事実なのだから撤回する気は無い。
「ハルさんが仕事をどうでもいいと思ってる人なら、一緒に来いって言うんだけど……それは無いとわかってるつもり」
晶の優しい声に、自分に対する慈しみが溢れているのを晴也は感じた。少し彼の目を見つめ、上体を伸ばす。晴也の行動を全く予測していない無防備な唇に、そっと自分のそれを押しつけてみた。
温かくて、案外柔らかい唇。晶はじっとしていてくれた。くっつけたところから、何か心地良くなるものが流れ込んでくる気がする。
唇を離しても、珍しく晶は何も言葉を発さなかった。代わりに晴也の頬を掌で包み、優しく撫でた。彼の手の感触を楽しみながら、晴也はふと、自分の傍らに投げ出されている晶の左脚を見た。手を伸ばし、ごつごつした膝に触れる。
「……無理するなよ、ほんとに」
晴也が膝を掌で撫で始めると、晶の手が晴也の頬から離れた。そして、さっき重ねた時よりも熱を帯びた唇が押しつけられる。
「明日病院について来てくれる?」
耳許で晶に言われて、へ? と思わず晴也は高い声になった。
「定期検診なんだ、退屈させると思うけど……俺の膝がどうなってるのか、知っておいて貰いたい」
晴也は晶の膝を掌で包んだまま、彼の顔を見る。互いの鼻先が触れ合い、そのまま唇の先だけでキスをした。
「ハルさんに俺の全てを知って欲しい、その上で支えて欲しい……ダンサーとしての俺も、そうでない時の俺も」
ショウさん、と言ったきり、晴也は言葉が続かなかった。何だかこれは……プロポーズされてるみたいなんだが……。
「俺はハルさんの盾になって、あなたを煩わせるものからできる限り守りたい」
晶の真剣な表情に、晴也はどきりとする。そんなこと、ムード全開で言うな! 心臓がうるさいのと反比例し、晴也は変に冷静になって困惑した。だいたい、いつまで2人とも素っ裸でいるつもりなんだ。まあ素肌で触れ合ってるのは、気持ちいいんだけど……そんなことに慣らされて来た自分が怖い。
晴也が落ち着きを失くし始めたことに気づいて、晶が腰に腕を回してくる。
「真面目な話、俺はハルさんが嫌でなければ死ぬまで一緒にやっていきたいと思ってる」
晴也の顔が火照った。何言ってんだこいつ、どうする、何て答えたらいい? 晶は畳み掛けてくる。
「この間家族の話が出たから、ハルさんもそんな風に思ってくれてると受け取ったのは俺の勘違いですか?」
「かっ、勘違いとは言わないけど、極度の、先走りではないかと……」
答えた晴也の声は、ばくばくする鼓動に合わせて揺れた。晶は腕の力を強めて、晴也を逃がさないと言わんばかりだった。
「ハルさん、ちょっと照れずに考えて……不安とか心配事は脇に置いて、俺とこれからどうしたい? 将来がどうとか堅苦しいこと抜きで、適当に遊びたいならそれでもいい」
「そっ、そんないい加減な気持ちで人にちんこや尻の穴に触らせたりしないっ」
晴也は当惑のあまり、恥ずかしくなるようなことを口走った。晶は晴也を追い詰めてくる。
「じゃあ俺と末永くつき合ってくれる?」
「はいとすぐに答えるほど俺の頭の中は花畑じゃないぞ、男同士やってくのに不安や心配事に目をつぶる訳にはいかないだろうが」
晶は晴也の言葉に、うーん、と言って首を傾げる。
「俺が訊きたいのはそういうのを取っ払ったハルさんの気持ち」
「……それは」
「取っ払えないって言いたいかな」
晴也は肩が冷えて来たのを自覚した。寒い、とつい呟くと、晶は腕を解いて、枕元に積まれた服の中から晴也の寝間着を取ってくれた。晶が観察する中で、もそもそと服を身に着ける。
晶は晴也の背中を撫でながら、言った。
「毎日朝晩メールするよ、時間が合う時は電話もする」
「……そんなのいいよ、練習で忙しいのに」
「そういうのはうざいって思うなら正直に言ってくれ」
晶に覗き込まれて、晴也は少し考える。朝晩毎日は、ちょっと面倒かも。
「夜連絡ちょうだい、電話は毎日でなくてもいい……おまえの練習の途中なんかにはしてくれるな」
晴也はようやく身体から力を抜いた。こういうのを、甘えるのが下手と言うんだろうなと思う。いや、晶のロンドンでの仕事を絶対に妨げたくはないし、毎朝毎晩連絡も要らない。ただ……ずっと繋がっているという確信が欲しい。
「時間を取るメールとか電話が欲しいんじゃないんだ、たまにハルさん今何してるかなぁって思ってて欲しいというか……」
何言ってんだ俺。晴也は馬鹿なことを言う自分が嫌になり、口を噤んだ。晶はくすっと笑った。
「ハルさんは考え方が女性的というか、唯物的じゃないんだなぁ……でも時間を使うこと以外の方法で、相手に気持ちを伝えるのは難しい……俺はテレパシーは無いからな」
晶の言うことはもっともである。彼は晴也のうなじを指先で撫でながら、吐息混じりに言った。
「俺の可愛い小鳥ちゃんは……どうすれば安心して俺に何もかも委ねてくれるんだろう……」
晴也は晶に対し、申し訳なく思う。大切な舞台を控えているのに、彼を困らせたくない。
「何だかんだ言って、週1日以上ずっと会ってたから……2ヶ月半大丈夫かなって心配なんだ」
晴也は晶を見上げ、ゆっくり話す。
「気持ちいいことしなくなって……ショウさんみたいにオナニー魔人になるのも嫌だ」
「オナニー魔人は酷くない?」
晶は軽く反論したが、事実なのだから撤回する気は無い。
「ハルさんが仕事をどうでもいいと思ってる人なら、一緒に来いって言うんだけど……それは無いとわかってるつもり」
晶の優しい声に、自分に対する慈しみが溢れているのを晴也は感じた。少し彼の目を見つめ、上体を伸ばす。晴也の行動を全く予測していない無防備な唇に、そっと自分のそれを押しつけてみた。
温かくて、案外柔らかい唇。晶はじっとしていてくれた。くっつけたところから、何か心地良くなるものが流れ込んでくる気がする。
唇を離しても、珍しく晶は何も言葉を発さなかった。代わりに晴也の頬を掌で包み、優しく撫でた。彼の手の感触を楽しみながら、晴也はふと、自分の傍らに投げ出されている晶の左脚を見た。手を伸ばし、ごつごつした膝に触れる。
「……無理するなよ、ほんとに」
晴也が膝を掌で撫で始めると、晶の手が晴也の頬から離れた。そして、さっき重ねた時よりも熱を帯びた唇が押しつけられる。
「明日病院について来てくれる?」
耳許で晶に言われて、へ? と思わず晴也は高い声になった。
「定期検診なんだ、退屈させると思うけど……俺の膝がどうなってるのか、知っておいて貰いたい」
晴也は晶の膝を掌で包んだまま、彼の顔を見る。互いの鼻先が触れ合い、そのまま唇の先だけでキスをした。
「ハルさんに俺の全てを知って欲しい、その上で支えて欲しい……ダンサーとしての俺も、そうでない時の俺も」
ショウさん、と言ったきり、晴也は言葉が続かなかった。何だかこれは……プロポーズされてるみたいなんだが……。
「俺はハルさんの盾になって、あなたを煩わせるものからできる限り守りたい」
晶の真剣な表情に、晴也はどきりとする。そんなこと、ムード全開で言うな! 心臓がうるさいのと反比例し、晴也は変に冷静になって困惑した。だいたい、いつまで2人とも素っ裸でいるつもりなんだ。まあ素肌で触れ合ってるのは、気持ちいいんだけど……そんなことに慣らされて来た自分が怖い。
晴也が落ち着きを失くし始めたことに気づいて、晶が腰に腕を回してくる。
「真面目な話、俺はハルさんが嫌でなければ死ぬまで一緒にやっていきたいと思ってる」
晴也の顔が火照った。何言ってんだこいつ、どうする、何て答えたらいい? 晶は畳み掛けてくる。
「この間家族の話が出たから、ハルさんもそんな風に思ってくれてると受け取ったのは俺の勘違いですか?」
「かっ、勘違いとは言わないけど、極度の、先走りではないかと……」
答えた晴也の声は、ばくばくする鼓動に合わせて揺れた。晶は腕の力を強めて、晴也を逃がさないと言わんばかりだった。
「ハルさん、ちょっと照れずに考えて……不安とか心配事は脇に置いて、俺とこれからどうしたい? 将来がどうとか堅苦しいこと抜きで、適当に遊びたいならそれでもいい」
「そっ、そんないい加減な気持ちで人にちんこや尻の穴に触らせたりしないっ」
晴也は当惑のあまり、恥ずかしくなるようなことを口走った。晶は晴也を追い詰めてくる。
「じゃあ俺と末永くつき合ってくれる?」
「はいとすぐに答えるほど俺の頭の中は花畑じゃないぞ、男同士やってくのに不安や心配事に目をつぶる訳にはいかないだろうが」
晶は晴也の言葉に、うーん、と言って首を傾げる。
「俺が訊きたいのはそういうのを取っ払ったハルさんの気持ち」
「……それは」
「取っ払えないって言いたいかな」
晴也は肩が冷えて来たのを自覚した。寒い、とつい呟くと、晶は腕を解いて、枕元に積まれた服の中から晴也の寝間着を取ってくれた。晶が観察する中で、もそもそと服を身に着ける。
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