緑の風、金の笛

穂祥 舞

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8 おわかれ

1-②

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「楽しかったなあ、こんな毎日わくわくする帰省は初めてだったよ」

 水の入ったバケツに入れていた花火の燃え殻を、ゴミ袋に入れながら、奏大は奏人に言った。奏人もこんなに楽しかった夏休みは記憶に無い。そう口にするだけで、泣けそうだった。

「奏人くんがいなくなったら腑抜けて練習する気もなくなりそう」
「えっ、そんなのだめ」

 奏人が驚いて思わず言うと、伯母がからからと笑った。

「大丈夫よかなちゃん、奏大くんのお尻は私がしっかり叩くからね」
「しかもこれ、東京に帰ってからも続くからなぁ」

 奏大と伯母は安曇野を離れても、あちらで会うのだ。奏人は羨ましかった。
 奏大は秋学期が始まると、留学のためのテストや卒業演奏会の準備で大変なようだった。そんな彼に、自分の大したことない近況を書いた手紙を出すのは申し訳ない気がする。でも……冬くらいまでは迷惑じゃないだろうか。
 奏大のお酒が抜けた頃、打ち上げとパーティはおひらきになった。奏人は奏大がいつものように、フルートのケースを斜め掛けにしてスクーターに乗るのを見送る。もうこの光景を見るのは最後だ。涙をこらえて、彼を見送った。
 奏人が沈んでいるのを察した伯父が、お風呂の時間まで読書の話につき合ってくれた。伯父も学生時代に『三銃士』や『椿姫』を読んだと言ったが、『椿姫』はどこが良いのかさっぱりわからなかったらしい。それを聞いた伯母は、心底呆れたように言った。

「それでジェルモンなんかよく歌ったわよね」
「いや、ヴィオレッタ役のソプラノに頼まれたんだから仕方ないだろ」

 オペラの『椿姫』は、デュマ・フィスの原作と登場人物の名前が違うことを、伯父が教えてくれた。椿姫ことマルグリットがヴィオレッタ、恋人のアルマンはアルフレード。ジェルモンとはアルフレードの父親で、バリトンの役のため、伯父が駆り出されたことがあるらしかった。
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