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第二章
97話 被害者
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俺は、みんなに心配された。
魔力を使い果たしてヘロヘロだからだ。
けれど、淫魔と黒い生き物に助力を求めるなら、俺がその場にいないわけにはいかない。
「フィン。無理をしては駄目ですよ。歩けなくなったら、ディルクに運んでもらいなさい」
ルーちゃんは、今から治癒魔法を使って父さまを治療してくれるらしく、こちらのことは心配しなくていいと言った。
体から呪いが消えたので、治癒魔法は効果があるはずだ。
一気には治せないが、安心できる状態まで治癒してくれると、ルーちゃんは約束してくれた。
母上とお祖父様も父さまに付き添ってくれるそうで、呪いの根源を移された人の救出には、ベルちゃんとディルちゃんが俺と一緒に行ってくれることになった。
部屋を出たところで、ちょうど戻ってきた父上と出くわす。
その後ろには、エリクとゴットフリートがいて、俺は驚いた。
「えっ?何でゴットがいるの?」
「フィン…」
ゴットフリートは、俺の名前を呼ぶと、くしゃりと顔を歪めた。
よく見ると、目の下には隈ができており、憔悴したような顔つきになっている。
エリクの方を見ても、同じような顔になっており、二人の様子に、何かよくないことがあったのではないかと思った。
父上は、父さまの呪いが解けたというのに、まだ厳しい顔をしていた。
感情を押し殺したような、そんな表情だった。
「フィン。呪いの根源を移された人を助けに行く前に、伝えなければならないことがある」
「父上?」
その言葉に、どくりと心臓が嫌な音を立てた。
後ろの二人が憔悴していることと、何か関係があるのだろうか。
不思議な組み合わせだと思った。
だって、エリクの横にはいつも、もう一人の俺の従者がいて…
「トリスタンは?」
俺は、少しでも嫌な予感を払拭したくて、その名を口にした。
エリクの瞳が伏せられる。
「ねぇ、父上!トリスタンは?トリスタンはどこにいるの?」
俺は、父上の体を掴んで揺すった。
「フィン。すまない。留学先にいるお前に心配かけまいと、伝えていなかった。トリスタンは、私が頼んだ仕事をする為に屋敷から出かけた後、帰ってきておらず、行方が分からないんだ」
行方が分からない。
その言葉に、俺は、自分の体から血の気が引いていくを感じた。
「いつから、なの?」
「今から約二ヶ月前だ」
「っ!!」
そんなに前から、と俺は言葉が出ない。
父上が、今、このタイミングでその言葉を言った意味を考え、足がガクガクと震え出し、立っていられなくなった。
「フィン!」
後ろにいたディルちゃんが、手を伸ばし、支えてくれる。
父上は、真っ青になった俺を見ても、言葉を止めなかった。
「先程、フィンと悪魔が話している内容を聞いてから、ずっと考えていた。アルベルトを呪った人物は、いったい誰を身代わりに立てたのだろうかと。私たちと全く関係のない人物の可能性もある。だが…」
父上は、そこで一旦言葉を切り、ぐっと拳を握りしめた後、力強い視線で俺を見つめた。
「フィン。その身代わりにされた人が誰であろうとも、心を強く持ち、必ず助けてやって欲しい。まだ間に合うんだろう?」
その言葉に、はっとし、俺は淫魔を振り返った。
俺の視線を受け、淫魔は片眉をひょいっと上げると『まだ死んでないよ』と言った。
「まぁ、行方不明で君の知り合いなら、十中八九その人で間違いないと思うよ」
「なっ、なんで?」
何故、身代わりにされた人が、トリスタンだと言い切れるのか。
狼狽する俺に、淫魔は近づいてくると、とんっと俺の胸に指を当てて、言った。
「だって、君と同じ魔力の気配がしたもの」
淫魔が案内したのは、屋敷の庭にある大きな木のある場所だった。
魔笛と遭遇した時と同じように、邪気がその木から溢れ出ているのが分かる。
明らかに木の色が変色し、葉もどす黒く染まっているのに、どうして今まで誰も気づかなかったのだろうかと不思議だったが、それには訳があった。
「さっき、君のばあちゃんと戦った時、この場所に僕の攻撃が少し当たったんだよね」
淫魔の攻撃で、この木を覆っていた魔法が破壊された。
「目眩し系の魔法だね。いきなり庭に邪気たっぷりの木が現れて、驚いたもんさ」
