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第三章

129話 前魔王復活

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 魔法陣から現れたのは、真っ黒な長い髪と頑丈そうな角を持つ、冷徹な顔をした悪魔だ。
 漆黒の瞳で見つめられ、問いかけようとしたが、声が出ない。

『フリューゲル?』

 心の声で問いかけると『あぁ、そうだ』と返事をしてくれた。
 先程見た前世の記憶の中で、姉の姿を借りて現れた男の声と同じだった。

『助けて欲しいの』
「任せろ」

 内容も聞かず、条件も提示せず、フリューゲルは、あっさりと引き受けてくれた。
 その言葉に疑問を持つこともなく、俺は安堵する。
 
 これでもう大丈夫。

 限界だった体から急激に力が抜けていき、俺は前方に倒れ込んだ。
 地面に衝突する前に、フリューゲルが膝を突いて支えてくれる。

「私の復活と、分身を大切にしてくれた礼だ。必ず叶えてやる」

 その言葉を最後に、俺の意識は途切れた。


 
 戦場に立っていた者は皆、一瞬にして動きを止めた。
 突然、地響きと突風と共に、途方もない魔力の塊が現れたのだ。
 体の上から押さえ付けられるような力。
 弱い生き物は、その圧力に怯えた。
 強い生き物は、その正体を確かめようと、警戒心を露わにする。
 ヴィオリーネは、馴染みのある魔力を感じ、その姿を視界に捉えて目を見開いた。
 信じられないと思った。
 誰が探しても見つからず、気配すら追えなかったのに。
 人間と交渉してまで、連れ戻そうとした唯一の王が、目の前にいるのだ。
 ヴィオリーネは、自分の口角がゆるゆると上がっていくのが分かった。
 やってくれる、と内側から溢れ出る喜びでいっぱいになり、ヴィオリーネは満面の笑みを浮かべ、フリューゲルの腕に抱かれているフィンを見た。
 気を失っているが、まだ生きているようだった。

「フリューゲル様だ…」

 誰かが、ポツリと呟く。
 フリューゲルは、腕の中にいるフィンから視線を上げた。
 懐かしい顔、知らない顔、皆が見つめる中、フリューゲルは口を開く。

「私に逆らう者がいるなら前に出よ。相手をしてやろう」

 ドンっと戦場全域に渡るほどの覇気をフリューゲルは発した。
 その瞬間、戦場にいた殆どの魔物たちは平伏し、人間たちは身を伏せ硬直した。
 ヴィオリーネたちは、フリューゲルのそばに瞬時に移動し、膝を突き我らが王の帰還を喜んだ。
 立っているのは、現魔王とその仲間たち。
 現魔王を視界に捉えたフリューゲルは、すっと目を眇めた。

「久しいな。あの時の借りを返してやろう。今度は手加減などせぬ。奪われた物を返してもらうぞ」

 フリューゲルは、フィンをヴィオリーネに預けると、現魔王と上級悪魔数人を相手に一人で戦いを挑んだ。
 その戦いは、苦戦した人間たちが驚くほど一方的なものとなり、フリューゲルは自らの力で再び王座に返り咲くことになる。

 こうして、千年以上をかけた人間界と魔界との攻防は、意外な形で終止符が打たれ、新たな関係への幕開けとなった。

 フリューゲルは、現魔王たちを倒した後、魔界の魔物たちを引き連れて大人しく魔界へと帰って行った。
 ヴィオリーネが、フリューゲルやクラヴィアを連れて再びやって来たのは、あの戦いの日から数日後のこと。

「同盟結ぶんでしょ?」

 フリューゲルの復活に喜んだ魔界側は友好的で、人間側は戸惑ったが、自分のシナリオ通りに事が運んだマキシミリアンが指揮を取り、スムーズに同盟が組まれた。
 何度か話し合いが行われ、細かな条約が結ばれていき、昔のように二つの世界が自由に行き来出来る世の中へと変わっていく。
 そのきっかけを作った俺は、ずっと意識が戻らず、全て無事に終わったことを知ったのは、戦いが終わってから一ヶ月を過ぎた頃だった。
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