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第3幕/学歴は、洗いません。
第3場②
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「京都人が大阪人と一緒にすんなって言うけど、我々神戸人も同意見なんや」
咲真の無意味なドヤ顔に笑いを堪えながら、わかった、と片山は口にした。
「でも実は俺、京都と大阪と神戸の位置関係があんまりわからない」
咲真はこの片山の発言にも引っかかった。
「は? おまえそれ確実に関西を馬鹿にしてるよな、東京の奴ってほんま感じ悪いわぁ」
「いちいち絡むな、俺北海道だっつの」
それを聞いて咄嗟に言葉が返せなかった咲真は、片山の顔を見つめたまま、北海道を舞台にした有名なドラマの主題歌を口ずさんでみた。すると彼は苦笑した。
「ごめん、それ富良野、俺札幌だし100キロ以上離れてる」
「そう突っ込んでくるの? うわぁ、俺の北海道のイメージの貧弱さを思い知らされたわ……」
片山は爆笑した。そんなおもろいか? 東京に来てから、こちらの人間は自分が狙う以上に笑うと日々咲真は感じているが、それに少し嬉しさを覚えてしまう。
「ちなみに東から京都、大阪、神戸って感じやけど、京都から神戸の三ノ宮までJRの新快速で1時間15分くらいや、余裕で100キロ無いで」
「近っ! どうして一緒にされたら嫌なんだよ!」
「何言うてんねん、この3都市は歴史と文化が全く違うんやぞ、まあ俺も札幌と富良野が一緒くたやけどな」
笑いが止まらないらしい片山は、ついでのように話した。
「そうだ、俺も教育大卒だから、学歴ロンダリングだ」
「おおっマジか! それ早よ言え」
咲真は興奮して立ち上がりそうになる。北の大地の教育大学から、はるばる東京砂漠の芸大の院にやってくるとは、何を考えているのか。
片山も大学の先生や自分の師から、院への進学を勧められたらしかった。ふと、この大学院に合格しているのだから、かなり歌える筈だと気づく。よく考えると咲真は、彼が歌手としてどんな経歴を持っているのか、まだ全然知らない。
「道民は大学受験で東京に出ることも多くて、俺はそれが嫌で地元に進学したんだけど、結局東京に来てしまって……何かを裏切ったような気がしてる」
「何を裏切ってん?」
訊くと片山は、よくわからないんだけど、と首を捻る。
「……東京で擦れたくないっていう自分の信念?」
咲真はチューハイを噴きそうになった。
「何やそれ、童貞か」
「気持ち……は童貞かな」
「その情報要らんわ」
言いつつ咲真は、北海道から出てきてまだおぼこい空気感を纏う目の前の男に、女知ってるんかぁ、と胸の中で突っ込んだ。
「あっでも地元フォーエバーってことやったら、俺は激しく共感するで」
「うん、東京は楽しいけどやっぱりアイラブ札幌」
話題は、ロンダリングってそもそも何なんだというネタに転んだ。検索してみると、「洗う」という意味だと分かり、互いにこの大学院を卒業しても、出身大学の名は洗い流さずに、必ず経歴に書いてもらおうと勝手に誓い合った。そして、自分たちを「学歴ランドリーズ」と名づけ、同志を募ろうと計画する。
「よその大学から院に来た奴だけがメンバーになる資格があるねん」
「秘密結社っぽいけど、メンバーになって何かメリットあるの、これ?」
肩を揺すって笑う片山に、咲真は大真面目に答えた。
「別に無いな、そのうち『学歴ランドリーズ』名義でジョイントコンサートするとか目標にしとこか」
片山は爆笑した。きれいな形の目に涙が浮かんでいる。その後もくだらない話で2人して笑い過ぎて、腹筋が痛くなりそうだった。咲真が東京に出てきてから、一番笑った夜だった。
咲真の無意味なドヤ顔に笑いを堪えながら、わかった、と片山は口にした。
「でも実は俺、京都と大阪と神戸の位置関係があんまりわからない」
咲真はこの片山の発言にも引っかかった。
「は? おまえそれ確実に関西を馬鹿にしてるよな、東京の奴ってほんま感じ悪いわぁ」
「いちいち絡むな、俺北海道だっつの」
それを聞いて咄嗟に言葉が返せなかった咲真は、片山の顔を見つめたまま、北海道を舞台にした有名なドラマの主題歌を口ずさんでみた。すると彼は苦笑した。
「ごめん、それ富良野、俺札幌だし100キロ以上離れてる」
「そう突っ込んでくるの? うわぁ、俺の北海道のイメージの貧弱さを思い知らされたわ……」
片山は爆笑した。そんなおもろいか? 東京に来てから、こちらの人間は自分が狙う以上に笑うと日々咲真は感じているが、それに少し嬉しさを覚えてしまう。
「ちなみに東から京都、大阪、神戸って感じやけど、京都から神戸の三ノ宮までJRの新快速で1時間15分くらいや、余裕で100キロ無いで」
「近っ! どうして一緒にされたら嫌なんだよ!」
「何言うてんねん、この3都市は歴史と文化が全く違うんやぞ、まあ俺も札幌と富良野が一緒くたやけどな」
笑いが止まらないらしい片山は、ついでのように話した。
「そうだ、俺も教育大卒だから、学歴ロンダリングだ」
「おおっマジか! それ早よ言え」
咲真は興奮して立ち上がりそうになる。北の大地の教育大学から、はるばる東京砂漠の芸大の院にやってくるとは、何を考えているのか。
片山も大学の先生や自分の師から、院への進学を勧められたらしかった。ふと、この大学院に合格しているのだから、かなり歌える筈だと気づく。よく考えると咲真は、彼が歌手としてどんな経歴を持っているのか、まだ全然知らない。
「道民は大学受験で東京に出ることも多くて、俺はそれが嫌で地元に進学したんだけど、結局東京に来てしまって……何かを裏切ったような気がしてる」
「何を裏切ってん?」
訊くと片山は、よくわからないんだけど、と首を捻る。
「……東京で擦れたくないっていう自分の信念?」
咲真はチューハイを噴きそうになった。
「何やそれ、童貞か」
「気持ち……は童貞かな」
「その情報要らんわ」
言いつつ咲真は、北海道から出てきてまだおぼこい空気感を纏う目の前の男に、女知ってるんかぁ、と胸の中で突っ込んだ。
「あっでも地元フォーエバーってことやったら、俺は激しく共感するで」
「うん、東京は楽しいけどやっぱりアイラブ札幌」
話題は、ロンダリングってそもそも何なんだというネタに転んだ。検索してみると、「洗う」という意味だと分かり、互いにこの大学院を卒業しても、出身大学の名は洗い流さずに、必ず経歴に書いてもらおうと勝手に誓い合った。そして、自分たちを「学歴ランドリーズ」と名づけ、同志を募ろうと計画する。
「よその大学から院に来た奴だけがメンバーになる資格があるねん」
「秘密結社っぽいけど、メンバーになって何かメリットあるの、これ?」
肩を揺すって笑う片山に、咲真は大真面目に答えた。
「別に無いな、そのうち『学歴ランドリーズ』名義でジョイントコンサートするとか目標にしとこか」
片山は爆笑した。きれいな形の目に涙が浮かんでいる。その後もくだらない話で2人して笑い過ぎて、腹筋が痛くなりそうだった。咲真が東京に出てきてから、一番笑った夜だった。
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