緑の風、金の笛

穂祥 舞

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5 いばしょのありか

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 昨日や一昨日よりは空に雲が多かったが、今日も良い天気である。奏人は、この辺りの別荘に暮らす人たちが何処で食糧を手に入れているのか疑問だったが、何の事はない、北アルプスの山々を見ながら車で少し走ると、大きなショッピングモールが現れた。駐車場に車がひしめき合い、何処から集まるのだろうと奏人は思う。

「お盆の買い出しに来てるのね、みんな」
「おばさんは札幌に戻らないの?」

 車のドアを閉め、伯母のほうに回って来ながら、奏人は訊いた。アスファルトが熱を発して、靴の裏を焼くようである。

「今年はお彼岸に帰ろうかと思うの、あなたもお母さんとゆうちゃんと一緒に来てね、おじいちゃんもおばあちゃんも喜ぶわ」

 伯母と母の実家は札幌にある。弟の優人も母方の祖父母は大好きなので、きっと喜ぶだろう。3人で電車に乗って、行こう。――その計画はきっとまた、祖母や父の気に食わないだろうが。
 奏人は安曇野に一人で行こうと決めた頃から、祖母と父への反感が自分の中で確固とした形を取り始めたのを自覚していた。その感情は決して美しいものではなく、それに支配されて、自分が化け物に変容してしまいそうで、怖い。
 そう話したら、奏大は何と言うだろう? 嫌われてしまうのではないか? そう考えると、奏人の喉が嫌な感じに詰まる。
 冷房の効いた館内に入ると、伯母は一番に書店に連れて行ってくれた。大きな書店で、奏人の胸がときめいた。図書館とは違う本の匂いを楽しみながら店に入ると、目的の本はすぐに見つかった。『椿姫』と『モンテ・クリスト伯』ダイジェスト版の全三巻を手にしてから、奏人は漫画の売り場に行きたいと伯母にねだった。伯母は小さく笑う。

「あら、漫画読むの? おうちで禁止されてると思ったわ」
「……うん、バレたら怒られるけど……」

 級友が学校にこっそり持ってきた、手塚治虫の『ブラック・ジャック』が面白かった。先生に見つかって、回し読みしていた全員が叱られたが、以来6年生の一部の間で、手塚ブームが起きている。そう話すと、伯母は面白そうに笑った。

「私やお母さんが手塚治虫を初めて読んだのって、私が高校生でお母さんが中学生の頃だったわねぇ」

 伯母も母も漫画を読んでいたという事実が、何だか新鮮だった。

「音楽やってる人は本や漫画を結構読むか、全く読まないか両極端かも」
「ふうん‥‥‥どうして?」
「どうしてかしら、あくまでも私個人の印象なんだけど」
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