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9 結花
ショウのお正月②
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スマートフォンの写真フォルダを開き、化粧中に鏡に向かって真剣な顔をしている晴也の写真を鞠に見せる。美智生がめぎつねで撮ってくれたものだ。
「女の子じゃない、バイに方向転換したの?」
「姉貴と同いの男だよ、女装バーで副業してるんだ、ノンケだけど」
「えっ、きれいな人ねぇ……さっすが新宿だね、いろんな人と知り合うんだ」
鞠は全てに感心している様子だった。
「彼の店と俺が世話になってるショーパブが近所なんだ」
「ほおぉ、そんでこの子、ノンケなのにあんたとつき合うって?」
「……ということをたぶん承諾してくれたと思う」
鞠はにやにやしながら頑張れ、と言った。
「帰国してから初めての彼氏でしょ、あんたがそんな気になれただけでシャンペン開封ものじゃない? ……ちょっとエミリに似てる?」
流石姉は目敏かった。晶は苦笑した。
「ぶっちゃけ最初はそれで気を引かれた、でもたぶん彼はエミリよりずっと強い……自己卑下する傾向があるけど」
そっかそっか、と鞠は楽しげに言い、立ち上がってコンポに向かった。晶はバーに戻り、脚を乗せ直す。身体を折ったり反らせたりしながら、あの日の晴也のことを思い起こす。晶の挑発を受けて立ち、やり抜いてみせた。見事な女子ぶりだった。
あの夜晴也との間で起こったことを反芻すれば、毎日自慰しても半年は保ちそうだ。彼は暗い部屋でもわかるくらい顔を赤らめて、恥ずかしいと涙ぐみながら少しずつ身体を許して、可愛い声で鳴いてくれた。自分の腕の中でぴくぴくしながら昇りつめた様子は、これまで交際した全ての男女とのセックスの記憶を上書き……いや、破壊しそうだった。
おかしな話だが、晴也のズボンを下ろしてぴょこんと元気なものが飛び出した時、男だったとほっとした。彼はシャンプーや化粧品を詰め替え容器で全て持参していて、風呂から上がると女の子のように甘い匂いを纏っていたからだ。
どうも晴也は性に対して、悪い意味で日本人っぽく罪の意識が強いようだ。手を噛んで声を抑えようとするなんて、いつの時代のどこのお嬢様かと思う。まあそんなところも可愛いのだが、自傷させないためにも、セックスを楽しむことを教えなくては。
そのくせ大胆に、背中から抱きついてキスしてきたり……あれにはやられた。彼の手や唇の感触は理性を吹き飛ばす。やはり晴也は矛盾だらけだ。
鞠はショパンに合わせて見たことのない踊りをしていた。創作バレエだろうか。彼女は海外のバレエコンクールに入選した経験もある優秀なダンサーだ。こうして踊ると、技術の高さや正確さはやはり抜きん出ている。しかしプリンシパルとしては求められなかったため、悩んだ末にキャラクターに転向したのだった。
諦めた先で輝ける場所を掴んだ姉や、プライドを賭けて女子として振る舞い抜いた晴也を見ていると、膝を怪我して拗ねていた自分が恥ずかしくなる。手術後の経過は順調で、元通りでなくても大概のダンスは踊れる。晴也を含めて、自分のダンスが好きだと言ってくれる人たちも沢山いる。今の自分でいいのではないか?
