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3 こいのうた
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午前中は夏休みの宿題や読書に充てて、軽い昼食が済むと、庭に出て蝉を探したり木をスケッチしたりした。飽きれば木陰にレジャーシートを敷いて寝転び、雲が空を流れていくのを眺める。
奏人は独りで時間を潰すことに長けていた。でなければ、帯広から新千歳までの2時間半は、小学生に耐えられるものではない。級友が持っているゲームは買って貰えないのもあるが、借りてみてもそんなに面白いと思えなかったので、奏人の時間潰しのアイテムではなかった。
緑の匂いをはらむ風に吹かれてうつらうつらしていると、伯母が自分の練習を終えて、奏人にピアノを使うよう呼びに来た。
「奏大くんは夜にしか来ないからね」
音楽室に向かいながら伯母に言われて、音楽以外の話をするつもりだったのに、と思ってがっかりする。奏大はホテルで朝からアルバイトをしているらしい。
奏人はピアノに向かい、家でするのと同じように指慣らしをした。続いて伯母から楽譜を借りてバッハをさらう。そしてフォーレの歌曲集を渡された。
「何を歌ってるのかを見てみてね」
後ろのほうに対訳が載っていた。「リディア」は、その名の女性に恋する男性の歌らしい。薔薇色の頬、金色の髪、花のような唇……見たことのあるような形容詞が並ぶ。
「かなちゃんは好きな子はいないの? その子の姿が何でも良く見えたりしない?」
伯母に言われて、奏人は困惑した。奏人にはこれまでそういう経験が無い。話していて楽しい女の子は沢山いるが、他の男子が秘密めかして、ちょっと照れながら、誰それって可愛いよな、と言う感じが良く分からなかった。
奏人は独りで時間を潰すことに長けていた。でなければ、帯広から新千歳までの2時間半は、小学生に耐えられるものではない。級友が持っているゲームは買って貰えないのもあるが、借りてみてもそんなに面白いと思えなかったので、奏人の時間潰しのアイテムではなかった。
緑の匂いをはらむ風に吹かれてうつらうつらしていると、伯母が自分の練習を終えて、奏人にピアノを使うよう呼びに来た。
「奏大くんは夜にしか来ないからね」
音楽室に向かいながら伯母に言われて、音楽以外の話をするつもりだったのに、と思ってがっかりする。奏大はホテルで朝からアルバイトをしているらしい。
奏人はピアノに向かい、家でするのと同じように指慣らしをした。続いて伯母から楽譜を借りてバッハをさらう。そしてフォーレの歌曲集を渡された。
「何を歌ってるのかを見てみてね」
後ろのほうに対訳が載っていた。「リディア」は、その名の女性に恋する男性の歌らしい。薔薇色の頬、金色の髪、花のような唇……見たことのあるような形容詞が並ぶ。
「かなちゃんは好きな子はいないの? その子の姿が何でも良く見えたりしない?」
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