夏の扉が開かない

穂祥 舞

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2 7月中旬

窓越しの憂鬱②

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 特急と接続する駅で降りると、外の空気は重くて暑く、如何にも祇園祭の頃らしい。京都方面行きの特急が到着し、殺人的な混雑も恐れずに祭りに向かう人たちが乗り込んで、混雑していた。それに対して大阪行きの特急は、時間が中途半端なせいか、空いていた。泰生は再び車内の冷房にほっとしつつ、進行方向に向いた椅子の窓際に腰を下ろした。
 特急停車駅と、その隣の商店街前の駅の距離はとても近いので、スピードをあまり上げないまま、今日も特急は商店街の入口の前を通過する。泰生は商店街と反対側に座っていて、アーケードを抜けたほうの道を窓越しに見た。なだらかに昇っている道の先を横切る高架に、京都と奈良を結ぶ私鉄が走っているのが目に入り、初めてまともに見えたのでちょっと嬉しくなった。
 昨日ドーナツショップで再会した、石田牧師がいる教会は、あの高架よりも向こうにある……ということになる。家で母にそんな話をちらっとすると、坂を更に登り進んだところに、かつて小さな遊園地があったと教えてくれた。高名な戦国武将が建てた城址にその遊園地はあり、その名もキャッスルランドといったらしい。
 ぼんやりと車窓を眺めるうち、次の駅に到着する。ここも駅と駅の間が近いので、あっという間だった。泰生は小さく溜め息をついた。
 戸山や岡本に、旭陽と拗れたことを話せば、理由を言わなくてはならないだろう。それができないから、泰生は独りで悶々としていた。旭陽は少なくとも吹奏楽部の中で、自分がゲイであることはオープンにしていない。そこで泰生が他の人に、旭陽から恋愛感情を寄せられていたことを話せば、アウティングになってしまう。
 忘れたらいい。無かったことにしたらいい。そうできないのは、楽器を弾くという行為の記憶が、旭陽と過ごした2年2か月と分かちがたく結びついているからだった。そう気づいて、泰生は少しぞっとする。
 このままやと、俺はコントラバスを弾くことだけやなくて、どこにも思いきって進むことができひんような気がする。
 特急はスピードを上げる。流れ去る窓越しの風景がだんだん意味を持たなくなってきて、泰生はそっと目を閉じた。このもやもやした気持ちが、次に目を開けた時は消えていたらいいのにと思いつつ。
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