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第二章
79話 思いとは
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『愛情もたっぷり込めてあったんでしょ?』
そんな風に見えていたのかと、言われて初めて気がついた。
だから、言えなかった。
完全にノリで作っていただなんて。
そんなことを言おうものなら、さすがに無神経過ぎますと、従者二人からお小言を食らうのは目に見えていた。
あの二人、最近似てきたしな。
ノリで作ったけど、これはちょっと張り切り過ぎかなって思って、恥ずかしくなって黙ってたのに、エリクがバラしちゃうし。
だって、ラインハルトは『デートしようか』ってサラリと言ったんだぞ。
遊びでデートっぽいことしようか、みたいなニュアンスで捉えた俺は悪くなくない?
えっ?『俺だって空気くらいは読む』って言った心の声は何だったのかって?
そりゃ『デートっぽいこと』なんだから、二人っきりじゃないと駄目だろうが。
だいたいさ、俺がモテるはずないんだ。
婚約者候補の話が出た時は、好きな人いなかったから協力してくれただけで、学校に入学して色んな人と出会ったら、また変わるかもしれないじゃん。
実際に、たくさんの人からアプローチ受けてたみたいだしさ。
でも、二人は義理堅いから、フィンと契約してるからって理由で断ってる可能性もあると思って、あんなことを言ってしまった。
結果、ラインハルトはすごく怒ってたな。
正直、何で俺なんだろうと思ってしまう。
『義理でなったと思ってるのは、フィンだけだから』
俺だけ。
ラインハルトは俺のことを、はっきり好きだと言った。
じゃあ、やっぱりゴットフリートもだろうか。
確かに思い返してみると、スキンシップは結構多かったような気がする。
多かったが、それは幼い頃からで、こんなもんかなと思っていた。
子どもだから、仲良しだから、くっつきたいみたいな。
でも、あの時のラインハルトの触れ方は違ったな。
く、口付けもされちゃったし。
嫌悪感はなかった。ただ恥ずかしかっただけ。
ヴィルヘルムでもラインハルトでも嫌じゃないなんて、俺は本当は誰でもいいんじゃないかと、自分の体が恐ろしくなる。
予感だけど、ゴットフリートも多分嫌じゃない。
あの手で触れられても、安心するだけだ。
ゴットフリートの側は、本人の持つ空気感によるものなのか、俺は安心して無防備になってしまう。
勝負した日も、気が緩んで隣で寝てしまった。
もしかしなくても、俺は三人のことを、それなりに好きなのかな。
三人一緒に選ぶのは、果たしてアリなのだろうか。
複数婚が認められているこの世界では、普通のことだと、そんなすぐには割り切れない。
胸を張って『三人好きなんだから何が悪い!文句あるか!』って言えたらいいんだけど。
「おい、フィン!」
でも、それってつまり『三股して何が悪い!』って言ってるのと一緒なわけで。
「ゴ、ゴーちゃん!来るで!」
そんな腐った野郎みたいな発言かと思うと怖気づくというか。
「フィン?どうしたんだ?」
あれ?もしかして、俺は他人の目を気にしているだけなのか?
「てめぇ!聞こえてんのか!フィン!」
あー!もう、分からん!
こんなにウジウジしてるなんて!!
