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書籍化記念 幼少期 番外編
ベタ褒めだったようです
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「にいさま。いっちゃ、や」
「にいさま。めっ!」
俺の上着の裾を掴みながら涙を浮かべているのは、弟で双子のレオンとラルフだ。
逃がすまいと、二人は小さなお手で必死に俺の服を掴んでいる。その姿は可愛い以外の何者でもなかった。
サラサラの水色の髪にグレーの瞳。幼いながらも整った顔立ちは母上似で、将来は涼しげな美少年に成長しそうである。
「フィン坊っちゃま。申し訳ございません」
レオンとラルフの世話をしていたアマーリアが頭を下げてきた。機嫌良く二人で遊んでいたはずなのに、少し目を離した隙にいなくなってしまったらしい。驚いたと同時にまさかと思って玄関ホールまで来たら、俺に手を伸ばしている二人を発見したそうだ。まだ幼いのに、アマーリアを油断させて自分たちの目的を達成したとなると大したものである。
それにしても、抜き足、差し足、忍び足で玄関まで辿り着き、見送りもハーゲン一人に絞ったというのに、俺が出かけると何故気づいたのか。
俺は振り返り床に膝をつくと、レオンとラルフに向き直った。両側から同時に抱きついてきた二人を俺もキュっと抱きしめる。
「レオン、ラルフ。兄さまは、お友達とお約束してるから出かけないといけないんだ。終わったら帰ってくるから。帰ってきてから兄さまと一緒に遊ぼう。ねっ?」
殊更優しく笑顔を浮かべて言ってみる。実際には長時間不在にするわけだが、本当のことなど言えない。まだ時間に余裕はある。焦っては駄目だ。これで納得してくれたらいいが、納得せず大騒ぎになると大変だ。振り切って抜け出した俺はいいが、残された使用人たちが苦労することになる。
俺の言葉に素直に頷く日と、そうでない日がある。
今日はどっちだ。
レオンとラルフが揃って顔をくしゃりと歪めたのを見て、今日は駄目な日かと俺は内心で天を仰いだ。案の定、そのすぐ後には屋敷中に二つの泣き声が響き渡ったのである。
「で? 連れてきたというわけか」
「うん。甘い兄で申し訳ない」
弟二人を両側にピッタリと付けている俺を見て、ヴィルヘルムは呆れたように言った。
行っちゃ嫌だ、行くなら連れて行ってと泣き喚く弟たちに俺は根負けした。
無理を承知で約束していたヴィルヘルムにお願いしたら、弟も一緒に連れてきてもいいと許可をくれた。
ここは後宮にあるオーラン様の離宮だ。ゴットフリートとラインハルトもいる。二人は同じ双子同士だからか、俺に抱きつき半分隠れるようにしているレオンとラルフを興味深そうに眺めていた。
俺は改めて姿勢を正すと、ヴィルヘルムへ頭を下げた。
「ヴィルヘルム殿下。弟たちを招待してくださりありがとうございます。こちらが上の弟のレオン。こちらが下の弟のラルフです」
そう紹介してから、弟たちをそっと前に押し出した。一緒に行くなら挨拶をきちんとすること、と二人と約束してある。
「はじめまして。レオン・ローゼシュバルツです」
「ラ、ラルフ・ローゼシュバルツです」
レオンもラルフも緊張しながらも前に出るときちんと自己紹介できた。
俺の弟たちえらい。
ヨシヨシと二人の頭を撫でると、二人は安心したように笑った。
「レオン、ラルフ。こちらが、この国の第二王子であるヴィルヘルム殿下。そしてこちらが、第一騎士団長の御子息であるゴットフリートとラインハルトだよ。今日はよろしくお願いしますって言おうね」
「「よろしくおねがいします!」」
今日は弟たちも含めて六人で遊ぶ。幼い子どもと一緒で三人が退屈しないか心配していた俺だったが、それはすぐ杞憂に終わった。俺の想像以上に三人は面倒見が良かったのだ。
