夜は異世界で舞う

穂祥 舞

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13 破壊、そして

ハルの日曜日②

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 今日は2枚のシーツを洗濯していた。ベランダに出て、からからに乾いたシーツを取りこんでいると、テーブルの上のスマートフォンが震える音がした。部屋の中に戻って画面を覗く。

「こんにちは、今何してる?」

 晶からのLINEだった。晴也はシーツを抱えたまま返事を打ち込んだ。

「洗濯取りこんでる」
「毎日洗濯するの?」

 そんなことを訊いてどうするんだと思いつつ、今日はシーツだけを洗ったことを伝える。ベランダが狭いので、大きなものは別に洗わないと、干しにくいのだ。
 やや日が傾いてきた外の景色を見ながらシーツを畳んでいると、晶が子どものレッスンを見に来ないかと誘ってきた。晴也は首を傾げる。月曜の夜に、仕事が済んでから晶の実家まで? まあ彼は会社の帰りに、毎週そうしているのだが。晶の実家がある取手は、晴也の実家の佐倉よりも、都内からの移動時間がほんの少しだけ短いようだ。
 晶は実家で夕飯を食べないかと誘ってくれたが、それは無いだろうと思う。どんな顔をして、彼の親御さんに会えばいいのか。踊り手でもないただの友人が、平日の夜に息子のレッスンを見学しに来るまい。晶も察してくれたのか、ではすぐに都内に帰ろうという話に纏まる。晴也は新しく手に入れた、ペンギンのスタンプを送った。
 晴也はふと、晶のLINEのアイコンである大型犬を見てみたいと思った。その旨を伝えると、晶はすぐに了承してくれた。もしその時に親御さんと遭遇してしまった場合は、仕方ない、しれっと挨拶しておこう。
 晶と会う約束をして喜んでいる自分を、晴也はあまり認めたくない。まだ何となく、晶の術中にはまった気がしてしまうからだ。とてもくだらないプライドだが、言い寄られてあっさり落ちたように思われたくないのだった(そもそも彼の容姿が好みだということを、晴也はたまに失念している)。
 また、どれだけ女に上手く化けたとしても、晴也は男である。子どもを持つなど、晶に「普通の幸せ」がある人生を提供することはできない。昨日はつい、そんな気持ちが口をついて出てしまった。気持ちを通わせてうきうきするのは良いけれど、マイノリティが生きていくのは何かと難しい社会である。楽天家の晶の分も、自分がこれからのことを考えないと……。
 晴也はひとつ息をついた。何も急がなくていいと、もう1人の自分が囁く。晶と一緒に過ごすことそのものの幸福を、時間をかけて全身で味わえばいい。おそらくあんなに自分を好いて、全てをさらけ出してくれる人間は、この先二度と現れないだろう。それにこんなに好きだと感じ、目の前で涙を見せることのできる相手に、この先出会えるとも思えない。だから。
 これからは、あなたの喜びや悲しみはあなた1人のものではない。2人で分かち合うものとなる。人が愛し合い、共に生きていくというのはそういうことだ。……従兄がキリスト教式の結婚式を挙げた時、牧師が新郎新婦に語りかけた言葉を晴也はふと思い出す。当時モテない大学生活を送っていた晴也には、全く自分に関係の無い話だった。今はそうではないのかもしれないけれど、晴也には実感が無いために、晶との今後について、やはり独りで考え込まざるを得ないのだった。
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