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卯年ですので①
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年が明けて、2日は晶の実家に、3日は晴也の実家に行って、美味しいものをたらふく食べた。
お互いのきょうだいに、男同士暮らしている2人に、面と向かって口にはしないものの眉を顰めている人たちがいる。そのため、必ずしも気を遣わず過ごせた訳ではない。しかし、そのきょうだいの子どもたち……晴也と晶の甥や姪たちはあくまでも無邪気に接してくれるのは救いである。彼らにお年玉を渡すことで、互いの一族の正月の平和は守られたのだった。
2人とも、もう明日はサラリーマン業の仕事始めなので、その日は朝からのんびりしていた。晶の姉の鞠は、3月の公演の練習が始まるから、今夜発の便でロンドンに戻ると連絡をくれた。
晴也はバレリーナの義姉が好きだが、彼女はほぼ女版晶である。涼やかな目許と上品な唇に微笑を浮かべながら、そりの合わない兄(彼女は弟の晶のことは好きらしい)を荒っぽい言葉で罵る。その迫力に晴也はあ然として固まってしまうのだが、それが通常運転らしく、吉岡家では誰も彼女を止めない。
その話を苦笑混じりに晶にすると、彼はヨガマットの上で足を揉みながら、あっさり言う。
「うちじゃ兄貴のほうが異端だから仕方ないよ、昔から誰に似たんだって言われてるからな」
晴也は呆れと驚き混じりに答えた。
「お義兄さん気の毒だ、激しく同情するよ」
「同情しなくていいぞ、兄貴は結局気にしてないんだから……ハルさんの優しさを無駄使いする必要はない」
どうも納得いかないが、よその家のことをがたがた言うのもどうかと思うので、晴也は読みかけの新聞に視線を落とす。
晴也のスマートフォンがぶるぶると震えた。ほぼ同時に、晶のスマホもびりびりとテーブルの上で音を立てる。
「ミチルさんから新年の挨拶かな」
晴也は晶のほうを見ながら、スマホを手に取ったが、めぎつねの英子ママこと英一朗からのLINEだった。新年の挨拶と、仕事始めの諸連絡だったが、内容にやや困惑した。
「あ、俺は優さんからだ」
晶が受けたメッセージは、ドルフィン・ファイブの優弥からのようだった。トークルームを開いた晶は、えっ、と目を丸くした。晶には何が起きたのだろうか。
「優弥さん何なの?」
「あ、いやまあ毎年のことだけど……1月中は水曜に1曲、エロ寄りバニー姿でいきたいって」
晴也は晶を見て、目を瞬いた。晶が出演しているショーパブは、様々な歌や踊りを日替わりで1日2ステージ上演する。水曜のドルフィン・ファイブは、男性客限定でストリップを演っている。
「男のエロ寄りバニーってどんな格好なんだ?」
「俺もよくわからない……ハルさんは何?」
訊かれた晴也は思わず笑った。
「めぎつねも鏡開きくらいまで、干支にちなんでホステスはバニーでお願いしますだって」
晶は思わずといった風に立ち上がった。何だよ、と晴也はのけぞる。彼は眉を吊り上げていた。
「バニーガールなんて駄目だ、めぎつねは客層は悪くないけど、スケベなホモがいないとは限らない」
「おまえもスケベなホモじゃないか」
晴也がつい口を滑らせると、晶は腰を下ろして三角座りになり、露骨に嫌な顔をした。
「まあそれは認めるとしても、俺はハルさんが危険に晒されるのを甘受できないぞ」
「まあまあ、レオタードに網タイツとは書いてないから……つか、そんな格好ができるのはミチルさんしかいないよ」
晴也もそんな際どいコスプレをする気は無いし、英一朗が強いてくるとも思えない。耳と尻尾くらい付けることができるよう、服を選べということだろう。
「ホットパンツにブーツとか可愛いかな……俺は優弥さんがどんなイメージで言ってるのかが気になるなぁ」
晴也は首を傾げた。晶は苦笑する。
「あの人ゲイじゃないのに、いつもゲイの好きそうなシチュとか衣装とかめちゃ突いてくるんだ」
それはある意味才能である。だから水曜23時のルーチェはいつも満席なのだろう。晴也は感心した。
「それこそショウさんなら、レオタードにピンヒールでも踊れるだろ」