「ゴット! もっかい! もっかいして!」
ゴットフリートに抱きついてお願いしたのはレオンだ。
「よし! そーれっ!」
ゴットフリートは笑うと、レオンの体を持ち上げてその場で一周グルンと回った後、転がすようにレオンを着地させた。遠心力も加わりスリルがあるのか、レオンは『きゃーっ!』と笑いながら楽しそうに転がった。地面は芝生なので柔らかく、転がされても痛くなさそうである。
「ライン! ラルフにもして!」
今度はラインハルトにラルフがお願いした。
ラインハルトも同じようにラルフを持ち上げると、グルグル回してから芝生へコロリと転がす。きゃっきゃと笑う弟たちは楽しそうだ。
天気も良いので中庭で遊ぶことになり、弟たちに合わせて鬼ごっこをしていたのだが、いつの間にかこうなった。ゴットフリートとラインハルトは騎士を目指しているだけあり力持ちで体力もある。何度も弟たちのリクエストに応えていて凄いと感心した。
庭遊びが終わると、室内に戻り一度休憩してみんなでお菓子を食べた。
その後、今度はヴィルヘルムが弟たちに絵本を読んでくれた。
「そうして、少年とドラゴンは共に世界へと旅立ったのでした」
最初は人見知りしていたレオンとラルフだったが、走り回って遊んで緊張が解けたのか、ヴィルヘルムに両側からペタリと引っ付いて絵本を覗き込んでいた。
あまりにも近い距離感に俺の方が少しヒヤリとしてしまったが、ヴィルヘルムは驚きつつも嫌がらず、そのまま絵本を読んでくれた。
第二王子に絵本を読んでもらえる機会などそうそうない。他国の童話で知らない話だったこともあり、俺も思わず聞き入ってしまった。
「ふぁ! よかったね!」
「うん! ドラゴンさんさみしくないね!」
「あぁ、そうだな」
弟たちの感想に、ヴィルヘルムも笑って頷いてくれた。
弟たちとヴィルヘルムたちが仲良くなってくれたことが嬉しくて、ずっと俺もニコニコ笑っていた。
帰宅時間が迫り、俺は帰る前にトイレに行った。すっきりして戻ってくると、室内にいたはずのエリクが応接室の扉の前で俺を待っていた。今日はエリクとトリスタンも一緒で、離宮の使用人と共に俺たちの様子を少し離れた位置からずっと見守ってくれていた。
通せんぼするように扉の前で待っていたエリクに、俺は首を傾げる。
「エリク。どうしたの?」
エリクは俺を見ると困惑したように少し眉を下げ、モゴモゴと口を動かした。何か言いにくそうな素振りをした後、エリクは小声で俺の耳に囁いてきた。
「その……少しタイミングをみてから入室なさった方がよろしいかと」
「?」
その言葉に困惑しながらも俺は応接室の扉をそっと開いた。そして聞こえてきたレオンの元気いっぱいな発言に、俺は固まってしまう。
「にいさまは、でんかのことカッコいいっていってたよ!」
声音から満面の笑みであろうレオンの言葉に『ほう』と面白そうに頷いたのはヴィルヘルムだ。
「他には?」
「んー? あっ、いげんがあるっていってた!」
「おうじさまで、いげんがあってカッコいいっていってた!」
ラルフが言った後、レオンが先程の言葉を足してもう一度繰り返す。
今日馬車に乗って連れてくる途中で『ヴィルヘルム殿下は王子様で威厳があってカッコいいんだよ。偉い人だから失礼のないように、きちんと挨拶しようね』と確かに言った。
王族や貴族などの身分制度をどこまで二人が理解できているのか分からず、とりあえず失礼のないように言い含めたくて言った。
偉い人だから『失礼のないように』ということを強調したくて言ったのだが、後半の言葉を二人は覚えていないのか、その発言だけだと俺がヴィルヘルムをただ褒めているだけに聞こえてしまう。
俺の頬に自然と熱が集まった。
「俺たちは?」
「俺たち、ゴットとラインのことは何か言ってたか?」
そう問いかけたのはゴットフリートとラインハルトだ。
「んぅ? んっとね」
