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番外編

卒業旅行①

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 海沿いにあるヴィラを指差されて、興奮した声を最初に出したのはニコラだった。

「すげぇ!!」
「めっちゃすごい!!ルーカス先生って、実はお金持ちやったんですね!」

 ベルボルトの言葉に、ルーちゃんは苦笑した。

「私がっていうか、叔父上がね」

 叔父さんが別荘を持っているから、良かったらそこに泊まるかと、卒業旅行を計画していた俺たちにルーちゃんが声をかけてくれたのだ。
 宿泊代が浮くと最初は喜んでいたが、ルーちゃんたちが一緒に行くことを知ったニコラとベルボルトは『旅行に引率の先生がいるなんて』と先程まで文句を言っていた。

「現金な奴らだな」

 立派で豪華なヴィラを見てコロリと態度を変えた二人を、イドは呆れた眼差しで見ており、スヴェンは苦笑していた。

「まぁ、保護者と一緒に旅行という歳でもないからな」
「そうは言っても、このヴィラを使うにはルーカスも一緒だという条件をつけられたのだから仕方なかろう」

 ルーちゃんに巻き込まれて、ユーリ先生とディルちゃんもいる。
 八人の旅行は三泊四日だ。
 泊まる場所は一緒だが、大人組と子供組は別行動なので、友達同士の旅行気分は充分に味わえるはずだった。

「ルーちゃん。こんな素敵なところに誘ってくれてありがとう」
「どういたしまして。フィン、騒動は起こさないでくださいね」

 何かとトラブルに巻き込まれる俺に、ルーちゃんは笑顔で釘を刺してきた。
 不可抗力だと言い訳したいが、気をつけるに越したことはない。
 俺は神妙に頷いた。

「ぜ、善処します」



 ヴィラの中を案内してもらい、部屋に荷物を置いた俺たちは、すぐに五人で遊びに出かけた。
 観光名所を巡り、市場で買い物をして屋台で名物を食べる。

「ん~っ!このガルネルネ、プリップリで美味しい!」

 ガルネルネは海老みたいな魚介類だ。
 串焼きで売られていたのを買って、みんなで齧り付いた。
 香ばしく塩味も効いていて絶品だった。

「この新鮮な海の幸たちともお別れか…」

 海の近くだから味わえた食材だ。
 まだまだ輸送設備が整っていないので、内陸部で新鮮な魚介類を味わうのは難しかった。
 クール便とかないもんな。
 あればルーちゃんかディルちゃんに頼んで送ってもらえるのにと残念がっていたら『こっちに住んじまったらいいのに』とニコラに言われた。

「そやで。せっかく仲良うなれたのに、お別れなんて寂しいやん」
「この国でも魔法士として働けるぞ」

 ベルボルトとスヴェンまで、この国に留まってはと勧めてくる。

「そう言ってもらえて有難いけど、もう就職先も決まっちゃってるし」
「騎士団に所属している魔法士部に就職したんだったか?」

 イドの言葉に俺は頷いた。
 春休みに帰国した際、就職試験と面談を受け無事に採用された。
 今年の九月から働き始める予定だ。

「はぁ。ゴーちゃんが虐められへんかお兄さんは心配やわ。もし誰かに意地悪されたらすぐに言うんやで。イドを派遣したる」
「おい」
「あはは。ありがとう。でも、イドも帰国しちゃうし、なかなか会えなくなっちゃうね」

 イドも留学生で、この旅行が終われば自分の国に帰ることになっていた。
 どんな所で働くのか聞いてみたが、実家の仕事を手伝うと言われただけで、詳しいことは教えてもらえなかった。言いたくないのかもしれないと思い、俺はそれ以上聞けずにいる。
 でも、これっきりで疎遠になってしまうのは悲しいし、また落ち着いたらイドの国にも遊びに行ってみたい。
 後でちゃんと住所と連絡手段を聞いておかないと。

「一年に一回くらいは集まりたいけどなぁ。イドもそれくらいやったら来れるやろ?」
「まぁ、多分」
「何や。そっけないやっちゃな」

 ベルボルトはイドにぶうぶうと文句を言った。


 たっぷり遊び回ってヴィラに帰ると、大人たちは晩酌をしていた。
 高そうな酒瓶が、どんどんどんっ!と置かれており、それを目にしたベルボルトとニコラがルーちゃんに擦り寄った。

「ルーカス先生!俺たちにも御慈悲を!」
「仕方ないですね。少しだけですよ」

 ルーちゃんは外面という仮面を被っているので、表面上は快く俺たちにも高級なお酒を分けてくれた。
 内心では舌打ちしてそうな笑顔であることに気付いたのは、俺の他にはディルちゃんと先生くらいだろう。
 イドはもちろんのこと、ベルボルトたちも十八歳を過ぎ成人しているので飲酒は問題なく、俺だけが飲めなかった。
 前世でも酒はそこまで好きじゃなかったので、特に不満はない。
 そういえば、ルーちゃんにプレゼントがあったことを思い出した。
 俺はマジックバックを探り、父上から送られてきた物を取り出して、テーブルに置いた。

「ルーカス先生。これ、うちの父からです。このヴィラにお世話になる話をしたら、お礼に渡して欲しいと頼まれました。良かったらどうぞ」
「それはご丁寧にありがとうございます。何だか申し訳ないですね」

 そう言いつつも、年代物のワインを見たルーちゃんは嬉しそうだった。
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