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第二章
91話 解呪の方法
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ディルちゃんが、父さまを助けるための方法として提案したのは、簡単に言うと呪いの吸引だった。
まずは呪いを体から取り除かないといけない。
「体に蔓延る呪いを吸い取って、他に移すという方法だ。例えば、私がこの呪いを手の平から自分の体に移すことは、少し難しいが可能だ。ただし、それをすると私が死んでしまうし、この呪いはかかり続けているので、フィンのお父上は再び呪いに侵されてしまう。結果、私が無駄死にするだけで終わる」
ダメじゃん。
誰かが犠牲になる方法はとれない。
「人が呪いを代わりに身に宿らせる方法は悪手だ。呪いとは陰の気で、人間にとっては害にしかならない。しかし、陰の気が害にならない生き物がいる」
「害にならない生き物?」
そんな生き物がいるのだろうか。
魔獣や魔物も瘴気によって凶暴化したりするから、影響を受けてしまうはずだ。
しかし、大魔法使いのベルちゃんは分かったようで、ディルちゃんの言葉に顔を輝かせた。
「そうか。闇属性の魔物だね」
正解だったようで、ディルちゃんが頷いた。
「その通りです。闇属性の魔物にとって、陰の気は言わば餌のようなもの。力になることはあっても、害になることなどありません。ですが、闇属性の魔物を使役している身近な知り合いはおらず、探す時間もありません。例え見つけても、交渉に時間がかかることを考えると、その案は採用できない。となると方法は一つ。闇属性の魔物の召喚です」
闇属性の魔物の召喚。
使い魔は、同じ属性の魔力を持つ人間にしか扱えない。
つまり、ここにいるディルちゃんか俺しか闇属性の魔物の召喚は行えず、召喚術を試したからといって、希望する魔物が現れるとも限らなかった。
闇属性の魔物は凶暴なものや強い魔物も多く、召喚に失敗すれば、最悪の場合はその場にいる全員が死ぬことになる。
「確かにリスクが高いね、こりゃ」
ベルちゃんは、頭を抱えて難しい顔になってしまった。
「希望する魔物ってどんな感じのなの?」
「従順で大人しく、変に知能を持っていないタイプだな。知能が高いと交渉に時間がかかるし、狡猾だと代償に魂を提案されたりするから厄介だ」
悪魔とか、そういうのかな。
確かにそんなのが出てきたら大変だ。
でも、試す価値はあると思う。
「僕、やるよ」
「フィン。だが、危険過ぎるぞ」
父上が心配そうな顔でこちらを見た。
俺は、それに笑顔で返す。
「そうだね。とても危険だと思う。でも、方法があって、僕の力で父さまが助かる可能性が少しでもあるなら、試してみたいんだ」
俺はそう言ってから、父上にぎゅっと抱きついた。
「あの時に、ああすれば良かったとか、後悔したくないんだ」
「フィン…」
父上は、俺をぎゅっと抱き返してくれた後に、渋々だけど承諾してくれた。
俺の本気が伝わったのか、その場にいた全員が、協力を申し出てくれる。
「とりあえず、解呪の方法はそれで決定だな。だが、まだ問題が残っている。呪いをかけ続けている人物がいるということだ。その者を排除しない限り、根本的な解決にはならん」
父さまを恨んで呪っている人。
養子に出されて以降、実家の情報はほとんど俺の耳には入ってきていない。
父さまの交友関係も全く知らなかった。
今日ここに来る前に、ベルちゃんから、あの女とはすでに離婚していて、この家には父さましか住んでいないということだけは、聞かされていた。
だから、俺が思いつく人物は一人だけだ。
「父上。あの女が今どこにいるかご存知ですか?」
俺の言葉に、父上の顔が暗く沈んだ。
知らないのだろうかと思ったが、違っていて、教えてもらった内容に俺は呆然となる。
「二年前に亡くなっている?」
「そうだ。アルベルトと離婚した後に、妻子ある他の男のところへ第三夫人として再び嫁いだんだが、そこで酷い虐めに遭い、嫌になって屋敷を飛び出した後に、運悪く馬車に轢かれて死んだそうだ」
あの女がすでに死んでいて、この世にいない。
俺を厳しく非難し、目障りだと嫌がらせまでしてきていた存在が、もうすでにいなくなっていたなんて。
