緑の風、金の笛

穂祥 舞

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6 じぶんのため、だれかのため

1-③

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 奏大がティッシュを数枚取って、手渡してくれた。奏人はのろのろと身体を起こして、涙を拭き鼻をかむ。

「奏人くんはもうだいぶ大人だから言うけど、人は生まれてくる家を選べないね」

 奏大の言う通りだった。彼も上半身を起こして、奏人に向き合った。

「ならば自分が行動しなくちゃいけない、居心地が良くなるよう家族に働きかけるか、家から出て行くか」
「出て行くと見捨てることになるの?」

 奏人の問いに、奏大はそういう訳じゃない、と答える。

「クールダウンする時間を持つんだよ、いつも顔を見ているから喧嘩になるってことはあるからね」

 奏大は少し遠い目になりながら言った。

「僕は大学生になって初めて家を出たんだけど、その時両親の存在の有り難さを実感したよ……離れてわかることもある」

 本当にそんな気持ちになれるのだろうか? 疑問が残る。……それに奏大は、有り難く思っているはずの家から出て来て、今ここにいるのでは?
 奏人の言いたいことを察したかのように、奏大は薄茶色の瞳をこちらに向けた。

「でもすぐに別の問題が起きて、感謝してたはずの親が鬱陶しいってなるんだ……家族ってそんなものなんだよ、今奏人くんが話した『普通の家』のクラスメイトだって、きっと何か抱えてると思うなぁ」

 うーん、と思わず言った奏人を見て、奏大はくすっと笑った。

「奏人くんには感じたことを素直に吐き出せる場所が必要かもしれないね」
「……僕あまり友達いないから」
「クラスメイトじゃ奏人くんの気持ちをたぶん受け止めきれないな……信頼できる先生はいない? 涼子さんや僕でもいい、何かあれば電話なり手紙なりちょうだい」

 その時、扉がこつこつと音を立てた。伯母が起こしに来たのだ。静かに開いたドアから、伯母が顔を覗かせた。

「あら、2人とも起きてた? じゃあ朝ごはんの用意するわよ」
「おはようございます、すっかりくつろいですみません」

 奏大の声に、伯母は小さく笑った。

「2つベッドがあるのに一緒に寝てるなんて、仲良しさんだこと」

 奏人は恥ずかしくなって、赤くなった顔を見られないように窓のほうを向く。まだカーテンが閉まっているので、そこには朝の空も白い稜線も見えていないのに。
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