ベルちゃんは、この木が突然現れて、戦っている場合ではないと、淫魔に休戦を申し入れたそうだ。
その時には、まさかこの中に人が閉じ込められているとは思いもしなかった、と言っていた。
俺は、邪気まみれの木を見上げる。
木の幹が異様に盛り上がっている箇所があった。
多分、そこにいるのだろう。
早く助けなければと思うのだが、トリスタンがどんな姿で出てくるのだろうかと思うと、そのことを知るのが怖くて体が竦んでしまう。
震え出した俺の手を、誰かが、ぎゅっと握ってくれた。
ゴットフリートだ。
「絶対に助けようぜ」
いなくなったトリスタンを、ゴットフリートも一生懸命探してくれたそうだ。
時間がないので簡潔にと、移動しながらエリクとゴットフリートが、俺がいない間にあった出来事を教えてくれた。
俺がこの家を呪い続けているという噂があったこと。
その真相を探る為に、トリスタンが調べに行ったこと。
連絡が取れなくなり、トリスタンが行方不明だと分かって、みんなで探し回ったこと。
『この屋敷には、昨日まで辿り着くことができなかったんです』
エリクは、悔しそうにそう言った。
道は間違っていないはずなのに、見当たらない。
何度も来たことがある父上が不審に思い、上級魔法士に依頼して調べてもらった結果、この屋敷にも、この木と同様に目眩しの魔法がかけられていたことが分かった。
魔法を解除し、やっと昨日この屋敷に訪れることができたと思ったら、今度は父さまが命の危機にあった。
父上は父さまの対応に追われ、ゴットフリートとエリクは、やっと姿を現したこの屋敷の中や周辺を、トリスタンがいないか探し回っていたそうだ。
ゴットフリートは、自分が噂話をトリスタンに教えなければ、こんなことにはならなかったんじゃないかと、俺に謝罪してきた。
『そんなの、ゴットのせいじゃないよ』
俺はそう言ったが、それでも、キッカケを作ったのは自分だと、とても落ち込んでいた。
トリスタンは俺の従者だけど、いなくなっていたことを先程知った俺より、どこにいるか分からず探し回っていたゴットフリートやエリクたちの方が、何倍も辛くて、しんどかったに違いない。
俺は、ぎゅっとゴットフリートの手を握り返した。
「うん。絶対に」
俺は、覚悟を決めると、淫魔へと合図を送った。
魔力を使い果たしてヘロヘロだからだ。
けれど、淫魔と黒い生き物に助力を求めるなら、俺がその場にいないわけにはいかない。
「フィン。無理をしては駄目ですよ。歩けなくなったら、ディルクに運んでもらいなさい」
ルーちゃんは、今から治癒魔法を使って父さまを治療してくれるらしく、こちらのことは心配しなくていいと言った。
体から呪いが消えたので、治癒魔法は効果があるはずだ。
一気には治せないが、安心できる状態まで治癒してくれると、ルーちゃんは約束してくれた。
母上とお祖父様も父さまに付き添ってくれるそうで、呪いの根源を移された人の救出には、ベルちゃんとディルちゃんが俺と一緒に行ってくれることになった。
部屋を出たところで、ちょうど戻ってきた父上と出くわす。
その後ろには、エリクとゴットフリートがいて、俺は驚いた。
「えっ?何でゴットがいるの?」
「フィン…」
ゴットフリートは、俺の名前を呼ぶと、くしゃりと顔を歪めた。
よく見ると、目の下には隈ができており、憔悴したような顔つきになっている。
エリクの方を見ても、同じような顔になっており、二人の様子に、何かよくないことがあったのではないかと思った。
父上は、父さまの呪いが解けたというのに、まだ厳しい顔をしていた。
感情を押し殺したような、そんな表情だった。
「フィン。呪いの根源を移された人を助けに行く前に、伝えなければならないことがある」
「父上?」
その言葉に、どくりと心臓が嫌な音を立てた。
後ろの二人が憔悴していることと、何か関係があるのだろうか。
不思議な組み合わせだと思った。
だって、エリクの横にはいつも、もう一人の俺の従者がいて…
「トリスタンは?」
俺は、少しでも嫌な予感を払拭したくて、その名を口にした。
エリクの瞳が伏せられる。
「ねぇ、父上!トリスタンは?トリスタンはどこにいるの?」
俺は、父上の体を掴んで揺すった。
「フィン。すまない。留学先にいるお前に心配かけまいと、伝えていなかった。トリスタンは、私が頼んだ仕事をする為に屋敷から出かけた後、帰ってきておらず、行方が分からないんだ」