「んー?」
レオンとラルフは悩むように唸った後、何かを思い出したのか『あっ!』と声を上げた。
「ゴットとラインはつよいっていってた!」
「にいさまいってた! ちからもちって!」
「いってた! はしるのもはやいって!」
「「すごいっていってた!」」
ねーっ!と、弟たちは嬉しそうにきゃっきゃと笑っている。楽しそうで何よりだが、俺の体からは変な汗が噴き出てきた。
「へぇ」
「ふぅん」
ニヤニヤと笑ってそうなゴットフリートとラインハルトの声に俺は思わず俯く。
きっとこれは日常で何気なく話した内容だ。
四人の中でも俺は一番ひ弱で、体格も良く剣の腕もメキメキと上達していく双子に憧れていた。それと同時に、雷属性を持ち王子でもあるヴィルヘルムも含めて、彼らが自分の友だちなのだという誇らしげな気持ちも持っていた。
だから、ついつい俺の友だちは凄いんだよと、弟たちに話してきかせたことがある。あるけども。
俺が扉の前で俯いてる間に、弟たちは元気よく言葉を続けていた。
ヴィルヘルムの髪はサラサラしててキレイだとか、ゴットフリートは背が高くて羨ましいだとか、ラインハルトは物知りで凄いだとか。
弟たちの記憶力が素晴らし過ぎて、俺の呼吸が浅くなってきた。
「……………………エリク」
「はい」
「ぼく、そんなに口に出して言ってた?」
たっぷりと汗をかいて赤くなっている俺の顔をハンカチで拭いていたエリクは、迷うことなく頷いた。
マジか。無意識に三人のことを褒めまくっているだなんて。それはもう何ていうか。
「すきっていってたよ!」
「だいすきっていってたー!」
それな!
俺が三人のことを大好きって、家で言いまくってるような感じじゃないか。
確かに兄さまは三人のこと大好きだけど。
でもそれは内緒にして欲しかったよレオンにラルフ。
俺はずるずると扉の前で座り込み、どんな顔をして部屋に入ったらいいんだと頭を抱えた。
これからは弟たちの前での発言には充分気をつけようと、俺が心に固く誓ったのは言うまでもない。
「にいさま。めっ!」
俺の上着の裾を掴みながら涙を浮かべているのは、弟で双子のレオンとラルフだ。
逃がすまいと、二人は小さなお手で必死に俺の服を掴んでいる。その姿は可愛い以外の何者でもなかった。
サラサラの水色の髪にグレーの瞳。幼いながらも整った顔立ちは母上似で、将来は涼しげな美少年に成長しそうである。
「フィン坊っちゃま。申し訳ございません」
レオンとラルフの世話をしていたアマーリアが頭を下げてきた。機嫌良く二人で遊んでいたはずなのに、少し目を離した隙にいなくなってしまったらしい。驚いたと同時にまさかと思って玄関ホールまで来たら、俺に手を伸ばしている二人を発見したそうだ。まだ幼いのに、アマーリアを油断させて自分たちの目的を達成したとなると大したものである。
それにしても、抜き足、差し足、忍び足で玄関まで辿り着き、見送りもハーゲン一人に絞ったというのに、俺が出かけると何故気づいたのか。
俺は振り返り床に膝をつくと、レオンとラルフに向き直った。両側から同時に抱きついてきた二人を俺もキュっと抱きしめる。
「レオン、ラルフ。兄さまは、お友達とお約束してるから出かけないといけないんだ。終わったら帰ってくるから。帰ってきてから兄さまと一緒に遊ぼう。ねっ?」
殊更優しく笑顔を浮かべて言ってみる。実際には長時間不在にするわけだが、本当のことなど言えない。まだ時間に余裕はある。焦っては駄目だ。これで納得してくれたらいいが、納得せず大騒ぎになると大変だ。振り切って抜け出した俺はいいが、残された使用人たちが苦労することになる。
俺の言葉に素直に頷く日と、そうでない日がある。
今日はどっちだ。
レオンとラルフが揃って顔をくしゃりと歪めたのを見て、今日は駄目な日かと俺は内心で天を仰いだ。案の定、そのすぐ後には屋敷中に二つの泣き声が響き渡ったのである。
「で? 連れてきたというわけか」
「うん。甘い兄で申し訳ない」
弟二人を両側にピッタリと付けている俺を見て、ヴィルヘルムは呆れたように言った。
行っちゃ嫌だ、行くなら連れて行ってと泣き喚く弟たちに俺は根負けした。
無理を承知で約束していたヴィルヘルムにお願いしたら、弟も一緒に連れてきてもいいと許可をくれた。
ここは後宮にあるオーラン様の離宮だ。ゴットフリートとラインハルトもいる。二人は同じ双子同士だからか、俺に抱きつき半分隠れるようにしているレオンとラルフを興味深そうに眺めていた。
俺は改めて姿勢を正すと、ヴィルヘルムへ頭を下げた。
「ヴィルヘルム殿下。弟たちを招待してくださりありがとうございます。こちらが上の弟のレオン。こちらが下の弟のラルフです」
そう紹介してから、弟たちをそっと前に押し出した。一緒に行くなら挨拶をきちんとすること、と二人と約束してある。
「はじめまして。レオン・ローゼシュバルツです」
「ラ、ラルフ・ローゼシュバルツです」
レオンもラルフも緊張しながらも前に出るときちんと自己紹介できた。
俺の弟たちえらい。
ヨシヨシと二人の頭を撫でると、二人は安心したように笑った。
「レオン、ラルフ。こちらが、この国の第二王子であるヴィルヘルム殿下。そしてこちらが、第一騎士団長の御子息であるゴットフリートとラインハルトだよ。今日はよろしくお願いしますって言おうね」
「「よろしくおねがいします!」」
今日は弟たちも含めて六人で遊ぶ。幼い子どもと一緒で三人が退屈しないか心配していた俺だったが、それはすぐ杞憂に終わった。俺の想像以上に三人は面倒見が良かったのだ。
「ゴット! もっかい! もっかいして!」
ゴットフリートに抱きついてお願いしたのはレオンだ。
「よし! そーれっ!」
ゴットフリートは笑うと、レオンの体を持ち上げてその場で一周グルンと回った後、転がすようにレオンを着地させた。遠心力も加わりスリルがあるのか、レオンは『きゃーっ!』と笑いながら楽しそうに転がった。地面は芝生なので柔らかく、転がされても痛くなさそうである。
「ライン! ラルフにもして!」
今度はラインハルトにラルフがお願いした。
ラインハルトも同じようにラルフを持ち上げると、グルグル回してから芝生へコロリと転がす。きゃっきゃと笑う弟たちは楽しそうだ。
天気も良いので中庭で遊ぶことになり、弟たちに合わせて鬼ごっこをしていたのだが、いつの間にかこうなった。ゴットフリートとラインハルトは騎士を目指しているだけあり力持ちで体力もある。何度も弟たちのリクエストに応えていて凄いと感心した。
庭遊びが終わると、室内に戻り一度休憩してみんなでお菓子を食べた。
その後、今度はヴィルヘルムが弟たちに絵本を読んでくれた。
「そうして、少年とドラゴンは共に世界へと旅立ったのでした」
最初は人見知りしていたレオンとラルフだったが、走り回って遊んで緊張が解けたのか、ヴィルヘルムに両側からペタリと引っ付いて絵本を覗き込んでいた。
あまりにも近い距離感に俺の方が少しヒヤリとしてしまったが、ヴィルヘルムは驚きつつも嫌がらず、そのまま絵本を読んでくれた。
第二王子に絵本を読んでもらえる機会などそうそうない。他国の童話で知らない話だったこともあり、俺も思わず聞き入ってしまった。
「ふぁ! よかったね!」
「うん! ドラゴンさんさみしくないね!」
「あぁ、そうだな」
弟たちの感想に、ヴィルヘルムも笑って頷いてくれた。
弟たちとヴィルヘルムたちが仲良くなってくれたことが嬉しくて、ずっと俺もニコニコ笑っていた。
帰宅時間が迫り、俺は帰る前にトイレに行った。すっきりして戻ってくると、室内にいたはずのエリクが応接室の扉の前で俺を待っていた。今日はエリクとトリスタンも一緒で、離宮の使用人と共に俺たちの様子を少し離れた位置からずっと見守ってくれていた。
