調子に乗るから言わないけど好き 《ハルとショウの短編集》

穂祥 舞

文字の大きさ
上 下
55 / 68

ゲイモテ彼氏を持つ身は辛い①

しおりを挟む
 仕事始めを迎えたその日の夜、晴也がマンションに戻ると、数枚の年賀はがきとともに、晶宛ての大きな封書が2通も来ていた。ポストからそれらを引っ張り出して、晴也はエレベーターで差出人を見てみる。
 1通は、10月に晶を軽く取材したダンス雑誌の出版社からだった。晶はこの春、イギリスの劇団の公演に賛助出演が決まっており、そのミュージカルについてインタビューを受けたのだ。校正を手伝うために晴也も目を通したので、おそらく見本誌だろう。
 それと同じ大きさの、2通目の封筒の差出人も出版社っぽい名だったが、少なくとも晴也はその社名を聞いたことがなかった。だからという訳でもないのだろうけれど、やや胡散臭い感じがする。
 平和な仕事始めだったと言いながら帰ってきた晶は、晴也が淹れたコーヒーを飲みながら、まずダンス雑誌の出版社の袋を開けた。

「おーっ、新年号に載るとか、気持ちいいよな」

 晶は嬉しそうに雑誌を見つめた。表紙を飾るのは先日引退を発表した、ロシアでも活躍していた男性バレエダンサーで、晶のインタビュー記事のタイトルは表紙に書かれてさえいない。それでも名の通った雑誌に取り上げられるのは、やはり誇らしいのだろう。
 晴也も雑誌を覗きこむ。

「何処に載ってるんだよ、見せろ見せろ」
「たぶん後半の、雑記事のコーナーじゃないか? あっ……」

 何と晶の記事は見開き2ページが使われていた。感染症の拡大前にロンドンで好評を博したミュージカル「真夏の夜の夢」が来春バージョンアップして再演、"ショウ"こと吉岡晶が再びパックを踊る、と題されている。
 晶の上半身の写真と、前回の舞台の写真を見て、晴也は興奮した。

「凄い! 大物ダンサーみたいだ」

 晶は何故かドヤ顔になる。

「何だハルさん、俺が大物だって知らなかったのか」
「てっきり場末のショーパブのストリップダンサーだとばかり」
「いやまあ、普段はそうだけど」

 晴也が雑誌を読んでいると、晶はもう1通の封筒に手を伸ばした。差出人を見て、うっ、と低く唸る。

「あー……これ忘れてた」

 雑誌から目を上げた晴也は、晶がやや困惑気味に封を切るのを見つめた。晶はちらっと晴也を伺う。

「ハルさんこれ開けなかったんだ」
「福原家では家族の封書は断りなく開けない」

 気になったけれど我慢したニュアンスを込めて晴也が言うと、晶は苦笑した。

「これ、9月にルーチェに取材に来てさ、店長も優さんもノリでOKしちゃって」

 茶色い封筒から出てきた、ハンサムで、よく見るとマッチョなことがスーツ越しでもわかる男性が表紙にでかでかと載る雑誌は、一見男性向けのファッション誌風だ。しかしそこに書かれている記事のヘッドラインを見て、晴也はすぐに理解した。

「……これはいわゆるゲイ向けの本、だよな?」
「おおっ、ハルさんこういうの読む?」

 晶の笑顔に晴也は唇を尖らせた。

「読んだことないよ、俺おまえと知り合うまでノンケだったっつの」
「俺も日本のはほとんど読んだことないんだけど、お洒落だぞ」

 晶はぱらぱらとページを繰る。彼と行きたい冬の行楽スポット、男2人で楽しめる温泉……記事は普通に面白そうである。晶と、彼の所属するダンスユニット、「ドルフィン・ファイブ」が載っていたのは、ゲイ向けエンターテインメント情報コーナーだった。紹介されている中には実質発展場のゲイバーや、風俗ギリギリの店もありそうである。件の記事には「新宿2丁目の老舗ショーパブ『ルーチェ』で唯一のゲイ向け人気プログラム。今すぐ予約せよ!」と、煽り文句がついていた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

年越しチン玉蕎麦!!

ミクリ21
BL
チン玉……もちろん、ナニのことです。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

別に、好きじゃなかった。

15
BL
好きな人が出来た。 そう先程まで恋人だった男に告げられる。 でも、でもさ。 notハピエン 短い話です。 ※pixiv様から転載してます。

後輩に嫌われたと思った先輩と その先輩から突然ブロックされた後輩との、その後の話し…

まゆゆ
BL
澄 真広 (スミ マヒロ) は、高校三年の卒業式の日から。 5年に渡って拗らせた恋を抱えていた。 相手は、後輩の久元 朱 (クモト シュウ) 5年前の卒業式の日、想いを告げるか迷いながら待って居たが、シュウは現れず。振られたと思い込む。 一方で、シュウは、澄が急に自分をブロックしてきた事にショックを受ける。 唯一自分を、励ましてくれた先輩からのブロックを時折思い出しては、辛くなっていた。 それは、澄も同じであの日、来てくれたら今とは違っていたはずで仮に振られたとしても、ここまで拗らせることもなかったと考えていた。 そんな5年後の今、シュウは住み込み先で失敗して追い出された途方に暮れていた。 そこへ社会人となっていた澄と再会する。 果たして5年越しの恋は、動き出すのか? 表紙のイラストは、Daysさんで作らせていただきました。

愛おしいほど狂う愛

ゆうな
BL
ある二人が愛し合うお話。

黄色い水仙を君に贈る

えんがわ
BL
────────── 「ねぇ、別れよっか……俺たち……。」 「ああ、そうだな」 「っ……ばいばい……」 俺は……ただっ…… 「うわああああああああ!」 君に愛して欲しかっただけなのに……

素直じゃない人

うりぼう
BL
平社員×会長の孫 社会人同士 年下攻め ある日突然異動を命じられた昭仁。 異動先は社内でも特に厳しいと言われている会長の孫である千草の補佐。 厳しいだけならまだしも、千草には『男が好き』という噂があり、次の犠牲者の昭仁も好奇の目で見られるようになる。 しかし一緒に働いてみると噂とは違う千草に昭仁は戸惑うばかり。 そんなある日、うっかりあられもない姿を千草に見られてしまった事から二人の関係が始まり…… というMLものです。 えろは少なめ。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...