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番外編

新年 数日後 ゴットと

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 ノックをしたが応答がない。ノブを回すと開いていたので、そっと中に入った。部屋の中を探すと、キッチンに立っている大きな背中を見つける。忍び寄り、ぎゅっと背中から抱きついた。
「フィン?」
「ゴット、何作ってるの?」
「リントゥの野菜たっぷりシチュー」
 リントゥは角が大きな牛みたいな動物だ。匂いからしてビーフシチューのようなものかと当たりをつける。鍋を覗き込むと、ゴロゴロと大きめに切られた芋などが見えた。コックリした焦茶色のスープを見ていると、俺の腹が盛大に鳴った。恥ずかしい腹め。
 ゴットフリートは可笑しそうに笑った。
「味見するか?」
「うん!」
 スプーンで鍋の中から掬い出してくれたのは、なんとメインの肉。味見にお肉をくれるなんてそんな。贅沢だなと思ったが、くれるなら有り難く頂戴しますよ。はい。
 ゴットフリートは、少し冷ましてから俺の口に入れてくれた。噛むとホロリと崩れ、濃厚なスープと絡み合って、んまい!
 ゴットフリートは料理上手である。伯爵家の出で、第二王子のヴィルヘルムと一緒に暮らしている今も、料理人はいるし自分で料理する必要なんてない。ただの趣味らしいが、その腕はメキメキと上達していき、俺の胃袋は掴まれてしまっている。
「どうだ?」
「すごく美味しいよ!」
「そりゃ良かった」
 くしゃりと頭を撫でられた。優しい手に嬉しくなって、俺はゴットフリートに擦り寄る。こうやって引っ付いてると、何かすごい癒されるんだよな。
 コトコトと煮込まれているシチューを見ながらそんなことを思っていると、ゴットフリートが身を屈めてきた。顔を近づけられ、俺は自然と瞼を閉じる。一度だけ唇が落ちてきたが、それで終わりだった。
「…………」
 ゴットフリートは、再びシチューをかき混ぜ始める。
 料理中にお邪魔した俺が悪いのだが、何というか、もっとこう、ねぇ?
 口が裂けても言えないが、物足りない。
 せめて、もう一回くらいして欲しい。
 ゴットフリートは背が高く、俺が背伸びしても唇には届かないので、どうしようかと悩んだ。強請ることは、俺にはハードルが高い。それにまだ昼間である。
 仕方なく、シチューが出来上がるのを俺は隣で大人しく待った。

 ゴットフリートは、鍋をかき混ぜながら、フィンの焦れている姿を楽しそうに盗み見ていた。
 やっと通常まで回復したな。食欲も旺盛だし、そろそろ大丈夫か。
 新年から、ヴィルヘルムとラインハルトにヘロヘロにされ、フィンは数日寝込んでいた。元気そうな姿に、ゴットフリートは安心する。
 ペタリとくっ付いてくるフィンが可愛い過ぎるが、もう少しの我慢だ。
 食べるならガッツリ食べたいもんな。
 手を出さないでいると不安になるのか、それとも触れ合いたいと思ってくれるのか、フィンは自ら寄ってくる。
 期待に満ちた顔を見たくて、自ら我慢する自分はMなのかもしれない。
 それでも、求められるのが嬉しくて、ゴットフリートはフィンを毎回焦らしてしまう。
 期待に応えるべく、鍋にかけた火を止めたゴットフリートは、可愛い恋人を抱き上げたのだった。
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