夜は異世界で舞う

穂祥 舞

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12 憂惧

3-2

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 晶は胡座あぐらや開脚で前屈するのも手伝ってくれて、晴也も何となく呼吸の使い方がわかって来た。
 晴也はストレッチを復習しながら、眼鏡を外した晶が、ルーチェのショーの振りを音楽に合わせてさらう様子を見学する。スマートフォンと繋げられた小さなスピーカーから流れるのは、変わったリズムの打楽器だけの曲である。晴也には曲自体がわからないくらいなのに、晶は聴き流してしまいそうな楽器の音の変化やアクセントにポーズを嵌めていく。
 左手で右の肩を抱き、右手を太腿に当てて腰でリズムを刻む、やたらにセクシーな晶を見て、水曜の踊りかなと晴也は思う。金曜もやってくれたらいいのにな。
 さっき晶がやっていたように、開脚して前屈し(これは割に前倒しになれた)、低い位置から晶を見るのも面白い。何でもないように右脚を横に上げ、下ろす勢いでくるりとターンする。客席から見ると軽い足許が、緻密に動いているのがよくわかる。

「あ……っと」

 晶は両腕を上げて手を組んだところで、動きを止めた。スマートフォンに手を伸ばして、音楽も止める。その時初めて、晴也が可笑しな格好で自分を見ているのに気づいたらしく、小さく笑った。

「ごめん、集中し過ぎた」
「いいよ、気にしないで」
「これだけ確認させて、タケルさんの振りが遠慮なく難しくて」

 苦笑する晶に、晴也も笑い返した。

「曲が難しそう、聴く分には何かわくわくして面白いけど」

 そう? と言いながら、晶は画像を見て振りを確認していた。タケルが自分の踊る動画を4人に送って、各々で確認するのだという。

「それでみんな仕上げてくるのか?」
「8割がたこれでいって、本番前のリハと、こないだのシング・シング・シングみたいに長くてややこしい曲はこういう場所を借りて合わせるんだ」

 晴也は身体を起こし、感心してふうん、と言った。それだけであんなに揃えられるものなのか。
 晶がすいと腕を上げ、続きを踊り始める。打楽器の音が厚みを増すと、彼の動きにも幅が増した。身体を大きく反らせながら前に脚を上げ、クライマックスを迎えようというところで、音が止まる。

「……後は一人一人違う動きがつきそうだからこれから、みたいな」

 晶に言われて、脚を揃えて座っていた晴也は、思わずえーっ、と言ってしまった。最後まで見たかったからだ。

「それは水曜の?」
「うん、太古の昔の神事の踊りをイメージしてて、腰蓑みたいなのつけようかって話してる」
「エキサイトするな、何だか」

 晴也の言葉に晶は笑顔になった。

「ハルさんがそう感じるならOKだ、洞窟の壁画にほぼ裸の人が踊ってるのとかあるだろ? ああいうイメージで行きたいんだって」

 タケルは面白いことを考えると思う。晶はやや熱っぽく続ける。

「鳴り物の音で人が踊るって、一番古い形の音楽とダンスで……それで神様に祈って、みんなトランス状態になるんだ」
「ダンサーって踊ってる時みんなトランス状態なんだろ?」
「俺はそんなことないぞ」
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