緑の風、金の笛

穂祥 舞

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3 こいのうた

2-②

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「あら、顔を見たらどきどきする女の子とかいないのかしら」

 それなら昨日、奏大に顔を近づけられて話しかけられるほうが、余程どきどきした。大人の男の人に対してそんな風になるなんて、おかしいのだろうか。奏人は顔が赤くなったのを自覚した。

「ふふふ、別に私に話さなくてもいいのよ、そういう歌なの……まあこの歌は命まで捧げるなんて言っちゃってるけど」

 伯母はうまい具合に誤解してくれたようだった。

「おばさんもおじさんに命を捧げるとか思って結婚したの?」

 奏人は試しに訊いてみる。伯母は再度、ふふふと笑った。

「おじさんは私に対してそうだったかもね」
「おばさんは違ったの?」
「私はね、……おじさんには内緒よ、アメリカに留学してた時にね、それくらい好きになった男の人がいたわ」

 奏人は驚く。一番好きになった人と結婚するのではないのか。

「じゃあアメリカ人?」
「イギリス人よ、あっちも留学生で……お互い自分の国に戻って自然消滅しちゃった」

 衝撃的だった。子ども扱いしないというのは、こういう話を聞かされるということらしい。

「あなたのお母さんはお父さんに命を捧げようとした筈よ、でなければ……ヴァイオリンを捨てたりしないわ」

 奏人は分からなくなった。ならば父は、母の気持ちに応えていない。少なくとも奏人には、父が母に命を捧げるほどの思いを抱いているとは思えない。そして母は、今でもそんな気持ちでいるのだろうか。父と一緒になり、ヴァイオリニストでなくなったことを、悔やんでいるのではないのか……。

「あなたは茉理子によく似てるわ、かなちゃん……容姿だけじゃなく、内気なようで大胆なところも」

 伯母は何故か少し寂しそうだった。
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