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12 憂惧
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「ショウの舞台どうこうの話にそんなにショックを受けるとは思わなかった、大丈夫?」
「それもありますが、昨日会社で例の後輩から侮辱され、キレて後輩に紅茶を浴びせて帰りました」
晴也は返事を送る。美智生には若干の甘えがあった。
「ショウさんとはこれ以上親しくしないつもりです。仕事も辞めて、実家に帰ることを考えています」
ええっ! と猫が青ざめたスタンプが返って来た。
「冷静になれ、極論にしか思えない」
続く美智生の返事を見て、そうだろうかと思う。
「いいえ、元々ショウさんと私は釣り合いませんし、会社にいろいろバレて噂が広まりこれまで以上に居づらくなったので、流れとしては当然だと思います」
晴也はまた悲しくなりながら送信した。美智生の返事はやけに早いが、移動でもしているのだろうか。
「俺にはハルちゃんの気の迷いにしか思えないんだけど? 明日会社は休んでもいいからめぎつねには出勤してよ」
「はい、ママに今後の話もしたいのでめぎつねには行きます」
「しっかり休んで気持ち整理して」
晴也はありがとうございます、とスタンプを送った。
いろんな人から心配されるのは、面倒くさい。好きにさせてくれたらいいのに、と思う。その反面嬉しかったりもする。
今まで知らなかった他人との交わりのあれこれに、あらためて晴也は戸惑うが、知らなかったのではなく知ろうとしなかったのではないかとふと感じた。三松夫妻は、「福ちゃんにそっくりな女性」を見かけたというだけで、以前から気になっていたと連絡をくれた。週に2日か3日、数時間会うだけの淡い関係なのに、美智生もこうしてLINEをくれる。
紅茶をゆっくり食道に落とし込むと、力が抜けた。ただ、会社を3月末で辞めるかどうかはともかく、晶との関係をリセットしたほうがいいという考えは変わらなかった。不安になりながら会社のメールアドレスを開くと、崎岡と岡野から新しいメールが来ていた。
「今ウィルウィンの吉岡さんがいらして、また2店舗商品を置いてくれることになったと報告ついでに、福原のことを尋ねてきました。昨日のことをざっくり話すと、自分のせいだとしょんぼりしていました。気の毒なので連絡してあげてください。」
崎岡は事実だけを述べていたが、本当は晴也にいろいろ訊きたいと思っているだろう。
岡野からのメールは、もう少し踏みこんでいた。
「吉岡さんは、仕事のお話にいらっしゃったようです。課長は、昨日の話を吉岡さんにしたみたいでしたが、帰り際に久保さんではなく、早川さんのことを、すごい目で睨んでらっしゃいました。早川さんも、お気づきだったと思います。なので、部屋を出られたところをこっそり追って、福原さんは体調が良くないようだが、大丈夫だと伝えました。すごく嬉しそうな顔をされましたよ。」
刃傷沙汰にはならなかったようなので、晴也は胸を撫で下ろした。晶が久保の顔を知らないというのは幸いだった。
とりあえず岡野に礼を言う。久保は彼をトロいとなじるが、なかなか空気を読んで機転をきかせてくれる。やはり久保には、人を見る目が無い。
岡野から見て晶が「すごい目で睨んで」いたと感じたなら、早川は晶の剣幕に震え上がったかも知れないと晴也は思った。晶は眼鏡越しでも目力が強い。
ひと安心して食器を片づけると、スマートフォンが震えた。自分の会社に戻ったのだろうか、晶からのLINEだった。
「汐野商事にお邪魔して、崎岡さんと営業課の若い社員さんから、ハルさんが昨日ひどい目に遭い、今日休んでいることを聞きました。社内で後輩と早川の言動(ざまあみろ)が問題になっているようですね。」
「ハルさんが怒っているのはわかります。許してもらえるとも思っていません。でも少し落ち着いたら一言欲しいです。」
2つの吹き出しの中に目を通して、怒ってる訳じゃないんだが、と胸の内で突っ込んだ。ああでも、晶がどう受け止めようとも、結論は変わらないのだ。晴也はそのままスマートフォンをテーブルに置き、歯を磨くべく洗面所に向かった。……既読スルーって、されたら傷つくって皆言うけど、するほうだって苦しい時があるぞ。
