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7 萌芽
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晴也が浴槽に湯を張ってのんびり肌の手入れをしている間に、美智生からLINEが5通も来ていた。彼は今日ルーチェに行った筈で、今頃帰宅途中ではないかと晴也は首を傾げた。
風呂で腕の毛を剃ったので、化粧水をコットンにたっぷり含ませて、手首からはたく。スマートフォンの画面をスワイプして、美智生のメッセージを読み、晴也はコットンをはたく手を止めた。心臓がどくん、と鳴った。
「遅くにごめん、報告しとく。ショウが具合が良くないのに無理したみたいで、ラストの曲で振りを間違えたらしい」
「それでサトルと接触しかけて、どっちも転倒はしなかったんだけど、」
「ショウたぶん右足痛めたんじゃないかな、挨拶の時に少し引きずってた。」
「舞台の後に客席にも降りて来なくて、お客さんみんな心配して。俺もまだユウヤにもショウにもLINEしてない、しづらいわ」
「ハルちゃんちょっとショウに連絡取ってやれない? 俺から聞いたって言えばいいから」
晴也は動揺した。明里から聞かされた言葉が脳裏をよぎる。ショウは怪我したんだよ。
でも何て言えばいいんだ。ダンサーが怪我をするというのがどれだけ重大なことなのかくらいは、晴也にだって想像できた。足を痛めたのかなんて、訊けない。晴也はコットンをゴミ箱に放りこみ、スウェットの袖を捲り上げたまま考える。
そもそも晶の調子が悪くなったのは、晴也の面倒に関わったせいではないのか。ならば自分にも責任がある。晴也はまず、体調を伺うことにする。
「こんばんは、ミチルさんから今夜の舞台は調子が良くないようだったと聞きました。大丈夫ですか?」
いつもレスの早い晶なのに、既読にもならない。連投しても仕方ないので、晴也は肌の手入れを手早く済ませ、そわそわしながら髪にドライヤーを当てた。
ペットボトルの水とスマートフォンを持ってベッドに腰を下ろし、コードを挿してスマートフォンを充電する。水に口をつけた時、スマートフォンが震えた。
「こんばんは、ちょっと集中できなくて振りをミスりました。ショック(泣)。熱があるようなので、すぐに店を出てタクシーで戻ったところです」
生きてた。晴也は胸を撫でおろす。
「明日の午前中にちゃんと病院へ行ってください」
晴也は昨日と同じことを念押しする。昼間の仕事も年末で忙しいだろうに、病院で処方された薬をしっかり飲んだ方がいい。
「ハルさんがついてきてくれるなら行きます」
ふざけた返事に、晴也ははぁっ? と一人で呟いた。乱暴に返信する。
「くだらないこと言ってないでとっとと寝ろバカ」
「いや冗談抜きで冷蔵庫が空っぽで、餓死しそうです。何か買って持ってきてくれたら喜びます」
どういうことなのかよくわからないが、嘘でも行くとレスしなければ、寝てくれなさそうだ。晴也はイラつきながら指を動かす。
「では12時に買い物を持っていくので、明日の朝、要るものを連絡の上、病院に行くように。もし病院に行っていない場合、買ったものは私が回収します。餓死するなり何なりして下さい」
送信すると、すぐに了解! という犬のスタンプが返って来た。晴也は早くやり取りを打ち切るべきと考え、すぐさまおやすみのスタンプを送る。
足のことは何も言っていなかったが、湿布くらい買って持って行ってやろうか。晴也は布団をめくり上げ、足を入れた。肌が乾くのでエアコンを切る。
晶のメッセージが来たのは、晴也が鼻まで毛布をかぶってからだった。
「I love you and say good night.」
風呂で腕の毛を剃ったので、化粧水をコットンにたっぷり含ませて、手首からはたく。スマートフォンの画面をスワイプして、美智生のメッセージを読み、晴也はコットンをはたく手を止めた。心臓がどくん、と鳴った。
「遅くにごめん、報告しとく。ショウが具合が良くないのに無理したみたいで、ラストの曲で振りを間違えたらしい」
「それでサトルと接触しかけて、どっちも転倒はしなかったんだけど、」
「ショウたぶん右足痛めたんじゃないかな、挨拶の時に少し引きずってた。」
「舞台の後に客席にも降りて来なくて、お客さんみんな心配して。俺もまだユウヤにもショウにもLINEしてない、しづらいわ」
「ハルちゃんちょっとショウに連絡取ってやれない? 俺から聞いたって言えばいいから」
晴也は動揺した。明里から聞かされた言葉が脳裏をよぎる。ショウは怪我したんだよ。
でも何て言えばいいんだ。ダンサーが怪我をするというのがどれだけ重大なことなのかくらいは、晴也にだって想像できた。足を痛めたのかなんて、訊けない。晴也はコットンをゴミ箱に放りこみ、スウェットの袖を捲り上げたまま考える。
そもそも晶の調子が悪くなったのは、晴也の面倒に関わったせいではないのか。ならば自分にも責任がある。晴也はまず、体調を伺うことにする。
「こんばんは、ミチルさんから今夜の舞台は調子が良くないようだったと聞きました。大丈夫ですか?」
いつもレスの早い晶なのに、既読にもならない。連投しても仕方ないので、晴也は肌の手入れを手早く済ませ、そわそわしながら髪にドライヤーを当てた。
ペットボトルの水とスマートフォンを持ってベッドに腰を下ろし、コードを挿してスマートフォンを充電する。水に口をつけた時、スマートフォンが震えた。
「こんばんは、ちょっと集中できなくて振りをミスりました。ショック(泣)。熱があるようなので、すぐに店を出てタクシーで戻ったところです」
生きてた。晴也は胸を撫でおろす。
「明日の午前中にちゃんと病院へ行ってください」
晴也は昨日と同じことを念押しする。昼間の仕事も年末で忙しいだろうに、病院で処方された薬をしっかり飲んだ方がいい。
「ハルさんがついてきてくれるなら行きます」
ふざけた返事に、晴也ははぁっ? と一人で呟いた。乱暴に返信する。
「くだらないこと言ってないでとっとと寝ろバカ」
「いや冗談抜きで冷蔵庫が空っぽで、餓死しそうです。何か買って持ってきてくれたら喜びます」
どういうことなのかよくわからないが、嘘でも行くとレスしなければ、寝てくれなさそうだ。晴也はイラつきながら指を動かす。
「では12時に買い物を持っていくので、明日の朝、要るものを連絡の上、病院に行くように。もし病院に行っていない場合、買ったものは私が回収します。餓死するなり何なりして下さい」
送信すると、すぐに了解! という犬のスタンプが返って来た。晴也は早くやり取りを打ち切るべきと考え、すぐさまおやすみのスタンプを送る。
足のことは何も言っていなかったが、湿布くらい買って持って行ってやろうか。晴也は布団をめくり上げ、足を入れた。肌が乾くのでエアコンを切る。
晶のメッセージが来たのは、晴也が鼻まで毛布をかぶってからだった。
「I love you and say good night.」
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