彼はオタサーの姫

穂祥 舞

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番外編 姫との夏休み

第2楽章①

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 高3の夏に知り合った、自分とは別の高校に通っていた片山三喜雄を、天音が初めて会おうと呼び出したのは、確か2学期の中間テストが終わった日だった。半ば無理矢理メールアドレスを聞き出したので、断られるかもしれないと思いつつ、昼ご飯を食べないかと誘うと、あっさりとOKしてくれた。ちょうどその頃発売されていた秋限定のハンバーガーが食べたくて、三喜雄をハンバーガーショップに連れて行き、お互い迎える受験のことなどを語らった。
 天音は帰省すると、三喜雄を1回は呼び出すことにしていた。これは天音が大学生になり東京に出て以来、ずっと続いていたが、高校時代にハンバーガーを食べながら話したのが楽しかったという、美しい思い出に基づく恒例行事である。
 三喜雄は天音から誘われると一瞬面倒くさそうな空気感を醸し出すものの、他の予定と被っていなければ、つき合ってくれた(体調不良を理由に断られたことは無い)。だから天音は学部時代、年に4回ほど定期的に三喜雄と会っていたことになる。天音にしてみればかなり高い頻度なので、三喜雄はれっきとした「故郷の友人」なのだ。
 大学院に三喜雄が入学してきて、授業でもそれ以外の時でも顔を合わせるようになったにもかかわらず、天音はお盆の少し前に札幌に帰ると、習慣のように三喜雄に連絡を取った。前期の授業が終わるなり、三喜雄は文字通りとっとと帰郷していた。彼が実家でのんびりしながら、旧友と会ったり、大学院に入学するまで教えてもらっていた先生に歌を聴いて貰ったりしていると聞いて、天音は何となく安心する。

「東京でいつも会ってるのにこっちでも会うの笑」

 三喜雄の返事は微妙だったが、拒絶しているわけでは無さそうである。天音はすかさず返した。

「会うの。これは長期休暇の大切なルーティンだから」
「わかった。天気のいい日にちゃりんこ借りて市内をサイクリングしよう」

 おかしな提案をしてくるなと思ったが、天音は了承した。高校時代は自転車通学だったので、サイクリングに抵抗感は無い。
 借りるというのは、シェアサイクルを利用するという意味らしかった。札幌市内には、手軽に借りることのできる自転車の専用駐車場がたくさんあり、乗り捨てができるのだが、地元民が遊ぶのに使うものなのだろうか。天音は突っ込む。

「観光客かよ」
「塚山と札幌で会うのもマンネリ化してるから、変化をつけようということです」

 三喜雄の返事に、天音は勝手に軽く傷つく。マンネリ化とはどういう意味だ、惰性で交際しているカップルや、倦怠期の夫婦じゃあるまいし。
 いや、と天音は考え直す。マンネリなんて言葉が出るほどには、自分と三喜雄はつき合いが長いのだ。4月に三喜雄と知り合って、彼の周りを親し気にちょろちょろしている連中とは、格が違う(何の格だかよくわからないが)。

「じゃあ関係の活性化のためにも、ルート考えとく」
「そう? 任せた。あまり高い店とか寄るのはパスで」

 三喜雄の言葉に、これは誤解されていると天音はまた悲しくなる。おそらく彼は、上野で開催した声楽専攻の打ち上げ代が高かったことを言っている。皆が飲みまくるので酒代を追徴する羽目になり、一部の参加者から軽い苦情が出たのだ。天音が店を選んだ訳ではなかったのに、幹事を手伝ったばかりに、自分のせいだと言われているようでいささか不本意だった。
 その辺りも三喜雄には説明しようと思いつつ、天音は自主練習を始めるべく、ピアノのある部屋に向かった。彼と遊びに行くことを思うと、ちょっとわくわくした。
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