44 / 229
7 萌芽
6
しおりを挟む
晴也が浴槽に湯を張ってのんびり肌の手入れをしている間に、美智生からLINEが5通も来ていた。彼は今日ルーチェに行った筈で、今頃帰宅途中ではないかと晴也は首を傾げた。
風呂で腕の毛を剃ったので、化粧水をコットンにたっぷり含ませて、手首からはたく。スマートフォンの画面をスワイプして、美智生のメッセージを読み、晴也はコットンをはたく手を止めた。心臓がどくん、と鳴った。
「遅くにごめん、報告しとく。ショウが具合が良くないのに無理したみたいで、ラストの曲で振りを間違えたらしい」
「それでサトルと接触しかけて、どっちも転倒はしなかったんだけど、」
「ショウたぶん右足痛めたんじゃないかな、挨拶の時に少し引きずってた。」
「舞台の後に客席にも降りて来なくて、お客さんみんな心配して。俺もまだユウヤにもショウにもLINEしてない、しづらいわ」
「ハルちゃんちょっとショウに連絡取ってやれない? 俺から聞いたって言えばいいから」
晴也は動揺した。明里から聞かされた言葉が脳裏をよぎる。ショウは怪我したんだよ。
でも何て言えばいいんだ。ダンサーが怪我をするというのがどれだけ重大なことなのかくらいは、晴也にだって想像できた。足を痛めたのかなんて、訊けない。晴也はコットンをゴミ箱に放りこみ、スウェットの袖を捲り上げたまま考える。
そもそも晶の調子が悪くなったのは、晴也の面倒に関わったせいではないのか。ならば自分にも責任がある。晴也はまず、体調を伺うことにする。
「こんばんは、ミチルさんから今夜の舞台は調子が良くないようだったと聞きました。大丈夫ですか?」
いつもレスの早い晶なのに、既読にもならない。連投しても仕方ないので、晴也は肌の手入れを手早く済ませ、そわそわしながら髪にドライヤーを当てた。
ペットボトルの水とスマートフォンを持ってベッドに腰を下ろし、コードを挿してスマートフォンを充電する。水に口をつけた時、スマートフォンが震えた。
「こんばんは、ちょっと集中できなくて振りをミスりました。ショック(泣)。熱があるようなので、すぐに店を出てタクシーで戻ったところです」
生きてた。晴也は胸を撫でおろす。
「明日の午前中にちゃんと病院へ行ってください」
晴也は昨日と同じことを念押しする。昼間の仕事も年末で忙しいだろうに、病院で処方された薬をしっかり飲んだ方がいい。
「ハルさんがついてきてくれるなら行きます」
ふざけた返事に、晴也ははぁっ? と一人で呟いた。乱暴に返信する。
「くだらないこと言ってないでとっとと寝ろバカ」
「いや冗談抜きで冷蔵庫が空っぽで、餓死しそうです。何か買って持ってきてくれたら喜びます」
どういうことなのかよくわからないが、嘘でも行くとレスしなければ、寝てくれなさそうだ。晴也はイラつきながら指を動かす。
「では12時に買い物を持っていくので、明日の朝、要るものを連絡の上、病院に行くように。もし病院に行っていない場合、買ったものは私が回収します。餓死するなり何なりして下さい」
送信すると、すぐに了解! という犬のスタンプが返って来た。晴也は早くやり取りを打ち切るべきと考え、すぐさまおやすみのスタンプを送る。
足のことは何も言っていなかったが、湿布くらい買って持って行ってやろうか。晴也は布団をめくり上げ、足を入れた。肌が乾くのでエアコンを切る。
晶のメッセージが来たのは、晴也が鼻まで毛布をかぶってからだった。
「I love you and say good night.」
風呂で腕の毛を剃ったので、化粧水をコットンにたっぷり含ませて、手首からはたく。スマートフォンの画面をスワイプして、美智生のメッセージを読み、晴也はコットンをはたく手を止めた。心臓がどくん、と鳴った。
「遅くにごめん、報告しとく。ショウが具合が良くないのに無理したみたいで、ラストの曲で振りを間違えたらしい」
「それでサトルと接触しかけて、どっちも転倒はしなかったんだけど、」
「ショウたぶん右足痛めたんじゃないかな、挨拶の時に少し引きずってた。」
「舞台の後に客席にも降りて来なくて、お客さんみんな心配して。俺もまだユウヤにもショウにもLINEしてない、しづらいわ」
「ハルちゃんちょっとショウに連絡取ってやれない? 俺から聞いたって言えばいいから」
晴也は動揺した。明里から聞かされた言葉が脳裏をよぎる。ショウは怪我したんだよ。
でも何て言えばいいんだ。ダンサーが怪我をするというのがどれだけ重大なことなのかくらいは、晴也にだって想像できた。足を痛めたのかなんて、訊けない。晴也はコットンをゴミ箱に放りこみ、スウェットの袖を捲り上げたまま考える。
そもそも晶の調子が悪くなったのは、晴也の面倒に関わったせいではないのか。ならば自分にも責任がある。晴也はまず、体調を伺うことにする。
「こんばんは、ミチルさんから今夜の舞台は調子が良くないようだったと聞きました。大丈夫ですか?」
いつもレスの早い晶なのに、既読にもならない。連投しても仕方ないので、晴也は肌の手入れを手早く済ませ、そわそわしながら髪にドライヤーを当てた。
