夜は異世界で舞う

穂祥 舞

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10 暴露

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「ひとつリクエストがあるとしたら」
「何? エロ過ぎないことなら」
「ハルさんから唇にチューして欲しいな……あっ」

 つい手に力が入り、晶が眉間にきゅっと皺を寄せる。エロい顔するなぁと思いながら、晴也は形の良い唇に、そっと口づけた。正面から顔を寄せるのは、考えてみると初めてで、照れくさかった。
 気持ち良くて数秒そのままじっとしてしまうと、唇を離すなり晶が言う。

「今もういきそうになったけど手は止めないで……」
「あ、ごめん」

 晶は手を動かす晴也の髪を優しく撫でる。やがてその呼吸が少し早くなってきて、不規則に声が洩れ始めた。

「あ……ハルさん……」

 言いながら抱きついてくるのが、何だか愛おしい。晴也の手の動きに合わせて小さく喘ぐ晶は、切なげに腰をよじった。

「ああ……っ、いきそう」

 晴也はティッシュを用意して、少し考えて言った。言ってもらって嬉しかったこと。

「いつでもいっていいよ」

 そして左手で黒い髪を撫でた。すると晶は、肩をびくんと震わせ、かすれた声を上げた。晴也の手の中で熱い棒が脈打ち、それを包んだ紙が濡れてくる。

「ハルさん、……ああ、大好き……」

 子どものように言って、胸に顔を埋めてくる晶が愛おしい。いかせてやれた満足感も相まって、胸がきゅんと締めつけられる。
 晶がしてくれたように、彼のものを丁寧に拭っていると、それさえ感じるらしくぴくぴくと震える。何かもう一回勃って来そうだなと、晴也は笑いそうになった。

「ハルさんにきれいにしてもらって、俺のちんこは幸せ者だ……」
「これは別人格なのか?」
「……のような気がすることない?」

 無いわ、と晴也は笑い、ティッシュを捨てて少しシーツを整える。

「よかった、笑ってくれた」

 晴也が晶と自分に布団を掛けようとすると、彼が言った。え? と思わず問う。

「さっきいっぱい泣かせたから……なのに帰ってしまわれたら俺が泣くとこだった、勝手だな」

 自分が幼稚なせいで、晶に不必要に気を遣わせている。晴也はぬくぬくした布団に包まれ、彼の存在を近しく感じれば感じるほど、申し訳なく思ってしまう。

「ごめん……あのさ、俺にそんな一生懸命にならないで、俺なんか」
「自分なんかって言葉は禁止、ハルさんが好きなのにあなたに一生懸命になったら駄目なのか?」

 何と答えたらいいのかわからない。晶はやや口調を弱める。

「俺もしかして重い?」

 ああ、ちょっとそうかも……でも嫌な訳ではない。戸惑う、のだ。
 晴也はやはり脳内に散らばる言葉を文章にできない。思うことは口にしたらいいと晶が言ってくれているのに、情けなかった。
 晴也は晶ににじり寄り、男らしく硬くて広い胸に抱きついた。背中に腕を回して、目を閉じる。めちゃくちゃ恥ずかしい、でも嫌なんじゃないって、これで伝わるなら。
 ハルさん、という声が、くっついている胸から聞こえた。そっと匂いを確かめてみたりする。

「ありがとう、あなたが俺を好きで拒んでないってのが今伝わってきてるかも」
「うん……そういうこと」

 ありがと、と晶はもう一度嬉しげに言う。感謝の言葉を素直に口にできる彼が羨ましい。

「……ショウさん」

 晴也は晶にくっついたまま、彼を見上げる。こんな近い距離から彼の顔を見ることに照れるが、確実に慣れて来ていた。

「うん、何?」
「俺のつまらないことでいつも煩わせてごめん、正直甘えてるかもしれない」

 晶は微笑しながら晴也を覗きこんでくる。

「煩わされてるとは思ってない、ハルさんに前を向いて歩いて欲しい俺の勝手なお節介なんだ」

 どうして俺なんかにそんな風に。ああ、これは言ってはいけないのだった。

「……ありがとう、ショウさんが……好きだ」

 少し使い方がおかしい気がした。でもその言葉が、今の気持ちを一番的確に表していると晴也は思う。
 晶は黙っていたが、晴也が頬をくっつけている辺りの温度が少し上がったように感じた。背中に置かれていた手が肩まで回ってきて、ぎゅっと晴也の身体を締めつける。脚に当たっていたものがまた熱を持ち始め、圧迫感を強めてきた。晴也は思わず言った。

「……おまえのちんこ正直過ぎないか?」
「本体ともども喜びに打ち震えております」

 嬉しいのか、身体も心も。変な奴だ。でも……。晴也もおかしな気持ちになっていた。
 確かに晶が好きだ。でも、こんなに愛おしくて、このまま彼の中に溶け込んでしまいたいとまで思うものなのだろうか? 自分自身よりも、彼のほうが大切に思えるような。
 晴也はじんわり曇ってきた視界に驚く。晶に心配されたくないので、何も言わずに静かに呼吸する。……好きな人に好きって言うのは、泣けるんだ。
 晶はこっそり涙をこぼす晴也に気づいていないのか、気づかないふりをしているのか、何も言わずに晴也を抱いて、たまに唇の先で額や頬に触れた。それが何とも言えず心地良くて、晴也はそっと瞼を閉じる。
 ああ、何かもう、毎晩こいつとこんな風に眠りたいな。いやらしいことは毎日でなくていいけれど、彼の温もりに溺れて、彼の存在をすぐそばに感じていたい。一緒に朝を迎えるのは、思った通り幸せだった。きっと明日の朝も幸せだろう。
 でも、毎日そんな風に朝も夜も過ごしたいと思うのは、やはり身に余る贅沢なことなのに違いなかった。少なくとも晴也にはそう感じられた。
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