調子に乗るから言わないけど好き 《ハルとショウの短編集》

穂祥 舞

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短い休みを楽しむ方法

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「ショウさん、温泉行きたい」

 洗濯を干し終わった晴也はリビングに戻り、思ったままを垂れ流してみた。新聞に目を通していた晶は苦笑する。

「日帰りしか無理だよ、ハルさんの実家の近くのスパとかどう?」

 晴也が何故こんなことを思いついたかというと、世の中がゴールデンウィークに入ったからである。二人とも副業は休みではないが、今日はたまたま女装バーめぎつねもショーパブルーチェも、清掃とメンテで休みなのだ。大型連休期間中、新宿二丁目の夜の遊び場はやや客足が落ちるので、店によっては休んでしまうこともよくある。

「家族連れでめちゃくちゃ混んでそう、てか俺明日めぎつねだけだから半日はオーケー」
「俺は午後から優さんと打ち合わせだ、俺もハルさんも丸一日休みなのは今日だけなんだな」

 今週末、晶は友人のダンス教室のイベントに駆り出されるし、晴也も学生時代の友人の結婚式に出席する。
 晶は新聞を畳み、スマートフォンで何やら検索を始めた。そして素早く指を動かして、よっしゃ、とひとりごちた。

「ハルさん、温泉じゃないけど広い風呂のある宿をゲットしたぞ、着替え用意して出掛けよう」

 晶は晴れやかに宣言した。それを見た晴也も気分が上がり、早速寝室のクローゼットに向かった。



 横浜方面に車を走らせた晶は、まず中華街に昼食と観光のために立ち寄った。そしてショッピングモールに向かってぷらぷらと服を見て回り、食料品売り場で惣菜を買い込んだ。素泊まりの宿なのだろうと晴也は納得していたが、車の向かった先がインターのそばのラブホテル街だったので、思わず叫んだ。

「何なんだよラブホって! おまえがエッチなことしたいだけだろうが!」

 予想外に晴也が憤慨したせいか、晶は真面目に反論する。

「エッチ目的って先入観は良くないぞハルさん、広い風呂と映画見放題で、しかも豪華な部屋だ」

 せっかく晶が準備してくれたことなので、晴也は仕方なくホテルに連れ込まれた。すると確かに、外観はともかく、静かな中庭をしつらえた内部はちょっとしたリゾートホテルのようである。予約可能だというデラックスルームはシックな内装で、一度晶と行ったことのあるラブホテルの部屋とは雲泥の差だった。浴室を覗くと、大きな浴槽には湯が張ってあった。
 早速風呂に入ろうということになった。機嫌を直した晴也は晶の背中を流してやり、一緒に浴槽に飛び込んだ。二人並んで身体を伸ばせる広さで、晶は湯の中で腰を浮かせる。

「はうぅ、ちんこがたゆたう……」
「何言ってんだ馬鹿」

 正視できない晶の姿に突っ込みつつも、晴也も手足を存分に伸ばす。普段一緒に風呂に入っても、狭い湯船に2人で浸かることはあまり無いので、楽しかった。湯加減も良くて気持ちいい。

「ドルフィン・ファイブに登録中の若いダンサーくんから、こんなホテルがあるって聞いたんだ」

 晶の言葉に晴也は苦笑した。

「これはちょっとびっくりしたよ、彼女連れてく場所にネタ繰ってるんだなぁ」
「そうだよ、頑張ってるからな……良かったって報告しとこう」

 この後一緒に映画を見て(ミュージカル映画なら晶が歌って踊ってくれるだろう)、持ち込んだご飯と酒を楽しみ、もう一回風呂に入る。一応横浜観光もしたので、立派な一泊旅行である。

「ベッドもめちゃ大きかったな、何でもできるぞ」

 晶の露骨な言い草に晴也は釘を刺した。

「……そんないろんなことしないぞ、このスケベ野郎」

 それでも晴也は思う。晶と一緒なら、特別な場所に行かなくても、大概楽しめるのだ。彼は人を楽しませることが好きな、根っからのエンターテイナーだから。それでたぶん、晴也に対しては喜ばせたい感増しだから。
 晴也は湯の中で、左肩を晶の右肩に軽くぶつけてみた。距離が近いことを確認するためだった。


〈初出 2023.5.3 #創作BL版深夜の60分一本勝負 お題:たまの休日、たゆたう〉
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