ぽろりと零れた涙は、顔を洗って流してしまえばいいだけだった……少し無理があったが、晴也はそう思うことにした。
「それもありますが、昨日会社で例の後輩から侮辱され、キレて後輩に紅茶を浴びせて帰りました」
晴也は返事を送る。美智生には若干の甘えがあった。
「ショウさんとはこれ以上親しくしないつもりです。仕事も辞めて、実家に帰ることを考えています」
ええっ! と猫が青ざめたスタンプが返って来た。
「冷静になれ、極論にしか思えない」
続く美智生の返事を見て、そうだろうかと思う。
「いいえ、元々ショウさんと私は釣り合いませんし、会社にいろいろバレて噂が広まりこれまで以上に居づらくなったので、流れとしては当然だと思います」
晴也はまた悲しくなりながら送信した。美智生の返事はやけに早いが、移動でもしているのだろうか。
「俺にはハルちゃんの気の迷いにしか思えないんだけど? 明日会社は休んでもいいからめぎつねには出勤してよ」
「はい、ママに今後の話もしたいのでめぎつねには行きます」
「しっかり休んで気持ち整理して」
晴也はありがとうございます、とスタンプを送った。
いろんな人から心配されるのは、面倒くさい。好きにさせてくれたらいいのに、と思う。その反面嬉しかったりもする。
今まで知らなかった他人との交わりのあれこれに、あらためて晴也は戸惑うが、知らなかったのではなく知ろうとしなかったのではないかとふと感じた。三松夫妻は、「福ちゃんにそっくりな女性」を見かけたというだけで、以前から気になっていたと連絡をくれた。週に2日か3日、数時間会うだけの淡い関係なのに、美智生もこうしてLINEをくれる。
紅茶をゆっくり食道に落とし込むと、力が抜けた。ただ、会社を3月末で辞めるかどうかはともかく、晶との関係をリセットしたほうがいいという考えは変わらなかった。不安になりながら会社のメールアドレスを開くと、崎岡と岡野から新しいメールが来ていた。
「今ウィルウィンの吉岡さんがいらして、また2店舗商品を置いてくれることになったと報告ついでに、福原のことを尋ねてきました。昨日のことをざっくり話すと、自分のせいだとしょんぼりしていました。気の毒なので連絡してあげてください。」
崎岡は事実だけを述べていたが、本当は晴也にいろいろ訊きたいと思っているだろう。
岡野からのメールは、もう少し踏みこんでいた。
「吉岡さんは、仕事のお話にいらっしゃったようです。課長は、昨日の話を吉岡さんにしたみたいでしたが、帰り際に久保さんではなく、早川さんのことを、すごい目で睨んでらっしゃいました。早川さんも、お気づきだったと思います。なので、部屋を出られたところをこっそり追って、福原さんは体調が良くないようだが、大丈夫だと伝えました。すごく嬉しそうな顔をされましたよ。」
刃傷沙汰にはならなかったようなので、晴也は胸を撫で下ろした。晶が久保の顔を知らないというのは幸いだった。
とりあえず岡野に礼を言う。久保は彼をトロいとなじるが、なかなか空気を読んで機転をきかせてくれる。やはり久保には、人を見る目が無い。
岡野から見て晶が「すごい目で睨んで」いたと感じたなら、早川は晶の剣幕に震え上がったかも知れないと晴也は思った。晶は眼鏡越しでも目力が強い。
ひと安心して食器を片づけると、スマートフォンが震えた。自分の会社に戻ったのだろうか、晶からのLINEだった。
「汐野商事にお邪魔して、崎岡さんと営業課の若い社員さんから、ハルさんが昨日ひどい目に遭い、今日休んでいることを聞きました。社内で後輩と早川の言動(ざまあみろ)が問題になっているようですね。」
「ハルさんが怒っているのはわかります。許してもらえるとも思っていません。でも少し落ち着いたら一言欲しいです。」
2つの吹き出しの中に目を通して、怒ってる訳じゃないんだが、と胸の内で突っ込んだ。ああでも、晶がどう受け止めようとも、結論は変わらないのだ。晴也はそのままスマートフォンをテーブルに置き、歯を磨くべく洗面所に向かった。……既読スルーって、されたら傷つくって皆言うけど、するほうだって苦しい時があるぞ。
ぽろりと零れた涙は、顔を洗って流してしまえばいいだけだった……少し無理があったが、晴也はそう思うことにした。
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