緑の風、金の笛

穂祥 舞

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6 じぶんのため、だれかのため

4-④

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「ご主人たぶん、奏人くんに医学部に行って欲しいと思ってそう」
「あら、口にしてるわよ、勉強よくできるから北大の医学部を目指せばいいって」

 奏大は指定なんだ、と言って更に笑う。

「ピアニストや絵描きは駄目なのかな?」

 伯母は奏大と奏人の顔を順に見た。

「あの人割とシビアというか、芸術で飯は食えないっていうのが根底にあるの……職業を別に持って音楽はあくまでも趣味としてするんだって」

 奏人は伯父の考えに、何かきらっと光るものを感じた。それは……素敵な発想のように思える。音楽家や画家になれるとは思えないけれど、やれるだけやってみたい気持ちはある。医者になるのは怖いので気が進まないが、長く働ける仕事に就き、ピアノや絵を続けるというのは、悪くないのではないか?
 奏大は奏人の様子から何か察したのか、優しい微笑を浮かべていた。奏人は、音楽家として生きている伯母や奏大に、自分が伯父の考えに共感すると言い出しにくい反面、そう話せばどう受け止めてくれるか、試してみたい気もしていた。
 伯母が奏大に話しかけた。

「これ以上合わせていじらないほうがいいかも……あなたはおうちの人が心配してるでしょうから、今日はもう帰りなさい」

 奏大が苦笑を見せたのを見て、奏人はがっかりしてしまう。もっと弾きたいし、奏大と音楽以外の話をしたいのに。しかし彼の父と母が心配するのは、良くないと思った。

「奏大さん、帰る前にちょっとフルート持ってみて……」

 奏人は言って、ソファに置いているスケッチブックを取りに行った。え? と言いながらフルートを構える奏大の背中側に回る。
 ああそうか、親指だけで支えているんだ。彼の右手の指が金色のキーに添えられているのを見て、奏人は納得した。
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