54 / 79
終曲/帰省
2
しおりを挟む
試験が全て終了した日の夜、レッスンやアルバイトがある者の都合も加味し、少し遅い時間から、声楽専攻の1年がほぼ全員集まって前期の打ち上げをした。誰かが酔っ払って歌い始めてもそこそこ上手いので、周囲の酔客が拍手して盛り上げてくれるのは、三喜雄の学部生時代の飲み会事情と変わらない。それに、これまであまり話さなかった面々と話せたのは楽しかった。
歌う人間が集まる飲み会は凄まじくなることが多いため、覚悟はしていたが、今回もその例に洩れなかった。店側も常連客も芸大生の乱痴気騒ぎに慣れているのか、大目に見てくれるようなのだが、ちょっと恥ずかしい場面もあった。太田紗里奈に絡まれた三喜雄は、塚山と、何故か北島瑠美に助けられた。その後、紗里奈と塚山が上品とは言えない言い合いを始めて、彼らが以前交際していたことを知る内部進学組が囃し立て、大騒ぎになったのである。どういう訳か自分のせいで彼らが喧嘩になったように三喜雄は感じたのだが、真実を深く追求しないほうがいいような気がしている。
もう少しで紗里奈にホテル街に連れて行かれそうになった三喜雄だったが、瑠美を筆頭とする女子たちの協力で何とかその場を逃れた。これもよくわからないのだが、彼女らは紗里奈と普段仲がいいのに、どうして友人の恋路(?)を邪魔したのだろうか。もちろん三喜雄は紗里奈とそんな関係になることを望んでいないので、ほっとしたが……その代わり瑠美が、塚山くんヤバいよとやたらと言うので、また酔った塚山を泊めなくてはならなくなった。
塚山は家飲みした時ほどは酔っておらず、無事に三喜雄の部屋に到着するなり、詰問してきた。
「おまえこの間、俺は友達ってことでいいって言ったよな?」
いきなり何の話かと驚いたが、三喜雄は認めた。あの夜、半分寝ていたものの、確かに塚山にそう言った。三喜雄は飲酒するようになってこのかた、どれだけ酔っても記憶を失くしたことは無い。
「言ったけど、おまえが次の日の朝に、昨夜のいろいろは無かったことにしてくれって頼んだんだろうが」
そう返すと、塚山はショックを受けた顔になり、すぐに涙目になった。
「そこは無かったことにしなくていいんだよ!」
「何だそれ、意味が分からないんだけど」
「おまえに絡んで泣いたことは墓場まで持って行ってほしい、でも友達ってところは……」
そこまで言って、塚山はしくしく泣き始めた。あ然としつつも、きっとこれも明日の朝、無かったことにしなくてはいけないだろうと考えると、さすがに三喜雄の頭の中がこんがらがってきた。三喜雄は「友達」にシャワーを使わせ、話が拗れる前にとっとと寝る準備をした。塚山は疲れていたのか、あっさりと眠りに落ちたが、父が同窓会や本社への出張で東京に出てきた時のために買っておいたマットレスは、そんな訳で不本意に大活躍している。
歌う人間が集まる飲み会は凄まじくなることが多いため、覚悟はしていたが、今回もその例に洩れなかった。店側も常連客も芸大生の乱痴気騒ぎに慣れているのか、大目に見てくれるようなのだが、ちょっと恥ずかしい場面もあった。太田紗里奈に絡まれた三喜雄は、塚山と、何故か北島瑠美に助けられた。その後、紗里奈と塚山が上品とは言えない言い合いを始めて、彼らが以前交際していたことを知る内部進学組が囃し立て、大騒ぎになったのである。どういう訳か自分のせいで彼らが喧嘩になったように三喜雄は感じたのだが、真実を深く追求しないほうがいいような気がしている。
もう少しで紗里奈にホテル街に連れて行かれそうになった三喜雄だったが、瑠美を筆頭とする女子たちの協力で何とかその場を逃れた。これもよくわからないのだが、彼女らは紗里奈と普段仲がいいのに、どうして友人の恋路(?)を邪魔したのだろうか。もちろん三喜雄は紗里奈とそんな関係になることを望んでいないので、ほっとしたが……その代わり瑠美が、塚山くんヤバいよとやたらと言うので、また酔った塚山を泊めなくてはならなくなった。
塚山は家飲みした時ほどは酔っておらず、無事に三喜雄の部屋に到着するなり、詰問してきた。
「おまえこの間、俺は友達ってことでいいって言ったよな?」
いきなり何の話かと驚いたが、三喜雄は認めた。あの夜、半分寝ていたものの、確かに塚山にそう言った。三喜雄は飲酒するようになってこのかた、どれだけ酔っても記憶を失くしたことは無い。
「言ったけど、おまえが次の日の朝に、昨夜のいろいろは無かったことにしてくれって頼んだんだろうが」
そう返すと、塚山はショックを受けた顔になり、すぐに涙目になった。
「そこは無かったことにしなくていいんだよ!」
「何だそれ、意味が分からないんだけど」
「おまえに絡んで泣いたことは墓場まで持って行ってほしい、でも友達ってところは……」
そこまで言って、塚山はしくしく泣き始めた。あ然としつつも、きっとこれも明日の朝、無かったことにしなくてはいけないだろうと考えると、さすがに三喜雄の頭の中がこんがらがってきた。三喜雄は「友達」にシャワーを使わせ、話が拗れる前にとっとと寝る準備をした。塚山は疲れていたのか、あっさりと眠りに落ちたが、父が同窓会や本社への出張で東京に出てきた時のために買っておいたマットレスは、そんな訳で不本意に大活躍している。
0
お気に入りに追加
27
あなたにおすすめの小説
社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈
めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。
しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈
記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。
しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。
異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆!
推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!
めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。
ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。
兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。
義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!?
このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。
※タイトル変更(2024/11/27)
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
本日のディナーは勇者さんです。
木樫
BL
〈12/8 完結〉
純情ツンデレ溺愛魔王✕素直な鈍感天然勇者で、魔王に負けたら飼われた話。
【あらすじ】
異世界に強制召喚され酷使される日々に辟易していた社畜勇者の勝流は、魔王を殺ってこいと城を追い出され、単身、魔王城へ乗り込んだ……が、あっさり敗北。
死を覚悟した勝流が目を覚ますと、鉄の檻に閉じ込められ、やたら豪奢なベッドに檻ごとのせられていた。
「なにも怪我人檻に入れるこたねぇだろ!? うっかり最終形態になっちまった俺が悪いんだ……ッ!」
「いけません魔王様! 勇者というのは魔物をサーチアンドデストロイするデンジャラスバーサーカーなんです! 噛みつかれたらどうするのですか!」
「か、噛むのか!?」
※ただいまレイアウト修正中!
途中からレイアウトが変わっていて読みにくいかもしれません。申し訳ねぇ。
目が覚めたら囲まれてました
るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。
燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。
そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。
チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。
不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で!
独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。
【完結】もふもふ獣人転生
*
BL
白い耳としっぽのもふもふ獣人に生まれ、強制労働で死にそうなところを助けてくれたのは、最愛の推しでした。
ちっちゃなもふもふ獣人と、攻略対象の凛々しい少年の、両片思い? な、いちゃらぶもふもふなお話です。
本編完結しました!
おまけをちょこちょこ更新しています。
第12回BL大賞、奨励賞をいただきました、読んでくださった方、応援してくださった方、投票してくださった方のおかげです、ほんとうにありがとうございました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる