異世界転生したら養子に出されていたので好きに生きたいと思います

佐和夕

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番外編

シャンプー、の後には

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 コハクを完璧に洗い上げた後、さすがに疲れてしまった俺は脱衣所で座り込んでいた。
「フィン様。お疲れのところ申し訳ございませんが、そのままですと風邪をひかれてしまいます。ご入浴なさいますか?」
 準備はできているとエリクは言ってくれたが、俺は風呂に入る元気が残っていなかった。もう魔法で服を乾かしてしまおうかと考えていたら、ラインハルトが笑顔でこちらに近づいてきた。その笑みを見た瞬間、俺の本能が警戒音を鳴らす。
 あの笑みは、ろくなことを考えていない!
 俺は慌てて逃げようと体の向きを変えたが、一歩遅く、ガシッと背後から腰を掴まれてしまった。
「なら、一緒に風呂に入るか」
 やっぱり!
「結構です‼︎」
「うんうん。じゃあ、フィンもいいって言ってるし行こうか」
 ラインハルトは、俺の腰を掴んだまま振り返ると、背後にいたヴィルヘルムとゴットフリートへ楽しそうに告げた。
「了承の意味じゃない! 遠慮するって意味だから!」
 そう叫んでみたものの、ラインハルトは意に介さず、俺の体をいとも簡単に肩に担ぎ上げた。
「遠慮する仲でもないだろう」
「そうだぜ。フィンが使い魔たちにしたように、丁寧にじっくりと洗ってやるよ」
 ヴィルヘルムとゴットフリートも、これまた楽しそうにニヤリと笑った。
 待て待て待て。一気に三人も相手にするなんて勘弁してほしい。今は無理だから。体力満タンでも厳しいから!
 どうしようと俺が焦っていると、俺の従者であるトリスタンが『お待ちください』と三人へ声をかけてくれた。助け舟かと思いきや、俺の従者はこの時ばかりは俺の味方じゃなかった。
「ご夕食の時間を遅らせるのは、一時間でよろしいですか?」
「トリスタン‼︎」
 何をキリッとした顔で確認しているんだ。どうして時間がかかる前提でお伺いを立てる。髪と体を洗って湯船につかるだけだから、三十分もあれば充分だろ。夕食の時間まで一時間以上あるんだから、遅らせる必要なんてない。ないって誰か言ってくれ。
 ヴィルヘルムは、トリスタンの言葉に顎に手を当てて少し考えた後、とんでもないことを言った。
「いや、二時間遅らせてくれ」
「二時間⁉︎」
 いったい風呂場で何をする気だ。そんな何時間も風呂に入っていたら、逆に体調を崩してしまう。
「何をそんなに驚いてるんだ? ゆっくりできていいだろう?」
 ヴィルヘルムは、俺の頬を手のひらで包むと、親指で俺の唇を撫でてきた。
「フィンは何もしなくていい。俺たちが全部やってやるからな」
 ヴィルヘルムから艶やかな笑みを向けられて、指先まで真っ赤に染まった俺は、ラインハルトの肩の上で撃沈した。
 そのままヴィルヘルム専用の風呂場まで連れて行かれ、言葉通り何もさせてもらえず、俺は三人の手で脱がされた後、まるっと洗われた。誰にどこを洗われたのかは、秘密である。

 
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