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2 再会
4月 1
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勤務先の小中学校で新学期が始まり、三喜雄は子どもたちに歌を教える仕事が忙しくなっていたが、またもや株式会社ドーナツマスターから未知の仕事を依頼されてしまった。企画部長の野積からメールが来て、新CMのメイキング動画に三喜雄のインタビューを入れたいという。
メイキング動画を、配信サイトでのWebオンリーコンテンツとして作成するという話は、録音が終わった直後に聞かされていた。横浜市交響楽団も濱涼子も了承しており、三喜雄もどんな画像になるのか楽しみにしているのだが、インタビューされて何かを語れるような歌手でもないのに、そんなものをくっつけて視聴者が興醒めしないのだろうかと思ってしまう。
とはいえ拒否する理由も無いので、一応OKの返信を野積にしておくと、次は広報課長の苅谷と、開発担当の深田からほぼ同時に連絡が来た。刈谷は、深田から見せてもらった写真が面白いので動画に挿入したいと言ってきて、深田は古い写真を持ち出したことを詫びていた。
『片やんが学生時代にドマスでバイトしてた話を会社でしたら、CM担当に嗅ぎつけられてしまいました。写真を提供したのは俺です、不快だったら本当にごめんなさい。写真使用とインタビュー、嫌だったら断ってくださいね』
いや、もうOKしてしまったけど。深田が添付してきた3枚の写真は、開いた途端に懐かしくなって、笑ってしまった。
三喜雄は大学時代は札幌、大学院時代には下宿していた千駄木の駅前のドマスの店舗でアルバイトをしていた。ドーナツ製造と喫茶の食器洗いが主な仕事で、店が混雑すれば販売も手伝った。深田はある日、自宅のある池袋からわざわざ千駄木まで来てくれて、出来上がったドーナツを補充している三喜雄の写真を撮った。1枚はカメラ目線で、深田から貰って三喜雄も持っている写真だが、あと2枚は初めて見るものだ。隠し撮りされていたらしく、真剣にドーナツを並べ直している様子が、逆に面白味がある。
授業と練習の合間に、時間ができればアルバイトをしていたあの頃の自分が、若かったなあと思う。今思えばあの仕事が好きだった。バックヤードでドーナツを揚げてチョコレートやグレーズをトッピングする作業は楽しく、きれいに仕上がると達成感が味わえて、歌の調子が悪い時には気持ちが晴れた。大学院生時代、三喜雄もホットケーキミックスを使って家でドーナツを作り、2つ隣の部屋に住んでいた小田亮太に味見させたこともある。
そういう話をすればいいんだな、たぶん。
三喜雄は軽くシミュレーションしながら、インタビューを受けるつもりだと深田に返信した。
インタビューの日程が速やかに調整され、三喜雄は再び日本橋の、株式会社ドーナツマスター東京本社の会議室に来ていた。前回の会議室より小さな部屋に椅子だけが置かれて、苅谷がインタビュアーを務め、カメラの前で主に学生時代のアルバイトについて尋ねられた。大体の質問内容は前々日に受け取っていたが、やはり話の流れで想定に無い質問も飛び出した。
「音大生って、演奏のバイトをするとばかり思ってたんですけど、意外と普通に労働するんですね」
「演奏の仕事って、定収入にならないんですよ……コンスタントに演らせてくれるところは、少ないですから」
「それで肉体労働に走りがち?」
「皆そうじゃないとは思いますけど、私はピアノやヴァイオリンみたいに手を怪我できないとかじゃないですから、割と職種選択の余地はあったと思います……あ、大声出さなきゃいけない仕事は避けました」
深田が持ち込んだ写真について説明を求められ、3枚のうち2枚は知らなかったと三喜雄は答える。
「隠し撮りされてたとは思いませんでした、深田さん私のファンなんですかね?」
苅谷と、その場にいた数人の社員が笑う。するとその時、盆を手にした深田が部屋に入ってきたので、うおっ、と言ってしまった三喜雄に笑いが大きくなった。
「すみません、隠し撮りしたファンです……」
深田が申し訳なさそうにこちらに来るので、三喜雄も笑ってしまう。彼が手にしている盆には、数個のドーナツとコーヒーの入ったマグカップが載っていた。
メイキング動画を、配信サイトでのWebオンリーコンテンツとして作成するという話は、録音が終わった直後に聞かされていた。横浜市交響楽団も濱涼子も了承しており、三喜雄もどんな画像になるのか楽しみにしているのだが、インタビューされて何かを語れるような歌手でもないのに、そんなものをくっつけて視聴者が興醒めしないのだろうかと思ってしまう。
とはいえ拒否する理由も無いので、一応OKの返信を野積にしておくと、次は広報課長の苅谷と、開発担当の深田からほぼ同時に連絡が来た。刈谷は、深田から見せてもらった写真が面白いので動画に挿入したいと言ってきて、深田は古い写真を持ち出したことを詫びていた。
『片やんが学生時代にドマスでバイトしてた話を会社でしたら、CM担当に嗅ぎつけられてしまいました。写真を提供したのは俺です、不快だったら本当にごめんなさい。写真使用とインタビュー、嫌だったら断ってくださいね』
いや、もうOKしてしまったけど。深田が添付してきた3枚の写真は、開いた途端に懐かしくなって、笑ってしまった。
三喜雄は大学時代は札幌、大学院時代には下宿していた千駄木の駅前のドマスの店舗でアルバイトをしていた。ドーナツ製造と喫茶の食器洗いが主な仕事で、店が混雑すれば販売も手伝った。深田はある日、自宅のある池袋からわざわざ千駄木まで来てくれて、出来上がったドーナツを補充している三喜雄の写真を撮った。1枚はカメラ目線で、深田から貰って三喜雄も持っている写真だが、あと2枚は初めて見るものだ。隠し撮りされていたらしく、真剣にドーナツを並べ直している様子が、逆に面白味がある。
授業と練習の合間に、時間ができればアルバイトをしていたあの頃の自分が、若かったなあと思う。今思えばあの仕事が好きだった。バックヤードでドーナツを揚げてチョコレートやグレーズをトッピングする作業は楽しく、きれいに仕上がると達成感が味わえて、歌の調子が悪い時には気持ちが晴れた。大学院生時代、三喜雄もホットケーキミックスを使って家でドーナツを作り、2つ隣の部屋に住んでいた小田亮太に味見させたこともある。
そういう話をすればいいんだな、たぶん。
三喜雄は軽くシミュレーションしながら、インタビューを受けるつもりだと深田に返信した。
インタビューの日程が速やかに調整され、三喜雄は再び日本橋の、株式会社ドーナツマスター東京本社の会議室に来ていた。前回の会議室より小さな部屋に椅子だけが置かれて、苅谷がインタビュアーを務め、カメラの前で主に学生時代のアルバイトについて尋ねられた。大体の質問内容は前々日に受け取っていたが、やはり話の流れで想定に無い質問も飛び出した。
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「すみません、隠し撮りしたファンです……」
深田が申し訳なさそうにこちらに来るので、三喜雄も笑ってしまう。彼が手にしている盆には、数個のドーナツとコーヒーの入ったマグカップが載っていた。
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