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8 作興
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晴也は初めてではないのに、鍛え上げられた男たちの身体を見ながら、照れてしまう。ダンサーたちは気合いを入れているのか、いつにも増して髪の色が派手になっていて、金髪のユウヤと真っ赤な髪のサトルに挟まれたショウの黒い髪が、逆に色気が匂い立つようだった。
最初から感じたことだが、ショウは場面転換が上手で、あっという間にキャラクターを変えて踊る。敬虔な聖歌隊から無邪気なサンタ、そして全身で蠱惑を放つストリップダンサーへ。元々独特の色っぼさがあるが、観客は彼の変貌に幻惑されるのだ。彼の脚にテーピングなどが無いことに、晴也は心の片隅でほっとする。
「All I want for Christmas……is you!」
男たちは黒いパンツ一枚の姿で、客席に流し目を送りながら、歌に合わせて誘うように、掌を上にして右腕を伸ばした。きゃあきゃあ言いながら手を振り返す女たちがいて、晴也は笑ってしまう。
「やばい、心の準備が無かったから鼻血出そう!」
「まさかマライア・キャリーでストリップを観ることになるとは……」
美智生の興奮を横目で見ながら、晴也は呟いた。音楽はフェイドアウトし、5人が舞台の中央に固まり、筋肉の美しい背中越しに客席を見返るポーズをとると、大きな拍手や口笛が鳴り響いた。
「ああ、エロい……」
美智生はとろんとした目になって言った。ユウヤが笑顔でマイクを取り挨拶をすると、再び拍手が湧く。
「本日はクリスマスイブだというのに、こんなところにむさ苦しいダンスを観に来てくださり、皆様ありがとうございます!」
今夜はメンバー紹介の時、1人ずつが挨拶をした。マキが大晦日に、紅白歌合戦に出場するある歌手のバックダンサーを務める話題に会場が湧いた。
「ちょっとどなたかをお伝えすることが出来ないんですが……」
「ということは、最初から最後まで紅白に張りついてマキを探せと?」
ユウヤの突っ込みに笑いが起こる。サトルが前に出て、マキが床に脱ぎ捨てられたガウンを拾いながら袖に引っ込む。
「来年の東宝劇場の『レ・ミゼラブル』に出演が決まりました、あ、メインキャストじゃないですけど」
おおっ、とどよめき拍手が起こる。
「本当におめでとう、サトルくんさっきから何か恥ずかしがってる?」
「あ、いや、水曜とお客様の顔ぶれが違うのでちょっと……」
可愛い、という声が客席からかかり、笑いが会場を包む。
「私とタケルさんとショウの年寄り組は麻痺してますけど、若い子たちはこのカッコ、かなり恥ずかしいですよ、真面目な話」
確かに。晴也は納得する。何事も修行である。
サンタ服を回収するサトルを少し待ち、タケルが丁寧に挨拶する。
「私は宣伝するネタはございませんが、春に専門や大学で卒業公演をする教え子たちの舞台とか観に行ってやって欲しいです」
素敵だなと晴也は思う。拍手で賛同を示す。
「本日のプログラムは9月までに頂戴したリクエストを元にしてクリスマス仕立てにしてみました、もう私酸欠になりそうです」
「キツい振り付けしてるのタケルさんですから」
ユウヤに言われてタケルは客と一緒に笑った。
「先ほどのは歌を聴いてみたい、というリクエストと……結構毎月あったのですが、ストリップを見たいという……」
タケルの苦笑に拍手が起きた。
「キャロルの後に脱ぐなどという冒瀆的なセトリを出したのはショウです、この人こういうのほんと好きで、よくそんなエロいことを思いつくなぁと」
ショウは顔の前で違うと言いたげに手を振る。忍び笑いが客席に漂った。
タケルが袖に引っ込んで、ショウが頭をぺこりと下げる。
「先週お越しくださったかたはご承知のように、ショウはやらかしてしまいましたので、これから本人が釈明します」
ユウヤの説明に苦笑しながらショウがマイクを受け取る。
「先週私がぼんやりしていて、サトルと正面衝突しかけました……足を捻り、おまけに風邪で寝込んだことで皆様にはご心配をかけました」
客席から励ますような拍手が起きた。
「ルーチェを通してお見舞いやメッセージを沢山いただき、本当にありがとうございます」
常連のお姉様たちが後方からショウくん、と声をかける。彼は深々と頭を下げた。特別な言葉でなくとも、彼がファンの気持ちに心から感謝していることが伝わってくる。晴也はちょっと胸をじんとさせていた。
ショウは舞台の前方に置かれた5本の白いキャンドルを片づけ始めたが、ほぼ裸の男がロウソクを集める変にエロチックな様子に目が行く客が多かったらしく、それに気づいたユウヤがくすくす笑った。ロウソクを抱えたショウが客席に思わずといった風情で話しかける。
「どうかしました?」
「いや、ショウがそのカッコでロウソク回収するのエロいみたい」
ユウヤに言われたショウは、客席にじっとりとした視線を送ってふふっと笑ってから、小走りで袖に入って行った。笑いとショウさん、という黄色い声が彼を追いかける。
「あの人たぶんここで踊り始めてエロさが出て来たんですよねぇ」
ユウヤの言葉に笑いが出て、美智生が小さく確かに、と同意した。
「そうなんですか?」
「俺がここに通い始めたのが2年ほど前で、その頃ショウはメンバー交代で入ったばかりだったんだよ……綺麗で気持ちいいダンスなんだけどあまり印象に残らなかった」