「僕は何て不甲斐ないんだ!!」
俺は、ばっと両手を上げると、一気に氷魔法を放った。
目前まで迫っていた触腕から、もの凄い速さで、ピキピキピキッとクラーケロートが凍りつく。
すぐに小さな氷山が出来上がった。
周りにいたイドたちは、ほっと息を吐く。
「えぇ、いやぁ、充分頼りになると思うけど…何の話や?」
「…何でもない」
「お前、聞こえてたんなら返事しろっつーの!」
「ごめん」
「おっ?おう、分かったならいいが」
素直に謝った俺に、ニコラは調子狂うなと言って、首を傾げている。
「これ、どうやって持って帰るんだ?」
「細かくして、マジックバックに入れて持って帰ろう」
「せやったら、スヴェン。ちょお、切り刻んでくれへん?」
「ここでか?せめて陸地に上げてからにしたいんだが」
「じゃあ、近くの島まで引っ張ってくか」
今は小舟の上に乗っていて、海のど真ん中だ。
俺は、事前に用意していた縄をクラーケロートに巻きつけると、自分が乗っている舟とベルボルトたちが乗っている舟に、縄の先を括り付けた。
みんなで近くの島まで漕いでいく。
「それにしても、よお捕まえられたな。先生も喜ばはるで」
「だな。それに、去年は結局捕まえられなかったから、リベンジ達成できてラッキーだぜ」
ニコラの言葉を聞いて、もう一年も前のことなんだな、と改めて思った。
今日は、去年階級テストが行われた海のフィールドまで、イドたちとクラーケロートを捕まえにやって来ていた。
理由は、ユーリ先生に食べさせてあげたいから。
先生は、今年もそのまま臨時教師として学校に勤めることができるらしく、みんなでお祝い会をしようということになった。
先生も記念日大好きだし、きっと喜んでくれるよね。
そこで、俺たちの班長が絶賛していたクラーケロートを、五人からのプレゼントにしようという話になり、捕まえに来たのだ。
かなり美味しいらしいし、俺たちも楽しみだな。
食べてみて本当に美味しかったら、ヴィルたちにも食べさせてあげたいな、と思ったところで、俺は再び思考のループに陥る。
ちゃんとゴットフリートの気持ちも確かめてから、こっちに戻ってくれば良かったんだけど、タイミングが合わなかったんだよな。
ヴィルヘルムの誕生日パーティーの時には顔を合わせたが、大勢の人がいる前でできる話でもない。
結局、二人きりになるチャンスもなく、時間だけが過ぎ、新学期が始まってしまったのだ。
次は冬休みか。短いし、会えないかもしれない。
じゃあ、春休み、も短いな。
一年後の夏休みか。何て遠いんだ。
こういう時、距離があることを残念に思ってしまう。
「はぁ、会いたいのに会えないって、もどかしい」
「誰にや?」
「わぁ!」
いつの間にか、目の前にベルボルトのドアップがあって、俺は慌てて飛び退く。
「ゴーちゃん。どないしたん?今日はえらいボンヤリさんやん。何か悩み事か?お兄さんに話してみいひん?だーれに会いたい、のかな?」
ニヤニヤとベルボルトは揶揄うような笑みを浮かべている。
心の声が口から漏れていたらしい。
俺は、ふるふると首を振った。
「何でもないよ」
「もしや、好きな人とかか?ゴーちゃん、好きな人おるん?」
聞け!何でもないんだってば!
「会いたいけど会えへん、ってことは地元におるんか?」
推理しなくていいから!