「ピンヒールは怖いな」
真面目に考える晶が可笑しい。晴也は検索エンジンに、男、バニーと打ち込んでみた。すると、いろいろな写真やイラストが引っかかってくる。
お互いのきょうだいに、男同士暮らしている2人に、面と向かって口にはしないものの眉を顰めている人たちがいる。そのため、必ずしも気を遣わず過ごせた訳ではない。しかし、そのきょうだいの子どもたち……晴也と晶の甥や姪たちはあくまでも無邪気に接してくれるのは救いである。彼らにお年玉を渡すことで、互いの一族の正月の平和は守られたのだった。
2人とも、もう明日はサラリーマン業の仕事始めなので、その日は朝からのんびりしていた。晶の姉の鞠は、3月の公演の練習が始まるから、今夜発の便でロンドンに戻ると連絡をくれた。
晴也はバレリーナの義姉が好きだが、彼女はほぼ女版晶である。涼やかな目許と上品な唇に微笑を浮かべながら、そりの合わない兄(彼女は弟の晶のことは好きらしい)を荒っぽい言葉で罵る。その迫力に晴也はあ然として固まってしまうのだが、それが通常運転らしく、吉岡家では誰も彼女を止めない。
その話を苦笑混じりに晶にすると、彼はヨガマットの上で足を揉みながら、あっさり言う。
「うちじゃ兄貴のほうが異端だから仕方ないよ、昔から誰に似たんだって言われてるからな」
晴也は呆れと驚き混じりに答えた。
「お義兄さん気の毒だ、激しく同情するよ」
「同情しなくていいぞ、兄貴は結局気にしてないんだから……ハルさんの優しさを無駄使いする必要はない」
どうも納得いかないが、よその家のことをがたがた言うのもどうかと思うので、晴也は読みかけの新聞に視線を落とす。
晴也のスマートフォンがぶるぶると震えた。ほぼ同時に、晶のスマホもびりびりとテーブルの上で音を立てる。
「ミチルさんから新年の挨拶かな」
晴也は晶のほうを見ながら、スマホを手に取ったが、めぎつねの英子ママこと英一朗からのLINEだった。新年の挨拶と、仕事始めの諸連絡だったが、内容にやや困惑した。
「あ、俺は優さんからだ」
晶が受けたメッセージは、ドルフィン・ファイブの優弥からのようだった。トークルームを開いた晶は、えっ、と目を丸くした。晶には何が起きたのだろうか。
「優弥さん何なの?」
「あ、いやまあ毎年のことだけど……1月中は水曜に1曲、エロ寄りバニー姿でいきたいって」
晴也は晶を見て、目を瞬いた。晶が出演しているショーパブは、様々な歌や踊りを日替わりで1日2ステージ上演する。水曜のドルフィン・ファイブは、男性客限定でストリップを演っている。
「男のエロ寄りバニーってどんな格好なんだ?」
「俺もよくわからない……ハルさんは何?」
訊かれた晴也は思わず笑った。
「めぎつねも鏡開きくらいまで、干支にちなんでホステスはバニーでお願いしますだって」
晶は思わずといった風に立ち上がった。何だよ、と晴也はのけぞる。彼は眉を吊り上げていた。
「バニーガールなんて駄目だ、めぎつねは客層は悪くないけど、スケベなホモがいないとは限らない」
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晴也がつい口を滑らせると、晶は腰を下ろして三角座りになり、露骨に嫌な顔をした。
「まあそれは認めるとしても、俺はハルさんが危険に晒されるのを甘受できないぞ」
「まあまあ、レオタードに網タイツとは書いてないから……つか、そんな格好ができるのはミチルさんしかいないよ」
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「ホットパンツにブーツとか可愛いかな……俺は優弥さんがどんなイメージで言ってるのかが気になるなぁ」
晴也は首を傾げた。晶は苦笑する。
「あの人ゲイじゃないのに、いつもゲイの好きそうなシチュとか衣装とかめちゃ突いてくるんだ」
それはある意味才能である。だから水曜23時のルーチェはいつも満席なのだろう。晴也は感心した。
「それこそショウさんなら、レオタードにピンヒールでも踊れるだろ」
「ピンヒールは怖いな」
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