ユウヤは私も特に宣伝することは無いです、と冗談めかして言い、挨拶を締める。
「それでは本日のショーが皆様のクリスマスを彩ることができますよう、メンバー一同精一杯務めさせていただきます!」
最初から感じたことだが、ショウは場面転換が上手で、あっという間にキャラクターを変えて踊る。敬虔な聖歌隊から無邪気なサンタ、そして全身で蠱惑を放つストリップダンサーへ。元々独特の色っぼさがあるが、観客は彼の変貌に幻惑されるのだ。彼の脚にテーピングなどが無いことに、晴也は心の片隅でほっとする。
「All I want for Christmas……is you!」
男たちは黒いパンツ一枚の姿で、客席に流し目を送りながら、歌に合わせて誘うように、掌を上にして右腕を伸ばした。きゃあきゃあ言いながら手を振り返す女たちがいて、晴也は笑ってしまう。
「やばい、心の準備が無かったから鼻血出そう!」
「まさかマライア・キャリーでストリップを観ることになるとは……」
美智生の興奮を横目で見ながら、晴也は呟いた。音楽はフェイドアウトし、5人が舞台の中央に固まり、筋肉の美しい背中越しに客席を見返るポーズをとると、大きな拍手や口笛が鳴り響いた。
「ああ、エロい……」
美智生はとろんとした目になって言った。ユウヤが笑顔でマイクを取り挨拶をすると、再び拍手が湧く。
「本日はクリスマスイブだというのに、こんなところにむさ苦しいダンスを観に来てくださり、皆様ありがとうございます!」
今夜はメンバー紹介の時、1人ずつが挨拶をした。マキが大晦日に、紅白歌合戦に出場するある歌手のバックダンサーを務める話題に会場が湧いた。
「ちょっとどなたかをお伝えすることが出来ないんですが……」
「ということは、最初から最後まで紅白に張りついてマキを探せと?」
ユウヤの突っ込みに笑いが起こる。サトルが前に出て、マキが床に脱ぎ捨てられたガウンを拾いながら袖に引っ込む。
「来年の東宝劇場の『レ・ミゼラブル』に出演が決まりました、あ、メインキャストじゃないですけど」
おおっ、とどよめき拍手が起こる。
「本当におめでとう、サトルくんさっきから何か恥ずかしがってる?」
「あ、いや、水曜とお客様の顔ぶれが違うのでちょっと……」
可愛い、という声が客席からかかり、笑いが会場を包む。
「私とタケルさんとショウの年寄り組は麻痺してますけど、若い子たちはこのカッコ、かなり恥ずかしいですよ、真面目な話」
確かに。晴也は納得する。何事も修行である。
サンタ服を回収するサトルを少し待ち、タケルが丁寧に挨拶する。
「私は宣伝するネタはございませんが、春に専門や大学で卒業公演をする教え子たちの舞台とか観に行ってやって欲しいです」
素敵だなと晴也は思う。拍手で賛同を示す。
「本日のプログラムは9月までに頂戴したリクエストを元にしてクリスマス仕立てにしてみました、もう私酸欠になりそうです」
「キツい振り付けしてるのタケルさんですから」
ユウヤに言われてタケルは客と一緒に笑った。
「先ほどのは歌を聴いてみたい、というリクエストと……結構毎月あったのですが、ストリップを見たいという……」
タケルの苦笑に拍手が起きた。
「キャロルの後に脱ぐなどという冒瀆的なセトリを出したのはショウです、この人こういうのほんと好きで、よくそんなエロいことを思いつくなぁと」
ショウは顔の前で違うと言いたげに手を振る。忍び笑いが客席に漂った。
タケルが袖に引っ込んで、ショウが頭をぺこりと下げる。
「先週お越しくださったかたはご承知のように、ショウはやらかしてしまいましたので、これから本人が釈明します」
ユウヤの説明に苦笑しながらショウがマイクを受け取る。
「先週私がぼんやりしていて、サトルと正面衝突しかけました……足を捻り、おまけに風邪で寝込んだことで皆様にはご心配をかけました」
客席から励ますような拍手が起きた。
「ルーチェを通してお見舞いやメッセージを沢山いただき、本当にありがとうございます」
常連のお姉様たちが後方からショウくん、と声をかける。彼は深々と頭を下げた。特別な言葉でなくとも、彼がファンの気持ちに心から感謝していることが伝わってくる。晴也はちょっと胸をじんとさせていた。
ショウは舞台の前方に置かれた5本の白いキャンドルを片づけ始めたが、ほぼ裸の男がロウソクを集める変にエロチックな様子に目が行く客が多かったらしく、それに気づいたユウヤがくすくす笑った。ロウソクを抱えたショウが客席に思わずといった風情で話しかける。
「どうかしました?」
「いや、ショウがそのカッコでロウソク回収するのエロいみたい」
ユウヤに言われたショウは、客席にじっとりとした視線を送ってふふっと笑ってから、小走りで袖に入って行った。笑いとショウさん、という黄色い声が彼を追いかける。
「あの人たぶんここで踊り始めてエロさが出て来たんですよねぇ」
ユウヤの言葉に笑いが出て、美智生が小さく確かに、と同意した。
「そうなんですか?」
「俺がここに通い始めたのが2年ほど前で、その頃ショウはメンバー交代で入ったばかりだったんだよ……綺麗で気持ちいいダンスなんだけどあまり印象に残らなかった」
ユウヤは私も特に宣伝することは無いです、と冗談めかして言い、挨拶を締める。
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