にわかには信じがたいことだった。
「じゃあ、いったい誰が父さまを…?」
ぽつりと呟いた俺の言葉に、答える声はなかった。
まずは呪いを体から取り除かないといけない。
「体に蔓延る呪いを吸い取って、他に移すという方法だ。例えば、私がこの呪いを手の平から自分の体に移すことは、少し難しいが可能だ。ただし、それをすると私が死んでしまうし、この呪いはかかり続けているので、フィンのお父上は再び呪いに侵されてしまう。結果、私が無駄死にするだけで終わる」
ダメじゃん。
誰かが犠牲になる方法はとれない。
「人が呪いを代わりに身に宿らせる方法は悪手だ。呪いとは陰の気で、人間にとっては害にしかならない。しかし、陰の気が害にならない生き物がいる」
「害にならない生き物?」
そんな生き物がいるのだろうか。
魔獣や魔物も瘴気によって凶暴化したりするから、影響を受けてしまうはずだ。
しかし、大魔法使いのベルちゃんは分かったようで、ディルちゃんの言葉に顔を輝かせた。
「そうか。闇属性の魔物だね」
正解だったようで、ディルちゃんが頷いた。
「その通りです。闇属性の魔物にとって、陰の気は言わば餌のようなもの。力になることはあっても、害になることなどありません。ですが、闇属性の魔物を使役している身近な知り合いはおらず、探す時間もありません。例え見つけても、交渉に時間がかかることを考えると、その案は採用できない。となると方法は一つ。闇属性の魔物の召喚です」
闇属性の魔物の召喚。
使い魔は、同じ属性の魔力を持つ人間にしか扱えない。
つまり、ここにいるディルちゃんか俺しか闇属性の魔物の召喚は行えず、召喚術を試したからといって、希望する魔物が現れるとも限らなかった。
闇属性の魔物は凶暴なものや強い魔物も多く、召喚に失敗すれば、最悪の場合はその場にいる全員が死ぬことになる。
「確かにリスクが高いね、こりゃ」
ベルちゃんは、頭を抱えて難しい顔になってしまった。
「希望する魔物ってどんな感じのなの?」
「従順で大人しく、変に知能を持っていないタイプだな。知能が高いと交渉に時間がかかるし、狡猾だと代償に魂を提案されたりするから厄介だ」
悪魔とか、そういうのかな。
確かにそんなのが出てきたら大変だ。
でも、試す価値はあると思う。
「僕、やるよ」
「フィン。だが、危険過ぎるぞ」
父上が心配そうな顔でこちらを見た。
俺は、それに笑顔で返す。
「そうだね。とても危険だと思う。でも、方法があって、僕の力で父さまが助かる可能性が少しでもあるなら、試してみたいんだ」
俺はそう言ってから、父上にぎゅっと抱きついた。
「あの時に、ああすれば良かったとか、後悔したくないんだ」
「フィン…」
父上は、俺をぎゅっと抱き返してくれた後に、渋々だけど承諾してくれた。
俺の本気が伝わったのか、その場にいた全員が、協力を申し出てくれる。
「とりあえず、解呪の方法はそれで決定だな。だが、まだ問題が残っている。呪いをかけ続けている人物がいるということだ。その者を排除しない限り、根本的な解決にはならん」
父さまを恨んで呪っている人。
養子に出されて以降、実家の情報はほとんど俺の耳には入ってきていない。
父さまの交友関係も全く知らなかった。
今日ここに来る前に、ベルちゃんから、あの女とはすでに離婚していて、この家には父さましか住んでいないということだけは、聞かされていた。
だから、俺が思いつく人物は一人だけだ。
「父上。あの女が今どこにいるかご存知ですか?」
俺の言葉に、父上の顔が暗く沈んだ。
知らないのだろうかと思ったが、違っていて、教えてもらった内容に俺は呆然となる。
「二年前に亡くなっている?」
「そうだ。アルベルトと離婚した後に、妻子ある他の男のところへ第三夫人として再び嫁いだんだが、そこで酷い虐めに遭い、嫌になって屋敷を飛び出した後に、運悪く馬車に轢かれて死んだそうだ」
あの女がすでに死んでいて、この世にいない。
俺を厳しく非難し、目障りだと嫌がらせまでしてきていた存在が、もうすでにいなくなっていたなんて。
にわかには信じがたいことだった。
「じゃあ、いったい誰が父さまを…?」
ぽつりと呟いた俺の言葉に、答える声はなかった。
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