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13 破壊、そして
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「……こいつロンドンで踊ってた知る人ぞ知るダンサーなんだけど、あっちからオファー来てて」
酔っ払いたちは晶を見て、マジ? とかすごい、と囁きざわめいた。晴也は続ける。
「俺は最初から自分みたいな……女装趣味のある引きこもり系がこいつに相応しいとは思えなかった、でもそんなことはないって言われ続けた」
観客はふむふむと頷く。
「でも案の定こいつはそのオファーを受けてイギリスに行こうとしてるんだ、俺を捨てて日本での生活にピリオドを打ってな!」
晶はあんぐりと口を開けた。そして言葉を鋭くした。
「何でそうなるんだよ、妄想で話すな、誰がハルさんを捨てるなんて言った⁉︎」
「おまえどれだけ馬鹿なんだ、海外からのオファーを受けるってのはそういうことだろ? 帰って来なくなるのに決まってるだろうが」
「勝手に決めるな!」
本気で白熱する言い合いに、店中の人間の視線が集中する。しかし晴也には、恥ずかしいなどと感じる余裕も無かった。
「おにいさん、どうな訳? 俺はハルちゃんの気持ちわかるなぁ、俺の嫁さんって大学のミスキャンでさぁ」
話し出したサラリーマンに、おまえの話は聞いてねぇよ、という笑い混じりの野次が飛んだが、彼は続ける。
「俺みたいな何の取り柄もないブサメンと何で結婚してくれたのか未だにわかんないし、いつ他の男に乗り換えられるか戦々恐々な訳よ、ハルちゃんとちょっと立場似てない?」
そうだ、よくわかる。晴也は彼にはい、としんみり答えた。
「そうなんです、こいつが外国で踊るようになったとしても俺がついて行ける訳ないし、そう、はなから釣り合ってないんです、なのにこいつはそのオファーだって、興味無いような言い方をして、俺にほんとのこと話してくれなくて……」
酔っている晴也は、言いながら気持ちがコントロールできなくなり、涙ぐんだ。あーっ、と周りから声が上がる。
「不細工とか取り柄がないとかって、あなた自身の思い込みでしょう? 奥様はあなたの魅力を知っていて、一緒になろうとおっしゃったんじゃないんですか?」
晶はサラリーマンに話しかける。サラリーマンはえっ、と目を丸くした。晴也はムカッとして、晶に近寄り思わず二の腕を掴んだ。
「お客様を籠絡するな! こうやって俺にも耳触りのいいことばかり言ったんだ」
晶から手首を掴み返され、晴也は身構える。
「ほんとのことを言ってるんじゃないか、この人の奥さんがこの人を騙したり、俺がハルさんを騙したりして何のメリットがあるんだよ」
晶は手首を離してくれない。力では敵わないのが悔しくて、さらに涙が出た。
「違う! 騙すとか言ってんじゃねぇよ、俺は心変わりされて惨めな思いをすんのも、将来おまえのお荷物になるのも嫌なんだよ!」
晴也は半ば怒鳴りながら言った。
「それにナツミちゃんやミチルさんからおまえがイギリスに行くみたいだって聞かされた時の、何で教えてくれないんだっていう俺の情けない気持ちがわかるかっ」
晶の声も大きくなった。
「確かに正直に全部言わなかったのは悪かったと思う、でもハルさんはそうして悪いように受け取るからタイミングを測ってたんだ」
「余計に傷ついたわ、くっそムカつく!」
晶は目を細めて舌打ちしそうな顔になった。
「それは良かったな、じゃあ自分が傷つきたくないからって無視を決め込んで、俺を傷つけるのは平気なのか! 随分勝手な言い草だな!」
晴也はどきりとした。眼鏡の奥の晶の目は、相変わらず吊り上がっていたが少し悲しそうだった。
酔っ払いたちは晶を見て、マジ? とかすごい、と囁きざわめいた。晴也は続ける。
「俺は最初から自分みたいな……女装趣味のある引きこもり系がこいつに相応しいとは思えなかった、でもそんなことはないって言われ続けた」
観客はふむふむと頷く。
「でも案の定こいつはそのオファーを受けてイギリスに行こうとしてるんだ、俺を捨てて日本での生活にピリオドを打ってな!」
晶はあんぐりと口を開けた。そして言葉を鋭くした。
「何でそうなるんだよ、妄想で話すな、誰がハルさんを捨てるなんて言った⁉︎」
「おまえどれだけ馬鹿なんだ、海外からのオファーを受けるってのはそういうことだろ? 帰って来なくなるのに決まってるだろうが」
「勝手に決めるな!」
本気で白熱する言い合いに、店中の人間の視線が集中する。しかし晴也には、恥ずかしいなどと感じる余裕も無かった。
「おにいさん、どうな訳? 俺はハルちゃんの気持ちわかるなぁ、俺の嫁さんって大学のミスキャンでさぁ」
話し出したサラリーマンに、おまえの話は聞いてねぇよ、という笑い混じりの野次が飛んだが、彼は続ける。
「俺みたいな何の取り柄もないブサメンと何で結婚してくれたのか未だにわかんないし、いつ他の男に乗り換えられるか戦々恐々な訳よ、ハルちゃんとちょっと立場似てない?」
そうだ、よくわかる。晴也は彼にはい、としんみり答えた。
「そうなんです、こいつが外国で踊るようになったとしても俺がついて行ける訳ないし、そう、はなから釣り合ってないんです、なのにこいつはそのオファーだって、興味無いような言い方をして、俺にほんとのこと話してくれなくて……」
酔っている晴也は、言いながら気持ちがコントロールできなくなり、涙ぐんだ。あーっ、と周りから声が上がる。
「不細工とか取り柄がないとかって、あなた自身の思い込みでしょう? 奥様はあなたの魅力を知っていて、一緒になろうとおっしゃったんじゃないんですか?」
晶はサラリーマンに話しかける。サラリーマンはえっ、と目を丸くした。晴也はムカッとして、晶に近寄り思わず二の腕を掴んだ。
「お客様を籠絡するな! こうやって俺にも耳触りのいいことばかり言ったんだ」
晶から手首を掴み返され、晴也は身構える。
「ほんとのことを言ってるんじゃないか、この人の奥さんがこの人を騙したり、俺がハルさんを騙したりして何のメリットがあるんだよ」
晶は手首を離してくれない。力では敵わないのが悔しくて、さらに涙が出た。
「違う! 騙すとか言ってんじゃねぇよ、俺は心変わりされて惨めな思いをすんのも、将来おまえのお荷物になるのも嫌なんだよ!」
晴也は半ば怒鳴りながら言った。
「それにナツミちゃんやミチルさんからおまえがイギリスに行くみたいだって聞かされた時の、何で教えてくれないんだっていう俺の情けない気持ちがわかるかっ」
晶の声も大きくなった。
「確かに正直に全部言わなかったのは悪かったと思う、でもハルさんはそうして悪いように受け取るからタイミングを測ってたんだ」
「余計に傷ついたわ、くっそムカつく!」
晶は目を細めて舌打ちしそうな顔になった。
「それは良かったな、じゃあ自分が傷つきたくないからって無視を決め込んで、俺を傷つけるのは平気なのか! 随分勝手な言い草だな!」
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