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第三章

114話 ドラゴンとの再会

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 俺は卒業式が終わった後も隣国に留まっていた。
 就職先は決定していたが、仕事始まりは九月で、まだ二ヶ月以上もあり急いで帰国する必要もない。
 寮は追い出されたので、帰国までの間は先生の家に居候させてもらうことにした。

『先生!もう少しこの国で遊んでから帰りたいので、泊めてください!』
『う、うむ?構わないが、早く帰らなくて大丈夫なのか?』
『大丈夫です!父上には、ギリギリまで学びたいことがあるので、帰るのは八月中旬になると伝えてあります!』

 俺は、キリッとした顔で答えた。

『堂々と父親に嘘をついたと申告した上に、全然少しではないな?二ヶ月近くも滞在するなんて、何か目的でもあるのか?』
『目的っていうか、みんなに予定を埋められてしまいました』

 先生に家に入れてもらい、休みの間の予定表を見せた。
 いろんな人の筆跡で、コメント付きの予定が書いてある紙を見て、先生は可笑しそうにクスリと笑った。

『これはまた、大忙しだな』

・卒業旅行(五人+ルーちゃん)
・バザーの手伝い(ベルボルト)
・大釣り大会(ニコラ)
・武器屋巡り(スヴェン)
・使い魔選手権(リリ)
・孤児院&救護院へボランティア(ルーちゃん)
・海辺でバーベキュー(親方&ヤンくん)
・洞窟探検魔道具探し(ディルちゃん)…etc

『長期休暇は帰国してばかりだったでしょ?この機会に、こっちの夏を体験してから帰ったらって提案されたんです。就職したら長い休みはあまり取れないし、頻繁に来れないだろうから最後に遊び納めていけって』
『なるほどな。卒業旅行にはルーカスも一緒に行くのか?』
『ルーちゃんがね、叔父さんの別荘を貸してくれるんです。でも、使うにはルーちゃんも同伴じゃないと駄目って条件出されちゃったらしくて』

 先生に聞かれるまま、俺は一つずつ予定について話していく。
 そんな風に、俺の最後の長期休暇が始まった。
 そして、俺がドラゴンの卵と出会ったのは、休暇が始まってから三日後のことだった。



 穏やかな瞳に見つめられ、俺はその眼差しに見覚えがあるような気がした。

「君は、あの時のドラゴン?」
「グルルルルっ」

 ふむ。
 何て言っているか分からんが、肯定されたような気がするぞ。

「どうですか?」

 そばで見守っていたドラゴン愛護団体の団員さんに聞かれ、俺は立ち上がって振り返った。

「多分、効いたと思うんですけど」

 俺がそう答えると、それを証明するようにドラゴンが起き上がった。ぐったりと寝そべっていたのが嘘のように、翼を大きく広げ、バサバサと動かし出す。強い風が巻き起こり、俺は慌ててその場を離れた。
 ドスドスと助走をつけ、ぐっと地面を踏みしめたドラゴンは、勢いよく飛び立つ。
 周りで見ていた他の人たちが『おぉ!』と驚きの声をあげた。

「すげーな。元気になったぞ」

 上空で力強く飛んでいるドラゴンを見て、ニコラが感心したように言った。

「それにしても、あの時と同じドラゴンだったなら運が悪いな。二度も呪具の被害に遭うなんて」
「本当にね」

 スヴェンの言葉に、俺は頷いた。
 あの時とは、一年生の時に行われた階級テストのことだ。
 魔笛のせいで混乱し暴れていたドラゴンと同種のドラゴンたちが、現在五頭ほど目の前にいる。
 皆、ぐったりと地面に伏せており元気がなかった。
 ここは、階級テストの時にドラゴンが暴れていた島だ。
 このドラゴンたちは、この島を棲家にしているわけではないのに、最近頻繁にこの島の上空を旋回していたらしい。
 異変だと感じた現地の人たちが騎士団に連絡し、調査が入った。
 調査隊が到着する頃には、ドラゴンたちは島に降りてきており、弱り果てた姿で地面に踞っていたそうだ。
 調査の結果、ドラゴンたちは何らかの呪具による影響を受け弱っていることが分かった。
 その呪具の捜索とドラゴンを助けるために新たに人が派遣され、その中にルーちゃんとディルちゃんが含まれており、たまたま一緒にいた俺とニコラとスヴェンもついて来たというわけだ。
 貴重な光魔法と闇魔法使いだから、二人は頻繁にあちこちからオファーがある。
 本職の仕事が忙しいと断ることもあるそうだが、(ルーちゃんは騎士団の中にも使い手はいるはずだと毎回愚痴っている)緊急を要する場合もあるので、二人とも出来る限りは引き受けるようにしていた。
 今回は、調査隊に加わっていたドラゴン愛護団体の団員さんと知り合いだったことから依頼がきたそうだ。
 お手伝い気分で来た俺だったが、二人は現地に着いてドラゴンを見るなり、俺の肩に同時にポンっと手を置いてきた。

『『フィン。良い機会だから、一度一人でやってみなさい』』

 俺の師匠たちは仲良しで、息ぴったりだった。
 学校を卒業したし、もうすぐ帰国するから弟子も卒業したはず…えっ?卒業試験を受けてないって?
 そんな試験があったなんて初耳なんですけど。
 何事も経験だと二人に背を押され、俺は急遽実習させられることになった。
 一人で出来るかと不安だったが、ちゃんと回復してくれたので、ほっと胸を撫で下ろす。

「よくできました」
「あぁ、ちゃんと学んだことを活かせている」

 ルーちゃんとディルちゃんから『合格です』と交互に頭を撫でられた。
 友達の前で子ども扱いはやめて欲しいと思ったが、褒められたのは素直に嬉しかった。
 その後は、ルーちゃんとディルちゃんと手分けして、残りのドラゴンたちに処置を施していく。
 その間に、騎士団の人とニコラとスヴェンは、ドラゴンが被害を受けた呪具が近くにないか捜索にあたっていた。
 しかし、近くにそれらしい呪具は見当たらなかった。

「違う場所で被害に遭って逃げて来たのかな?」
「その可能性はあるだろうな」

 ディルちゃんは、複数のドラゴンが一度に被害を受けたことから、魔笛のように広範囲に影響を及ぼす事が出来る呪具であろうと言った。
 元気を取り戻したドラゴンたちは、まだ島の上空を飛んだり、その場に留まったりしていた。
 大人しくて穏やかな気性のドラゴンなだけに、三度同じ目に遭わないようにしてあげたいが、原因をどうやって突き止めればいいのだろう。
 どのように捜索を進めるか、騎士団の人たちが話し合っているのを聞いていると、一頭のドラゴンが俺に近づいてきた。
 ドスドスドスと歩いて来る姿は、ちょっと可愛い。
 顔を近づけて来て、ふんふんと匂いを嗅がれた。
 敵意は無さそうなので、そのまま俺がじっとしていると、いきなりワシっと胴体を掴まれた。

「えっ?」

 痛くはないが、そのまま持ち上げられて慌てる。
 両手でそっと包むように俺を持ったドラゴンは、それまでのゆったりとした動きが嘘のように、突然走り出したかと思うと、そのまま飛び立った。

「えぇっ!?」
「フィン!?」
「おい!何やってる!早く逃げろよ!」

 気づいたルーちゃんやニコラたちが追いかけて来るが、ドラゴンの飛ぶスピードは速く、気づいた時には遥か上空で、逃げ出すことは困難だった。

「えっと、マジ?」

 俺の呆然とした呟きに答えてくれる人は誰もおらず、俺はそのままドラゴンに拉致されたのだった。
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