夜は異世界で舞う

穂祥 舞

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10 暴露

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 晶はちんこちそうなどと口走りながら、晴也の背中を丁寧に流してくれた。至近距離で見ると、しっかり筋肉のついた晶の身体は迫力があって美しく、晴也は目のやり場に困ってしまう。
 ミルクの匂いのする入浴剤を浴槽に入れ、晴也は隅っこに小さくなって白濁した湯に身体を沈める。

「ここ来たら? ちんこ当たるけど」

 晶は脚の間に座るよう晴也に言うが、浴槽でバックハグなんて、一発でのぼせそうなので拒否する。

「……ハルさんの肌はきれいだなぁ、明るい場所で裸見るの、よく考えたら初めてだ」

 晶の顔が上気してとろけているのを見て、晴也のほうが気恥ずかしくなる。

「一緒に風呂に入ってくれる日が来るとは思わなかった」
「大袈裟だな」

 晴也は言いながら、これから起こるかもしれないことについて、やや不安に感じていた。
 男同士がどうやって愛を交わすのか、晴也も全く知らないわけではないが、少しネットで検索してみた。すると、尻の穴をほぐすといった行為を風呂ですることが多いと書かれていた。しかし晶はそんな素振りも見せず(彼と自分のどちらが穴を解すのかもよくわからないが)、普通に髪と身体を洗い、湯に浸かっている。

「どうしたの、お湯熱い?」

 晶に言われ、晴也は口籠る。

「いや、それは大丈夫、えーっと……」

 晴也がお湯のせいでなく頬を赤くするのを見て、晶はにやにやと笑う。

「……俺とセックスしないんじゃないの?」
「ふあっ⁉ 何の話だよ、それは……」

 何か読まれたのか? 晴也は狭い浴槽で、晶に背中を向けようとした。

「えっ、後ろ解してくれアピール?」
「わああっ、違うわ馬鹿野郎!」

 全否定したものの、気になって仕方がない。晴也は恥を忍び、思いきって訊いてみる。

「あの、ショウさん、仮にだぞ、俺とおまえの場合……ショウさんはタチなんだよな、俺がその……受け入れることになるのか?」

 晴也は晶の顔を見ずに言った。くすくす笑う声がした。

「俺の希望としてはそうだけど、ハルさんが童貞を捨てたいってことなら手伝うよ」
「……え?」
「俺反対の経験もあるから」

 そんな晶にもビビるが、男相手に脱童貞というのは、どうなのか。晴也は混乱してきた。

「心配しないで、いきなりはしないから……ハルさんは肌の触れ合いにも慣れてない、そこからゆっくり進んだら、そのうち繋がりたいって思うようになるし……」
「いやいや、仮の話だよ、あくまでも仮っ!」

 諭されかけている自分に気づき、晴也は半ば叫んでしまう。晶は笑った。

「じゃあ一般論を語ろう、入れるだけがセックスじゃないと俺は思ってるんだけど」

 ふうん、と晴也は小さく言った。

「日本人の性教育が貧しいせいなんだろうな、同性相手でも異性相手でもさ、入れていくのが至上目標だと思ってる人が多い」
「イギリスはそうじゃないの?」
「イギリスとか……ドイツやアメリカでは前戯が大切だから、男同士でも手や口でガンガンいっちゃう人もいる」

 そうなのか。晴也は何故か感心する。

「……だからさ、ハルさんには悪いけど、クリスマスの夜に俺たちがしたことは……俺の中では立派にセックスなんだよね」

 晶の言葉に、晴也は思わず彼のほうを見る。彼はやけに無邪気な笑みを浮かべていた。

「ハルさんは紛うことなく俺の恋人だ」
「あ、あの……はあ……」
「ハルさんだって多少そう思ってくれてるから、こんな話をしてるんだと受け止めてる」

 そんな風に言われて、不思議と不快にはならなかった。恋人。ありきたりなのに、くすぐったい言葉だと晴也は照れた。俺はこいつを恋人だと思っているのだろうか?
……でも確かに、恋人でない奴とは、キスしないよな……。



 童貞処女教育担当のダンサーは、ベッドに入る時に、服を脱ぐように指示してきた。晴也はベッドに腰掛けたまま、固まる。

「そんなに怖がらないで、上だけでいい……たぶん気持ちいいよ」

 晶は言って、躊躇ためらいもなく上半身裸になり、ぐずぐずする晴也から服を引き剥がしてしまう。晴也は無意味に身体の前で腕を交差させた。

「電気消せ! 見るな!」
「はいはい」

 明かりが落ちると、晶が腕を伸ばしてきて、晴也の身体を優しく包んだ。彼の鎖骨に頬をつける形になり、その肌の感触に、ぴくっと肩が震えた。
 ほんとだ。直接人肌に触れる心地良さに、晴也はどきどきする。温もりがじかに伝わり、とにかくすべすべして気持ちいい。そのまま優しく横たえられ、肩まで布団が引き上げられた。
 晴也は手をそっと晶の背中に回す。しっかりしているのに、何処か柔らかい筋肉に触れると、胸の中で彼への愛おしさがぷわっと膨らんだ。

「気持ちいいだろ?」
「うん、……気持ちいい」

 入浴剤の匂いの中に混じる、晶の肌の匂いを確かめて、晴也はうっとりとなってしまう。ああ駄目だ、これ気持ち良過ぎる。心臓の動きが早まり、思わず深呼吸する。そのはずみで、晶の鎖骨の下に唇が触れて、彼の身体がわずかに震えた。お返しをするように、こめかみに熱いものが押しつけられる。
 こういうのが、恋人同士がすることなのか。晴也は理性を手繰り寄せるように、考えてみる。何か考えごとをしていないと、何処かのネジが飛びそうだ。
 自分のものでない鼓動を感じると、それだけで頭の中がふやけそうになった。それでつい、晶に話しかけてしまう。
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