行方が分からない。
その言葉に、俺は、自分の体から血の気が引いていくを感じた。
「いつから、なの?」
「今から約二ヶ月前だ」
「っ!!」
そんなに前から、と俺は言葉が出ない。
父上が、今、このタイミングでその言葉を言った意味を考え、足がガクガクと震え出し、立っていられなくなった。
「フィン!」
後ろにいたディルちゃんが、手を伸ばし、支えてくれる。
父上は、真っ青になった俺を見ても、言葉を止めなかった。
「先程、フィンと悪魔が話している内容を聞いてから、ずっと考えていた。アルベルトを呪った人物は、いったい誰を身代わりに立てたのだろうかと。私たちと全く関係のない人物の可能性もある。だが…」
父上は、そこで一旦言葉を切り、ぐっと拳を握りしめた後、力強い視線で俺を見つめた。
「フィン。その身代わりにされた人が誰であろうとも、心を強く持ち、必ず助けてやって欲しい。まだ間に合うんだろう?」
その言葉に、はっとし、俺は淫魔を振り返った。
俺の視線を受け、淫魔は片眉をひょいっと上げると『まだ死んでないよ』と言った。
「まぁ、行方不明で君の知り合いなら、十中八九その人で間違いないと思うよ」
「なっ、なんで?」
何故、身代わりにされた人が、トリスタンだと言い切れるのか。
狼狽する俺に、淫魔は近づいてくると、とんっと俺の胸に指を当てて、言った。
「だって、君と同じ魔力の気配がしたもの」
淫魔が案内したのは、屋敷の庭にある大きな木のある場所だった。
魔笛と遭遇した時と同じように、邪気がその木から溢れ出ているのが分かる。
明らかに木の色が変色し、葉もどす黒く染まっているのに、どうして今まで誰も気づかなかったのだろうかと不思議だったが、それには訳があった。
「さっき、君のばあちゃんと戦った時、この場所に僕の攻撃が少し当たったんだよね」
淫魔の攻撃で、この木を覆っていた魔法が破壊された。
「目眩し系の魔法だね。いきなり庭に邪気たっぷりの木が現れて、驚いたもんさ」
ベルちゃんは、この木が突然現れて、戦っている場合ではないと、淫魔に休戦を申し入れたそうだ。
その時には、まさかこの中に人が閉じ込められているとは思いもしなかった、と言っていた。
俺は、邪気まみれの木を見上げる。
木の幹が異様に盛り上がっている箇所があった。
多分、そこにいるのだろう。
早く助けなければと思うのだが、トリスタンがどんな姿で出てくるのだろうかと思うと、そのことを知るのが怖くて体が竦んでしまう。
震え出した俺の手を、誰かが、ぎゅっと握ってくれた。
ゴットフリートだ。
「絶対に助けようぜ」
いなくなったトリスタンを、ゴットフリートも一生懸命探してくれたそうだ。
時間がないので簡潔にと、移動しながらエリクとゴットフリートが、俺がいない間にあった出来事を教えてくれた。
俺がこの家を呪い続けているという噂があったこと。
その真相を探る為に、トリスタンが調べに行ったこと。
連絡が取れなくなり、トリスタンが行方不明だと分かって、みんなで探し回ったこと。
『この屋敷には、昨日まで辿り着くことができなかったんです』
エリクは、悔しそうにそう言った。
道は間違っていないはずなのに、見当たらない。
何度も来たことがある父上が不審に思い、上級魔法士に依頼して調べてもらった結果、この屋敷にも、この木と同様に目眩しの魔法がかけられていたことが分かった。
魔法を解除し、やっと昨日この屋敷に訪れることができたと思ったら、今度は父さまが命の危機にあった。
父上は父さまの対応に追われ、ゴットフリートとエリクは、やっと姿を現したこの屋敷の中や周辺を、トリスタンがいないか探し回っていたそうだ。
ゴットフリートは、自分が噂話をトリスタンに教えなければ、こんなことにはならなかったんじゃないかと、俺に謝罪してきた。
『そんなの、ゴットのせいじゃないよ』
俺はそう言ったが、それでも、キッカケを作ったのは自分だと、とても落ち込んでいた。
トリスタンは俺の従者だけど、いなくなっていたことを先程知った俺より、どこにいるか分からず探し回っていたゴットフリートやエリクたちの方が、何倍も辛くて、しんどかったに違いない。
俺は、ぎゅっとゴットフリートの手を握り返した。
「うん。絶対に」
俺は、覚悟を決めると、淫魔へと合図を送った。
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