ペットボトルの水とスマートフォンを持ってベッドに腰を下ろし、コードを挿してスマートフォンを充電する。水に口をつけた時、スマートフォンが震えた。
「こんばんは、ちょっと集中できなくて振りをミスりました。ショック(泣)。熱があるようなので、すぐに店を出てタクシーで戻ったところです」
生きてた。晴也は胸を撫でおろす。
「明日の午前中にちゃんと病院へ行ってください」
晴也は昨日と同じことを念押しする。昼間の仕事も年末で忙しいだろうに、病院で処方された薬をしっかり飲んだ方がいい。
「ハルさんがついてきてくれるなら行きます」
ふざけた返事に、晴也ははぁっ? と一人で呟いた。乱暴に返信する。
「くだらないこと言ってないでとっとと寝ろバカ」
「いや冗談抜きで冷蔵庫が空っぽで、餓死しそうです。何か買って持ってきてくれたら喜びます」
どういうことなのかよくわからないが、嘘でも行くとレスしなければ、寝てくれなさそうだ。晴也はイラつきながら指を動かす。
「では12時に買い物を持っていくので、明日の朝、要るものを連絡の上、病院に行くように。もし病院に行っていない場合、買ったものは私が回収します。餓死するなり何なりして下さい」
送信すると、すぐに了解! という犬のスタンプが返って来た。晴也は早くやり取りを打ち切るべきと考え、すぐさまおやすみのスタンプを送る。
足のことは何も言っていなかったが、湿布くらい買って持って行ってやろうか。晴也は布団をめくり上げ、足を入れた。肌が乾くのでエアコンを切る。
晶のメッセージが来たのは、晴也が鼻まで毛布をかぶってからだった。
「I love you and say good night.」
0
お気に入りに追加
90
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
ずっと女の子になりたかった 男の娘の私
ムーワ
BL
幼少期からどことなく男の服装をして学校に通っているのに違和感を感じていた主人公のヒデキ。
ヒデキは同級生の女の子が履いているスカートが自分でも履きたくて仕方がなかったが、母親はいつもズボンばかりでスカートは買ってくれなかった。
そんなヒデキの幼少期から大人になるまでの成長を描いたLGBT(ジェンダーレス作品)です。
少年ペット契約
眠りん
BL
※少年売買契約のスピンオフ作品です。
↑上記作品を知らなくても読めます。
小山内文和は貧乏な家庭に育ち、教育上よろしくない環境にいながらも、幸せな生活を送っていた。
趣味は布団でゴロゴロする事。
ある日学校から帰ってくると、部屋はもぬけの殻、両親はいなくなっており、借金取りにやってきたヤクザの組員に人身売買で売られる事になってしまった。
文和を購入したのは堂島雪夜。四十二歳の優しい雰囲気のおじさんだ。
文和は雪夜の養子となり、学校に通ったり、本当の子供のように愛された。
文和同様人身売買で買われて、堂島の元で育ったアラサー家政婦の金井栞も、サバサバした性格だが、文和に親切だ。
三年程を堂島の家で、呑気に雪夜や栞とゴロゴロした生活を送っていたのだが、ある日雪夜が人身売買の罪で逮捕されてしまった。
文和はゴロゴロ生活を守る為、雪夜が出所するまでの間、ペットにしてくれる人を探す事にした。
※前作と違い、エロは最初の頃少しだけで、あとはほぼないです。
※前作がシリアスで暗かったので、今回は明るめでやってます。
男の子たちの変態的な日常
M
BL
主人公の男の子が変態的な目に遭ったり、凌辱されたり、攻められたりするお話です。とにかくHな話が読みたい方向け。
※この作品はムーンライトノベルズにも掲載しています。
兄さん、僕貴方にだけSubになるDomなんです!
かぎのえみずる
BL
双子の兄を持つ章吾は、大人顔負けのDomとして生まれてきたはずなのに、兄にだけはSubになってしまう性質で。
幼少期に分かって以来兄を避けていたが、二十歳を超える頃、再会し二人の歯車がまた巡る
Dom/Subユニバースボーイズラブです。
初めてDom/Subユニバース書いてみたので違和感あっても気にしないでください。
Dom/Subユニバースの用語説明なしです。
えっちな美形男子〇校生が出会い系ではじめてあった男の人に疑似孕ませっくすされて雌墜ちしてしまう回
朝井染両
BL
タイトルのままです。
男子高校生(16)が欲望のまま大学生と偽り、出会い系に登録してそのまま疑似孕ませっくるする話です。
続き御座います。
『ぞくぞく!えっち祭り』という短編集の二番目に載せてありますので、よろしければそちらもどうぞ。
本作はガバガバスター制度をとっております。別作品と同じ名前の登場人物がおりますが、別人としてお楽しみ下さい。
前回は様々な人に読んで頂けて驚きました。稚拙な文ではありますが、感想、次のシチュのリクエストなど頂けると嬉しいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる