夜は異世界で舞う

穂祥 舞

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14 万彩

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 晶にそう言われると、前に触られるのとは全然違うが、気持ちがいいような気もしてくる。やがて指先がゆっくりと入り口を押し広げてきて、晴也はびくりとなって目を開けた。自分の様子を観察していたらしい晶と、すぐに目が合う。

「あの、き……汚くないか、そんなこと……」
「吉岡にとってお嬢様は汚いところなど無いお方ですから」

 執事ごっこする場面じゃないだろ、と晴也は突っ込みたかったが、指が奥に入って来るので話す余裕が無かった。

「うん、上手ですよ、痛くないですか?」

 晶が優しく訊いてくる。痛くはないが、違和感が半端ない。

「……めちゃくちゃ変な感じ」
「そうだと思う、普段出すだけの場所に入れてるんだからね……ハルさん、痔はやったことない?」

 晶がのんびり訊いてきた内容が理解できず、晴也はえっ? と思わず言った。

「痔の検査するとき医者って触診するんだけど、今それくらい入ってると思う」
「あ……そう……」

 晶はずぶりと指を進める。思わず声が出てしまった。

「あっ、痛い?」
「痛くない、でも」
「まさか感じてる?」
「それはない……入れられて気持ちいいとか本当になるのか?」

 晴也は晶の肩に置いていた手に力が入っていたことに気づいて、突っ張っていた腕を緩めた。すると下でやんわりと指先が動き、その違和感に思わずひゃっ、と言って身体を反らせた。
 晶はどうも指先を入れたり抜いたりしているようである。

「ただ入れるだけで気持ち良くなるのはかなり上級者だと思う、えっと……」

 言葉が切れたかと思うと、心臓のすぐそばにいきなり熱いものがくっつき、そこをくすぐり始めた。背筋がぴりぴりして、晴也はこれまでと違う声を思わず洩らす。

「ちょ、こんなとこでやめ……っ!」

 舌の先で乳首をもてあそばれると気持ちがいいことを、晴也の身体は覚えていた。晶は晴也の腰に巻きつけている腕に力を入れて、逃がすまいとする。迂闊だった、こんな体勢じゃ触ってくれと言わんばかりだ。晴也はまた腕を突っ張ろうとするが、快感がじわじわと理性を蝕む。

「あっ、やめろ馬鹿、えっ……!」

 下の穴にずぶずぶと指が侵入してくるのを感じて、晴也は震えた。晶は今度は右側の突起に唇をつけ、軽く吸う。ぎゅっと股間に熱が集まるのがわかった。勝手に声が出て、腰が砕けそうになった。
 その時、晶の指が内側の壁をこすった気がした。すると電撃がびりっと背筋を駆け上がり、脳天で弾けた。一瞬目の前が白くなった晴也は叫び、身体をよじる。

「ハルさんのいいとこに触ったかな?」

 晶は嬉しげに言って、下の穴から指を抜いた。抜ける瞬間も何やらじわりと気持ち良くて、晴也の身体が勝手に折れた。バランスが保てなくなり、晶に抱きつく格好になってしまう。

「びっくりしたな、ごめんごめん……のぼせそうだね、上がるよ」

 晶は晴也の背中を抱いたままゆっくりと立ち上がる。晴也は何が起こったのかよくわからなかったが、勃起してしまった自覚があり、恥ずかしくて顔を上げられなかった。

「はいハルさん、お風呂出るよ、歩ける?」
「あの、ショウさん、……先に出て」

 晶はえっ? と言って晴也を覗き込む。そしてくすっと笑った。

「ああ、ちんこった? わかってる、そうなるようにしたんだから」
「へ?」
「勃った状態でないと尻の穴って良くならないから」

 晴也は意味がわからなくてあ然とする。とりあえず晶の肩から腕を解き、前を手で隠しながら浴室から出る。

「そんなに恥ずかしがらないで、余計に煽られる」

 晶は笑いながら言って、バスタオルを手渡してくれた。彼に背中を向けてそそくさと身体を拭く。肌が火照り、腕も脚もほんのり染まっていた。
 勃ったものが治まるまで、腰にバスタオルを巻きつけて肌の手入れをする。晶は晴也の倍の速さで身支度をして、ビールでも飲むかと訊いて来たが、晴也は断った。晶がにやにやする。

「早く続きがしたいよな、寝室に水は持って行っとくよ」
「そういう意味じゃないっ」

 晴也が答えると、晶はさも可笑しげに笑い声を立てて洗面室から出て行く。晶から借りた薄手のスウェットはやはり大きかったが、肌触りが心地良い。晴也は袖とズボンの裾を折り、ドライヤーを手に取った。
 びっくりした、あれは何だったのだろう。晴也は頭の中を白くしたものを反芻してみる。あれは紛れもなく「感じて」しまったというやつだ。
 晴也は髪を手櫛で整えながら、恐る恐る寝室を覗いた。晶はクローゼットを開け、明日の用意をしているようだったが、ベッドの上に一枚バスタオルが敷いてあるのをみて、どきっとした。晴也は時間稼ぎをすべく、こそっとリビングに戻り、鞄から水族館の紙袋を出す。そして再度寝室を覗いた。

「あっハルさん」

 晶は晴也の姿を見て、明らかにとろけた顔になった。彼は4歩で晴也のそばまで来ると、ぎゅっと抱きしめて来た。晴也は硬直してしまう。

「だぶだぶの自分の服を着る恋人とか、萌え過ぎる……知らなかった……」

 晶は耳許で嬉しそうに言い、晴也から腕を解くと、スマートフォンのカメラを向けて来る。

「待ち受けにしたい」
「えっ! こんなカッコ……」

 晴也が顔を隠す前に、シャッター音がした。晶は即保存する。

「一切流出させませんから」
「いやまあ裸じゃないからいいけど……」

 晴也は赤くなるのを自覚しながら、サイドテーブルに置かれた水に手を伸ばす。そして胸に抱いていた紙袋を、晶に差し出した。

「あげる、どっかに飾っとけ」

 晶はえ? と言ってから袋を受け取り、すぐに開けた。オレンジの縞模様の長細いぬいぐるみを見て、彼は笑う。

「あっ、ニシキアナゴ?」
「一生懸命見てただろ? この部屋シンプル過ぎるから、こんなもので彩るのはどうかなと」

 たぶんあまり良く見えてはいないのだろうが、晶はぬいぐるみの顔を見て目を細めた。

「ふふ、可愛い……これから一緒に寝るよ」
「ちなみにチンアナゴがうちにいるから」
「それはお揃いだってこと?」

 まあね、と晴也は答えて水を飲む。晶はぬいぐるみを触りながら、ベッドに腰を下ろした。
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