通せんぼするように扉の前で待っていたエリクに、俺は首を傾げる。
「エリク。どうしたの?」
エリクは俺を見ると困惑したように少し眉を下げ、モゴモゴと口を動かした。何か言いにくそうな素振りをした後、エリクは小声で俺の耳に囁いてきた。
「その……少しタイミングをみてから入室なさった方がよろしいかと」
「?」
その言葉に困惑しながらも俺は応接室の扉をそっと開いた。そして聞こえてきたレオンの元気いっぱいな発言に、俺は固まってしまう。
「にいさまは、でんかのことカッコいいっていってたよ!」
声音から満面の笑みであろうレオンの言葉に『ほう』と面白そうに頷いたのはヴィルヘルムだ。
「他には?」
「んー? あっ、いげんがあるっていってた!」
「おうじさまで、いげんがあってカッコいいっていってた!」
ラルフが言った後、レオンが先程の言葉を足してもう一度繰り返す。
今日馬車に乗って連れてくる途中で『ヴィルヘルム殿下は王子様で威厳があってカッコいいんだよ。偉い人だから失礼のないように、きちんと挨拶しようね』と確かに言った。
王族や貴族などの身分制度をどこまで二人が理解できているのか分からず、とりあえず失礼のないように言い含めたくて言った。
偉い人だから『失礼のないように』ということを強調したくて言ったのだが、後半の言葉を二人は覚えていないのか、その発言だけだと俺がヴィルヘルムをただ褒めているだけに聞こえてしまう。
俺の頬に自然と熱が集まった。
「俺たちは?」
「俺たち、ゴットとラインのことは何か言ってたか?」
そう問いかけたのはゴットフリートとラインハルトだ。
「んぅ? んっとね」
「んー?」
レオンとラルフは悩むように唸った後、何かを思い出したのか『あっ!』と声を上げた。
「ゴットとラインはつよいっていってた!」
「にいさまいってた! ちからもちって!」
「いってた! はしるのもはやいって!」
「「すごいっていってた!」」
ねーっ!と、弟たちは嬉しそうにきゃっきゃと笑っている。楽しそうで何よりだが、俺の体からは変な汗が噴き出てきた。
「へぇ」
「ふぅん」
ニヤニヤと笑ってそうなゴットフリートとラインハルトの声に俺は思わず俯く。
きっとこれは日常で何気なく話した内容だ。
四人の中でも俺は一番ひ弱で、体格も良く剣の腕もメキメキと上達していく双子に憧れていた。それと同時に、雷属性を持ち王子でもあるヴィルヘルムも含めて、彼らが自分の友だちなのだという誇らしげな気持ちも持っていた。
だから、ついつい俺の友だちは凄いんだよと、弟たちに話してきかせたことがある。あるけども。
俺が扉の前で俯いてる間に、弟たちは元気よく言葉を続けていた。
ヴィルヘルムの髪はサラサラしててキレイだとか、ゴットフリートは背が高くて羨ましいだとか、ラインハルトは物知りで凄いだとか。
弟たちの記憶力が素晴らし過ぎて、俺の呼吸が浅くなってきた。
「……………………エリク」
「はい」
「ぼく、そんなに口に出して言ってた?」
たっぷりと汗をかいて赤くなっている俺の顔をハンカチで拭いていたエリクは、迷うことなく頷いた。
マジか。無意識に三人のことを褒めまくっているだなんて。それはもう何ていうか。
「すきっていってたよ!」
「だいすきっていってたー!」
それな!
俺が三人のことを大好きって、家で言いまくってるような感じじゃないか。
確かに兄さまは三人のこと大好きだけど。
でもそれは内緒にして欲しかったよレオンにラルフ。
俺はずるずると扉の前で座り込み、どんな顔をして部屋に入ったらいいんだと頭を抱えた。
これからは弟たちの前での発言には充分気をつけようと、俺が心に固く誓ったのは言うまでもない。
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