嘘じゃないと晴也は言った。好きだと遂に口にしてくれた。あれ以来会う時間が持てないままお互いに帰省して、相変わらず淡々としたLINEのやり取りをしているだけなので、晶はすっかり晴也不足である。とりあえず電話して声を聞こうか。本当は腕に囲い込んで、顔じゅうにキスしたいところだが。
晶はバーから離れ、床に座って開脚し、べったり前屈する。このレッスン場の床が好きで、こうしていると安らぐ。晴也がプレゼントしてくれた肌触りの良いタオルを顔の下に敷いて目を閉じる。鞠のバレエシューズが床に擦れる音が伝わってくる。
ハルさん。次はいつ泊まりに来てくれる? あなたが好きなものを全部揃えて待つから。お香を買い足し、お酒を選んで、あとは……。おそらくそこに自分が居れば晴也には事足りるなどとは、夢にも思わない晶だった。
「女の子じゃない、バイに方向転換したの?」
「姉貴と同いの男だよ、女装バーで副業してるんだ、ノンケだけど」
「えっ、きれいな人ねぇ……さっすが新宿だね、いろんな人と知り合うんだ」
鞠は全てに感心している様子だった。
「彼の店と俺が世話になってるショーパブが近所なんだ」
「ほおぉ、そんでこの子、ノンケなのにあんたとつき合うって?」
「……ということをたぶん承諾してくれたと思う」
鞠はにやにやしながら頑張れ、と言った。
「帰国してから初めての彼氏でしょ、あんたがそんな気になれただけでシャンペン開封ものじゃない? ……ちょっとエミリに似てる?」
流石姉は目敏かった。晶は苦笑した。
「ぶっちゃけ最初はそれで気を引かれた、でもたぶん彼はエミリよりずっと強い……自己卑下する傾向があるけど」
そっかそっか、と鞠は楽しげに言い、立ち上がってコンポに向かった。晶はバーに戻り、脚を乗せ直す。身体を折ったり反らせたりしながら、あの日の晴也のことを思い起こす。晶の挑発を受けて立ち、やり抜いてみせた。見事な女子ぶりだった。
あの夜晴也との間で起こったことを反芻すれば、毎日自慰しても半年は保ちそうだ。彼は暗い部屋でもわかるくらい顔を赤らめて、恥ずかしいと涙ぐみながら少しずつ身体を許して、可愛い声で鳴いてくれた。自分の腕の中でぴくぴくしながら昇りつめた様子は、これまで交際した全ての男女とのセックスの記憶を上書き……いや、破壊しそうだった。
おかしな話だが、晴也のズボンを下ろしてぴょこんと元気なものが飛び出した時、男だったとほっとした。彼はシャンプーや化粧品を詰め替え容器で全て持参していて、風呂から上がると女の子のように甘い匂いを纏っていたからだ。
どうも晴也は性に対して、悪い意味で日本人っぽく罪の意識が強いようだ。手を噛んで声を抑えようとするなんて、いつの時代のどこのお嬢様かと思う。まあそんなところも可愛いのだが、自傷させないためにも、セックスを楽しむことを教えなくては。
そのくせ大胆に、背中から抱きついてキスしてきたり……あれにはやられた。彼の手や唇の感触は理性を吹き飛ばす。やはり晴也は矛盾だらけだ。
鞠はショパンに合わせて見たことのない踊りをしていた。創作バレエだろうか。彼女は海外のバレエコンクールに入選した経験もある優秀なダンサーだ。こうして踊ると、技術の高さや正確さはやはり抜きん出ている。しかしプリンシパルとしては求められなかったため、悩んだ末にキャラクターに転向したのだった。
諦めた先で輝ける場所を掴んだ姉や、プライドを賭けて女子として振る舞い抜いた晴也を見ていると、膝を怪我して拗ねていた自分が恥ずかしくなる。手術後の経過は順調で、元通りでなくても大概のダンスは踊れる。晴也を含めて、自分のダンスが好きだと言ってくれる人たちも沢山いる。今の自分でいいのではないか?
嘘じゃないと晴也は言った。好きだと遂に口にしてくれた。あれ以来会う時間が持てないままお互いに帰省して、相変わらず淡々としたLINEのやり取りをしているだけなので、晶はすっかり晴也不足である。とりあえず電話して声を聞こうか。本当は腕に囲い込んで、顔じゅうにキスしたいところだが。
晶はバーから離れ、床に座って開脚し、べったり前屈する。このレッスン場の床が好きで、こうしていると安らぐ。晴也がプレゼントしてくれた肌触りの良いタオルを顔の下に敷いて目を閉じる。鞠のバレエシューズが床に擦れる音が伝わってくる。
ハルさん。次はいつ泊まりに来てくれる? あなたが好きなものを全部揃えて待つから。お香を買い足し、お酒を選んで、あとは……。おそらくそこに自分が居れば晴也には事足りるなどとは、夢にも思わない晶だった。
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