「片思いなんか?それとも両思い…って、えぇっ?ゴーちゃん、まさかの恋人持ちやったりするん!?」
ずずいっとベルボルトに迫られ、俺は咄嗟にイドの背中に隠れた。
今現在、俺の中でデリケートな問題なんだから、そっとしておいてほしい。
しかし、ベルボルトが簡単に諦めるはずがなかった。
『白状せえ!』『何でもない!』と二人でイドの周りを追いかけっこしていたら、イドに『いい加減にしろ!』と言って、首根っこを掴まれた。
俺、悪くないのに。
ぷら~んとイドに掴まれて、目の前の景色が変わっていることに、俺は今更ながら気づいた。
「あれ?いつの間に陸地に??」
さっきまで海の上だったはずだが、すでに陸地で見覚えのある場所だった。
俺の発言に、ニコラが心配そうにこちらを見た。
「おいおい、お前マジで今日大丈夫か?ここまで自分で歩いてただろうが」
「クラーケロートは?」
「俺が剣で解体したやつを、フィンがマジックバックに黙々と詰めていたぞ」
スヴェンはそう言って、俺の鞄を指差した。
無意識に行動していたらしい。
「全部は食べ切れないからって、半分くらい売りに行ったが、それも覚えてないのか?」
地面に下ろしてくれたイドが、優しくこつんと頭を叩いてきた。
やばいな。全く記憶にない。
「ごめん。考え事してて、覚えてないや」
「ほんまか。そない深い悩み事があるんやったら、帰ったらお兄さんが聞いたるさかい、あんま考え込まんとき」
そう言って、ベルボルトは俺の頭を優しく撫でてくれた。
元気がない俺を、ベルボルトなりに心配してくれていたみたいだ。
「どんな話か楽しみやなー!」
いや違うなと、ベルボルトの嬉しそうな顔を見て認識を改める。
あまり他人に相談しにくい内容だし、違う話を考えておかねば。
悩みが増えたことに、俺は肩を落とした。
そんな風に見えていたのかと、言われて初めて気がついた。
だから、言えなかった。
完全にノリで作っていただなんて。
そんなことを言おうものなら、さすがに無神経過ぎますと、従者二人からお小言を食らうのは目に見えていた。
あの二人、最近似てきたしな。
ノリで作ったけど、これはちょっと張り切り過ぎかなって思って、恥ずかしくなって黙ってたのに、エリクがバラしちゃうし。
だって、ラインハルトは『デートしようか』ってサラリと言ったんだぞ。
遊びでデートっぽいことしようか、みたいなニュアンスで捉えた俺は悪くなくない?
えっ?『俺だって空気くらいは読む』って言った心の声は何だったのかって?
そりゃ『デートっぽいこと』なんだから、二人っきりじゃないと駄目だろうが。
だいたいさ、俺がモテるはずないんだ。
婚約者候補の話が出た時は、好きな人いなかったから協力してくれただけで、学校に入学して色んな人と出会ったら、また変わるかもしれないじゃん。
実際に、たくさんの人からアプローチ受けてたみたいだしさ。
でも、二人は義理堅いから、フィンと契約してるからって理由で断ってる可能性もあると思って、あんなことを言ってしまった。
結果、ラインハルトはすごく怒ってたな。
正直、何で俺なんだろうと思ってしまう。
『義理でなったと思ってるのは、フィンだけだから』
俺だけ。
ラインハルトは俺のことを、はっきり好きだと言った。
じゃあ、やっぱりゴットフリートもだろうか。
確かに思い返してみると、スキンシップは結構多かったような気がする。
多かったが、それは幼い頃からで、こんなもんかなと思っていた。
子どもだから、仲良しだから、くっつきたいみたいな。
でも、あの時のラインハルトの触れ方は違ったな。
く、口付けもされちゃったし。
嫌悪感はなかった。ただ恥ずかしかっただけ。
ヴィルヘルムでもラインハルトでも嫌じゃないなんて、俺は本当は誰でもいいんじゃないかと、自分の体が恐ろしくなる。
予感だけど、ゴットフリートも多分嫌じゃない。
あの手で触れられても、安心するだけだ。
ゴットフリートの側は、本人の持つ空気感によるものなのか、俺は安心して無防備になってしまう。
勝負した日も、気が緩んで隣で寝てしまった。
もしかしなくても、俺は三人のことを、それなりに好きなのかな。
三人一緒に選ぶのは、果たしてアリなのだろうか。
複数婚が認められているこの世界では、普通のことだと、そんなすぐには割り切れない。
胸を張って『三人好きなんだから何が悪い!文句あるか!』って言えたらいいんだけど。
「おい、フィン!」
でも、それってつまり『三股して何が悪い!』って言ってるのと一緒なわけで。
「ゴ、ゴーちゃん!来るで!」
そんな腐った野郎みたいな発言かと思うと怖気づくというか。
「フィン?どうしたんだ?」
あれ?もしかして、俺は他人の目を気にしているだけなのか?
「てめぇ!聞こえてんのか!フィン!」
あー!もう、分からん!
