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第二章
95話 解呪
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意識が浮上し目を開けると、視界が真っ黒だった。
何かに目を覆われているようだ。
重怠く感じる腕を持ち上げて、視界を覆っているものを確かめようとし触れたら、プルンッと弾力があった。
球体のようにフォルムが丸い。
「ピュイ?」
鳴いたようだ。
生き物だろうか。
「フィン!目が覚めたのか!」
ルーちゃんの声が聞こえたと思ったら、目を覆っていた物が外され、眩しくて思わず目を閉じた。
そろそろと目を開け、パシパシと何度か瞬きして、やっと目が慣れてくる。
俺は床に寝かされていたようで、頭だけ何かに乗せられていた。
上からルーちゃんが覗き込んでいて、それがルーちゃんの膝枕であることに気づく。
「ルーちゃ、ごほっ」
「フィン。無理するな。力を使い過ぎて、意識を失ったんだ」
力を使い過ぎて?
何で、と思ったが、自分がいた状況を思い出し、俺は慌てて起きあがろうとして、力が入らず、もがくだけで終わった。
そんな俺に、呆れたような声が降ってきた。
「下手くそ」
淫魔だ。
天井近くで、ふよふよと浮いて、こちらを見下ろしている。
あの圧迫するような気配は消えていた。
「交渉下手くそ過ぎ!僕を怒らせてどうすんのさ。しかもしかも!僕の力を跳ね返すなんて!人間如きが!はっ!生意気なんだよ!」
ぷんぷん怒っているが、文句を言っているだけのようだ。
俺は苦笑する。
「ごめん、ね。怒らせたかった、わけじゃないん、だよ?」
「じゃあ、どういうつもりさ?」
「悔しがって、協力してくれたら、いいなって思って」
淫魔は、俺の言葉に呆れたような顔をした後、大きな溜息を吐き、ふいっと顔を背けた。
「はぁ。予想外過ぎて気が抜けちゃったよ。邪魔も入ったしね」
邪魔とはなんだろうと思っていると、再び視界に黒い物が現れた。
「ピュイ」
それは、丸い形の黒い生き物だった。
つぶらな瞳に、小さな三角の耳、先端が矢印の形をした尻尾。
手足も、ちまっとしていて、可愛かった。
その黒い生き物は、ペタペタと俺の顔を小さな手で確認するように、触れてくる。
「きみは?」
「ピュイ、ピュイ、ピュイ」
声をかけたら、懸命に返事をされた。
ごめん。何を言われてるのか、さっぱりだ。
俺が困惑していると、どすんっと俺の横に淫魔が舞い降りて来て座り、ひょいっと黒い生き物を捕まえた。
「この子だよ」
「えっ?」
「本当は、この子が、君の召喚に応えたんだ」
何ですと?
じゃあ、この淫魔はどうやって出てきたんだ。
不審そうに見上げたら、ニッと笑い返された。
「この子、僕のペット(仮)みたいなもんなんだよね。他の奴から預かってて、なくしたら大変。人間の呼ぶ声に向かって飛んで行くから、慌てて追いかけたら、僕も一緒に召喚されたって訳さ」
「…へぇ」
気の抜けた返事しかできなかった。
他に何と言えと。
今までの死ぬ覚悟で挑んだ交渉はなんだったんだ。
無駄だったってことか、と泣きたくなった。
「そう悲観するなよ。こいつは僕のペットだから、僕の許可なくこいつの力は貸せない。だからどの道、君が僕と交渉する必要はあったんだ。まぁ、さっきの下手くそな交渉については、君が謝ったから許してあげる。僕は寛大な心の持ち主だからね!それに、押さえ込んでいたのに無理矢理飛び出してくるぐらい、この子は君が気に入ったみたい。呪いの件、頼んでみなよ」
淫魔の手の中で、イヤイヤとするように暴れていた黒い生き物は、解放されると、再び俺の顔にペタリと張り付いてきた。
距離感近いな。
前が見えん。
「僕の父さまの呪い、吸い取ってくれる?」
「ピュイ!」
プルンッと黒い生き物は飛び上がると、小さな羽でパタパタと父さまが寝ているベッドの方へ飛んで行った。
『わっ!なんだい!?』と驚くベルちゃんの声が聞こえてくる。
残念ながら、俺が寝かされている位置からはベッドの上は見えなかった。
「ピュイィィィィィィィィィ」
鳴き声からして、吸っているようだ。
スポンっと音がして、またパタパタと飛んで戻って来た。
えっ?終わったの?
