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11 風雪
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晴也はややタイトなロングスカートを身につけてみて、男の平たい尻ではあまり映えないことを知り、迷いはしたもののそれで出かけることにした。何せ寒いのだ。膝丈のスカートなんかでうろついたら、ショーの途中でトイレに行かなくてはならなくなる。
トップスのニットをふわっと腰に被せて、洗面所の鏡から離れ、できる限り身体を映す。ふと、メイクが淡すぎる気がして、口紅をあまり使わないローズ系に替えてみた。マスカラは、美智生に勧められて手に入れた濃いグリーンで。アイシャドウをこてこて塗らなくても目力が出る。
ちょっと大人のハルちゃんになった晴也は、厚めのタイツを履いた足をブーツの中に入れ、冷たい空気を鼻から吸い込みながら新宿に向かった。金曜にしては、道ゆく人が少ない気がする。皆真っ白な息を吐きながら、足早に歩いている。
「ハルちゃんおはよう、寒いなぁ」
美智生はボブのサイドの髪を揺らして晴也に言った。彼も今夜はブーツで、ヒールが低いと逆に階段が降りにくそうだった。
「寒いですね、今日来ないつもりだったんですか?」
晴也が訊くと、美智生はまあね、と笑った。
「明日実家に帰って両親に俺のこと話すんだよ、あまりはしゃぐ気になれなくてさ」
「……ミチルさんでもそうなんだ」
「難しい仕事より余程緊張するわ、でもショー観て気晴らしするほうがいい気もして」
店内はいつもの半分くらいしか席が埋まっていなかった。店員は大歓迎モードで、2人を広いテーブルに案内し、湯気の立った赤い飲み物と、マスタードを添えたウィンナーを出してくれた。特別サービスだという。
「グリューワインです、ドイツ通のタケルさんプロデュースです」
「ドイツ通なの? 初耳」
美智生は店員に突っ込んだ。彼はコートの下に、タートルネックのニットとシックなグレーのプリーツスカートを着ていた。可愛いという感じではないが、めぎつねでドレスを着ている時とは違う、隙のある色気を感じた。
「ミチルさん何でも似合っていいなぁ」
晴也が言うと、美智生はくすっと笑った。
「どうしても無理な服はあるだろうけど、着たければ自分を合わせて行くんだよ……たぶんそれって男も女も関係無い」
美智生らしいと晴也は思った。彼はホットワインをひと口飲んでから、続ける。
「似合うと信じて着てみる勇気もたまに要る」
かっこいいな。晴也は素直に憧れる。
いつもより店内が静かなせいか、いつになく落ち着いた雰囲気である。そんな中、晴也たちがいつも座る席に、外国人と日本人の2人の男性が座っていることに気づいた。あれがもしかして……美智生が晴也の目線の先を追う。
「えーっ、外国人まで観に来るようになったのか?」
「あの人たぶんショウさんの知り合いです」
晴也の言葉に美智生は目を見開く。
「あ、ナツミが言ってた人?」
「はい、観に来るってショウさんから聞きました」
「……まさかのドルフィン・ファイブ世界デビュー?」
そういうこともあり得るのだろうか? ふと晴也は、昨日からの自分のもやもやを言語化することに成功する。
もしあの人がショウに、ロンドンに戻ってくるよう声をかけたなら、ショウは受けるに違いない。……そして日本から、東京から、自分の元から去る。
トップスのニットをふわっと腰に被せて、洗面所の鏡から離れ、できる限り身体を映す。ふと、メイクが淡すぎる気がして、口紅をあまり使わないローズ系に替えてみた。マスカラは、美智生に勧められて手に入れた濃いグリーンで。アイシャドウをこてこて塗らなくても目力が出る。
ちょっと大人のハルちゃんになった晴也は、厚めのタイツを履いた足をブーツの中に入れ、冷たい空気を鼻から吸い込みながら新宿に向かった。金曜にしては、道ゆく人が少ない気がする。皆真っ白な息を吐きながら、足早に歩いている。
「ハルちゃんおはよう、寒いなぁ」
美智生はボブのサイドの髪を揺らして晴也に言った。彼も今夜はブーツで、ヒールが低いと逆に階段が降りにくそうだった。
「寒いですね、今日来ないつもりだったんですか?」
晴也が訊くと、美智生はまあね、と笑った。
「明日実家に帰って両親に俺のこと話すんだよ、あまりはしゃぐ気になれなくてさ」
「……ミチルさんでもそうなんだ」
「難しい仕事より余程緊張するわ、でもショー観て気晴らしするほうがいい気もして」
店内はいつもの半分くらいしか席が埋まっていなかった。店員は大歓迎モードで、2人を広いテーブルに案内し、湯気の立った赤い飲み物と、マスタードを添えたウィンナーを出してくれた。特別サービスだという。
「グリューワインです、ドイツ通のタケルさんプロデュースです」
「ドイツ通なの? 初耳」
美智生は店員に突っ込んだ。彼はコートの下に、タートルネックのニットとシックなグレーのプリーツスカートを着ていた。可愛いという感じではないが、めぎつねでドレスを着ている時とは違う、隙のある色気を感じた。
「ミチルさん何でも似合っていいなぁ」
晴也が言うと、美智生はくすっと笑った。
「どうしても無理な服はあるだろうけど、着たければ自分を合わせて行くんだよ……たぶんそれって男も女も関係無い」
美智生らしいと晴也は思った。彼はホットワインをひと口飲んでから、続ける。
「似合うと信じて着てみる勇気もたまに要る」
かっこいいな。晴也は素直に憧れる。
いつもより店内が静かなせいか、いつになく落ち着いた雰囲気である。そんな中、晴也たちがいつも座る席に、外国人と日本人の2人の男性が座っていることに気づいた。あれがもしかして……美智生が晴也の目線の先を追う。
「えーっ、外国人まで観に来るようになったのか?」
「あの人たぶんショウさんの知り合いです」
晴也の言葉に美智生は目を見開く。
「あ、ナツミが言ってた人?」
「はい、観に来るってショウさんから聞きました」
「……まさかのドルフィン・ファイブ世界デビュー?」
そういうこともあり得るのだろうか? ふと晴也は、昨日からの自分のもやもやを言語化することに成功する。
もしあの人がショウに、ロンドンに戻ってくるよう声をかけたなら、ショウは受けるに違いない。……そして日本から、東京から、自分の元から去る。
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