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10 暴露
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めぎつねの仕事始めには、晴也が思っていたよりも随分たくさんの客が訪れた。女装男子たちは流石に振袖は着なかったものの、お正月らしく華やいだ衣装で接客し、お年玉と称して客にドリンク券と饅頭を渡した。
仲良しの藤田と牧野もやって来て、ルーチェのクリスマスショーの動画の話をしていた。行けなかったのは一生の不覚だと、2人は口を揃えた。
「だから明後日は予約したわよ」
「楽しみだよねー、ほんと」
晴也は美智生と彼女らのテーブルに侍っていた。彼女たちにも口裏を合わせて貰おうと思う。
「妹を連れて行きたいんだけど……」
晴也の申し出に、藤田と牧野はおおっ? と何故か楽しげに言い、身を乗り出してくる。
「ハルちゃんが女装バーにお勤めしてることさえバレなければいいの?」
藤田に言われて、晴也ははい、と答える。
「知らんぷりも不自然だしね、ルーチェで顔を合わせる人って感じがスマートかな?」
牧野も続ける。美智生が苦笑した。
「もういっそ正直に言っちゃえば? 後々楽だと思うけどなぁ」
晴也は首を振る。駄目だ、明里が肯定的に受け止めてくれる保証が無い。ミチルさんに賛成、と藤田が手を挙げる。
「ルーチェにハルちゃんが通ってるってわかった時点でね、妹さん何が起きてもおかしくないと思ってらっしゃるかも」
「それどういう意味よ? 男性ストリップもやってる店がいかがわしい的な?」
美智生の声に藤田は説明する。
「そう、私たち月2回は新宿2丁目で飲んでるって言ったらそれだけでドン引きする人会社にいるもん」
「そうなのよ、ホストクラブで散財してるって誤解されるの、健全なバーや明るいショーパブなのにねぇ」
牧野の相槌を聞きながら、晴也はあり得るなぁと思ってしまう。自分だってめぎつねで働き始めるまでは、この界隈はぼったくられる魔窟だと思っていた。
「いろいろ変に打ち合わせしたら何処かでぼろが出るからさ、基本隠しつつ流れに任せようよ」
美智生は晴也の後頭部を撫でながら言う。晶とは違った意味で何となく嬉しい。牧野が水割り片手に美智生に訊く。
「ミチルさんは家族に話してるの? この仕事のこと」
「俺姉が2人いるんだけどさ、下の姉が家族と喧嘩して飛び出して俺の部屋に来たことがあって……クローゼット開けられてバレた」
2人はヤバいと言いながら笑った。
「それでそれで?」
「数が多すぎて彼女の服だともごまかせなくて、ゲイだってことと一緒に正直にゲロしたよぉ」
初めショックを受けて黙り込んだ姉は、一晩泊まって話をするうち、納得したという。彼女が一番上の姉にも弟の性的指向と趣味について話し、美智生が両親に話すタイミングを伺っている最中らしい。
「わー、じゃあハルちゃんの話もミチルさんにはタイムリーな感じ?」
「そうそう、人の話を聞いても女きょうだいは割と冷静で心が広い感じがするな」
晶も姉は受け入れてくれていると言っていた。ただ晴也は、義兄には知られたくないので光枝には話せない。
「妹にダンスは見せてやりたいんだけど、不安しかない……」
晴也が眉の裾を下げて言うのを見て、3人が笑う。
「ハルちゃんはどちらかというと悲観的なの?」
「たぶん、昨日もそう言われたとこ」
「誰から?」
「ショウさん」
言って晴也は口が滑ったと思った。晶がサラリーマンの時にも会っているというのは、未だに誰にも話していない。
「妹連れてくからめぎつねの話はしないでってLINEしてたんです」
晴也の言葉に藤田と牧野は目を丸くし、美智生は小さく笑った。
「ショウさんにそんな話する関係なんだ」
「ハルちゃんは彼と交際中だよ」
美智生の言葉に2人がえっ! と叫び、晴也は焦る。
「ハルちゃんノンケなんでしょ? ショウさんはゲイなの?」
「そういうのを軽く超えてんのよ2人は」
「違う、交際じゃないですから!」
美智生が際どいかわし方をするので、晴也が振り回された。ハルちゃん赤くなってるぅ、と藤田が手を叩く。牧野も嵩にかかってくる。
「私たち今ハルちゃんが同性愛に目覚めた瞬間を目撃してるの?」
「だから違うって……」
なすすべなく晴也は顔を手で覆う。3人は楽しげに囃し立てた。久しぶりに店でおもちゃにされたが、晴也は困惑はしても、不思議と嫌な感じはしなかった。こうして笑いを取ることもホステスの役目だと思うのもあるが、晶の話をしていると、それだけで何となく楽しいのだった。