『すごい!奇跡だ!』と驚いている父上の声が聞こえた。
「ピュイ!ピュイ!」
黒い生き物は、俺の顔の上で小踊りを始めた。
ふみふみされて、目を踏まれないかとヒヤヒヤする。
「フィン。治癒魔法を少し使ったが、まだ動けなさそうか?」
ルーちゃんに言われ、再び腕を動かしてみると、今度は簡単に動いた。
まずは顔の上にいる黒い生き物を持ち上げてから、ルーちゃんに手を貸してもらい、上体をゆっくりと起こす。
うん。大丈夫そうだ。
「ルーちゃん、ありがとう。動けるみたい」
「良かったよ。倒れた時は、どうなるかと思った」
ルーちゃんは、あまり無茶をするなと頭を撫でてくれた。
「うん。ごめんなさい」
「フィン!やったよ!見てみな!」
「えっ?わっ!」
ベルちゃんは駆け寄ってくると、俺を持ち上げて、父さまのベッドまで運んでくれた。
力持ちだな。
俺、そこそこ重いと思うんだけど。
ベッドの上の父さまは、段違いに顔色が良くなり、今は瞼が閉じられ、健やかな寝息を立てていた。
ベルちゃんに床に下ろしてもらい、そっと父さまの手を握る。
禍々しいオーラは感じなくなっていた。
俺は、ほっと安堵の息をつく。
俺の胸にしがみついていた黒い生き物を、そっと抱き締めた。
「ありがとう」
「ピュイ!」
何かに目を覆われているようだ。
重怠く感じる腕を持ち上げて、視界を覆っているものを確かめようとし触れたら、プルンッと弾力があった。
球体のようにフォルムが丸い。
「ピュイ?」
鳴いたようだ。
生き物だろうか。
「フィン!目が覚めたのか!」
ルーちゃんの声が聞こえたと思ったら、目を覆っていた物が外され、眩しくて思わず目を閉じた。
そろそろと目を開け、パシパシと何度か瞬きして、やっと目が慣れてくる。
俺は床に寝かされていたようで、頭だけ何かに乗せられていた。
上からルーちゃんが覗き込んでいて、それがルーちゃんの膝枕であることに気づく。
「ルーちゃ、ごほっ」
「フィン。無理するな。力を使い過ぎて、意識を失ったんだ」
力を使い過ぎて?
何で、と思ったが、自分がいた状況を思い出し、俺は慌てて起きあがろうとして、力が入らず、もがくだけで終わった。
そんな俺に、呆れたような声が降ってきた。
「下手くそ」
淫魔だ。
天井近くで、ふよふよと浮いて、こちらを見下ろしている。
あの圧迫するような気配は消えていた。
「交渉下手くそ過ぎ!僕を怒らせてどうすんのさ。しかもしかも!僕の力を跳ね返すなんて!人間如きが!はっ!生意気なんだよ!」
ぷんぷん怒っているが、文句を言っているだけのようだ。
俺は苦笑する。
「ごめん、ね。怒らせたかった、わけじゃないん、だよ?」
「じゃあ、どういうつもりさ?」
「悔しがって、協力してくれたら、いいなって思って」
淫魔は、俺の言葉に呆れたような顔をした後、大きな溜息を吐き、ふいっと顔を背けた。
「はぁ。予想外過ぎて気が抜けちゃったよ。邪魔も入ったしね」
邪魔とはなんだろうと思っていると、再び視界に黒い物が現れた。
「ピュイ」
それは、丸い形の黒い生き物だった。
つぶらな瞳に、小さな三角の耳、先端が矢印の形をした尻尾。
手足も、ちまっとしていて、可愛かった。
その黒い生き物は、ペタペタと俺の顔を小さな手で確認するように、触れてくる。
「きみは?」
「ピュイ、ピュイ、ピュイ」
声をかけたら、懸命に返事をされた。
ごめん。何を言われてるのか、さっぱりだ。
俺が困惑していると、どすんっと俺の横に淫魔が舞い降りて来て座り、ひょいっと黒い生き物を捕まえた。
「この子だよ」
「えっ?」
「本当は、この子が、君の召喚に応えたんだ」
何ですと?
じゃあ、この淫魔はどうやって出てきたんだ。
不審そうに見上げたら、ニッと笑い返された。
「この子、僕のペット(仮)みたいなもんなんだよね。他の奴から預かってて、なくしたら大変。人間の呼ぶ声に向かって飛んで行くから、慌てて追いかけたら、僕も一緒に召喚されたって訳さ」
「…へぇ」
気の抜けた返事しかできなかった。
他に何と言えと。
今までの死ぬ覚悟で挑んだ交渉はなんだったんだ。
無駄だったってことか、と泣きたくなった。
「そう悲観するなよ。こいつは僕のペットだから、僕の許可なくこいつの力は貸せない。だからどの道、君が僕と交渉する必要はあったんだ。まぁ、さっきの下手くそな交渉については、君が謝ったから許してあげる。僕は寛大な心の持ち主だからね!それに、押さえ込んでいたのに無理矢理飛び出してくるぐらい、この子は君が気に入ったみたい。呪いの件、頼んでみなよ」
淫魔の手の中で、イヤイヤとするように暴れていた黒い生き物は、解放されると、再び俺の顔にペタリと張り付いてきた。
距離感近いな。
前が見えん。
「僕の父さまの呪い、吸い取ってくれる?」
「ピュイ!」
プルンッと黒い生き物は飛び上がると、小さな羽でパタパタと父さまが寝ているベッドの方へ飛んで行った。
『わっ!なんだい!?』と驚くベルちゃんの声が聞こえてくる。
残念ながら、俺が寝かされている位置からはベッドの上は見えなかった。
「ピュイィィィィィィィィィ」
鳴き声からして、吸っているようだ。
スポンっと音がして、またパタパタと飛んで戻って来た。
えっ?終わったの?
『すごい!奇跡だ!』と驚いている父上の声が聞こえた。
「ピュイ!ピュイ!」
黒い生き物は、俺の顔の上で小踊りを始めた。
ふみふみされて、目を踏まれないかとヒヤヒヤする。
「フィン。治癒魔法を少し使ったが、まだ動けなさそうか?」
ルーちゃんに言われ、再び腕を動かしてみると、今度は簡単に動いた。
まずは顔の上にいる黒い生き物を持ち上げてから、ルーちゃんに手を貸してもらい、上体をゆっくりと起こす。
うん。大丈夫そうだ。
「ルーちゃん、ありがとう。動けるみたい」
「良かったよ。倒れた時は、どうなるかと思った」
ルーちゃんは、あまり無茶をするなと頭を撫でてくれた。
「うん。ごめんなさい」
「フィン!やったよ!見てみな!」
「えっ?わっ!」
ベルちゃんは駆け寄ってくると、俺を持ち上げて、父さまのベッドまで運んでくれた。
力持ちだな。
俺、そこそこ重いと思うんだけど。
ベッドの上の父さまは、段違いに顔色が良くなり、今は瞼が閉じられ、健やかな寝息を立てていた。
ベルちゃんに床に下ろしてもらい、そっと父さまの手を握る。
禍々しいオーラは感じなくなっていた。
俺は、ほっと安堵の息をつく。
俺の胸にしがみついていた黒い生き物を、そっと抱き締めた。
「ありがとう」
「ピュイ!」
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