結局綿密な打ち合わせはできなかったが、意識しておいて貰えるだけでいいかと、晴也もようやく思えるようになった。とは言え流石に、女装して行こうという美智生の提案には、首を縦に振れなかった。
仲良しの藤田と牧野もやって来て、ルーチェのクリスマスショーの動画の話をしていた。行けなかったのは一生の不覚だと、2人は口を揃えた。
「だから明後日は予約したわよ」
「楽しみだよねー、ほんと」
晴也は美智生と彼女らのテーブルに侍っていた。彼女たちにも口裏を合わせて貰おうと思う。
「妹を連れて行きたいんだけど……」
晴也の申し出に、藤田と牧野はおおっ? と何故か楽しげに言い、身を乗り出してくる。
「ハルちゃんが女装バーにお勤めしてることさえバレなければいいの?」
藤田に言われて、晴也ははい、と答える。
「知らんぷりも不自然だしね、ルーチェで顔を合わせる人って感じがスマートかな?」
牧野も続ける。美智生が苦笑した。
「もういっそ正直に言っちゃえば? 後々楽だと思うけどなぁ」
晴也は首を振る。駄目だ、明里が肯定的に受け止めてくれる保証が無い。ミチルさんに賛成、と藤田が手を挙げる。
「ルーチェにハルちゃんが通ってるってわかった時点でね、妹さん何が起きてもおかしくないと思ってらっしゃるかも」
「それどういう意味よ? 男性ストリップもやってる店がいかがわしい的な?」
美智生の声に藤田は説明する。
「そう、私たち月2回は新宿2丁目で飲んでるって言ったらそれだけでドン引きする人会社にいるもん」
「そうなのよ、ホストクラブで散財してるって誤解されるの、健全なバーや明るいショーパブなのにねぇ」
牧野の相槌を聞きながら、晴也はあり得るなぁと思ってしまう。自分だってめぎつねで働き始めるまでは、この界隈はぼったくられる魔窟だと思っていた。
「いろいろ変に打ち合わせしたら何処かでぼろが出るからさ、基本隠しつつ流れに任せようよ」
美智生は晴也の後頭部を撫でながら言う。晶とは違った意味で何となく嬉しい。牧野が水割り片手に美智生に訊く。
「ミチルさんは家族に話してるの? この仕事のこと」
「俺姉が2人いるんだけどさ、下の姉が家族と喧嘩して飛び出して俺の部屋に来たことがあって……クローゼット開けられてバレた」
2人はヤバいと言いながら笑った。
「それでそれで?」
「数が多すぎて彼女の服だともごまかせなくて、ゲイだってことと一緒に正直にゲロしたよぉ」
初めショックを受けて黙り込んだ姉は、一晩泊まって話をするうち、納得したという。彼女が一番上の姉にも弟の性的指向と趣味について話し、美智生が両親に話すタイミングを伺っている最中らしい。
「わー、じゃあハルちゃんの話もミチルさんにはタイムリーな感じ?」
「そうそう、人の話を聞いても女きょうだいは割と冷静で心が広い感じがするな」
晶も姉は受け入れてくれていると言っていた。ただ晴也は、義兄には知られたくないので光枝には話せない。
「妹にダンスは見せてやりたいんだけど、不安しかない……」
晴也が眉の裾を下げて言うのを見て、3人が笑う。
「ハルちゃんはどちらかというと悲観的なの?」
「たぶん、昨日もそう言われたとこ」
「誰から?」
「ショウさん」
言って晴也は口が滑ったと思った。晶がサラリーマンの時にも会っているというのは、未だに誰にも話していない。
「妹連れてくからめぎつねの話はしないでってLINEしてたんです」
晴也の言葉に藤田と牧野は目を丸くし、美智生は小さく笑った。
「ショウさんにそんな話する関係なんだ」
「ハルちゃんは彼と交際中だよ」
美智生の言葉に2人がえっ! と叫び、晴也は焦る。
「ハルちゃんノンケなんでしょ? ショウさんはゲイなの?」
「そういうのを軽く超えてんのよ2人は」
「違う、交際じゃないですから!」
美智生が際どいかわし方をするので、晴也が振り回された。ハルちゃん赤くなってるぅ、と藤田が手を叩く。牧野も嵩にかかってくる。
「私たち今ハルちゃんが同性愛に目覚めた瞬間を目撃してるの?」
「だから違うって……」
なすすべなく晴也は顔を手で覆う。3人は楽しげに囃し立てた。久しぶりに店でおもちゃにされたが、晴也は困惑はしても、不思議と嫌な感じはしなかった。こうして笑いを取ることもホステスの役目だと思うのもあるが、晶の話をしていると、それだけで何となく楽しいのだった。
結局綿密な打ち合わせはできなかったが、意識しておいて貰えるだけでいいかと、晴也もようやく思えるようになった。とは言え流石に、女装して行こうという美智生の提案には、首を縦に振れなかった。
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