こんなにウジウジしてるなんて!!
「僕は何て不甲斐ないんだ!!」
俺は、ばっと両手を上げると、一気に氷魔法を放った。
目前まで迫っていた触腕から、もの凄い速さで、ピキピキピキッとクラーケロートが凍りつく。
すぐに小さな氷山が出来上がった。
周りにいたイドたちは、ほっと息を吐く。
「えぇ、いやぁ、充分頼りになると思うけど…何の話や?」
「…何でもない」
「お前、聞こえてたんなら返事しろっつーの!」
「ごめん」
「おっ?おう、分かったならいいが」
素直に謝った俺に、ニコラは調子狂うなと言って、首を傾げている。
「これ、どうやって持って帰るんだ?」
「細かくして、マジックバックに入れて持って帰ろう」
「せやったら、スヴェン。ちょお、切り刻んでくれへん?」
「ここでか?せめて陸地に上げてからにしたいんだが」
「じゃあ、近くの島まで引っ張ってくか」
今は小舟の上に乗っていて、海のど真ん中だ。
俺は、事前に用意していた縄をクラーケロートに巻きつけると、自分が乗っている舟とベルボルトたちが乗っている舟に、縄の先を括り付けた。
みんなで近くの島まで漕いでいく。
「それにしても、よお捕まえられたな。先生も喜ばはるで」
「だな。それに、去年は結局捕まえられなかったから、リベンジ達成できてラッキーだぜ」
ニコラの言葉を聞いて、もう一年も前のことなんだな、と改めて思った。
今日は、去年階級テストが行われた海のフィールドまで、イドたちとクラーケロートを捕まえにやって来ていた。
理由は、ユーリ先生に食べさせてあげたいから。
先生は、今年もそのまま臨時教師として学校に勤めることができるらしく、みんなでお祝い会をしようということになった。
先生も記念日大好きだし、きっと喜んでくれるよね。
そこで、俺たちの班長が絶賛していたクラーケロートを、五人からのプレゼントにしようという話になり、捕まえに来たのだ。
かなり美味しいらしいし、俺たちも楽しみだな。
食べてみて本当に美味しかったら、ヴィルたちにも食べさせてあげたいな、と思ったところで、俺は再び思考のループに陥る。
ちゃんとゴットフリートの気持ちも確かめてから、こっちに戻ってくれば良かったんだけど、タイミングが合わなかったんだよな。
ヴィルヘルムの誕生日パーティーの時には顔を合わせたが、大勢の人がいる前でできる話でもない。
結局、二人きりになるチャンスもなく、時間だけが過ぎ、新学期が始まってしまったのだ。
次は冬休みか。短いし、会えないかもしれない。
じゃあ、春休み、も短いな。
一年後の夏休みか。何て遠いんだ。
こういう時、距離があることを残念に思ってしまう。
「はぁ、会いたいのに会えないって、もどかしい」
「誰にや?」
「わぁ!」
いつの間にか、目の前にベルボルトのドアップがあって、俺は慌てて飛び退く。
「ゴーちゃん。どないしたん?今日はえらいボンヤリさんやん。何か悩み事か?お兄さんに話してみいひん?だーれに会いたい、のかな?」
ニヤニヤとベルボルトは揶揄うような笑みを浮かべている。
心の声が口から漏れていたらしい。
俺は、ふるふると首を振った。
「何でもないよ」
「もしや、好きな人とかか?ゴーちゃん、好きな人おるん?」
聞け!何でもないんだってば!
「会いたいけど会えへん、ってことは地元におるんか?」
推理しなくていいから!
「片思いなんか?それとも両思い…って、えぇっ?ゴーちゃん、まさかの恋人持ちやったりするん!?」
ずずいっとベルボルトに迫られ、俺は咄嗟にイドの背中に隠れた。
今現在、俺の中でデリケートな問題なんだから、そっとしておいてほしい。
しかし、ベルボルトが簡単に諦めるはずがなかった。
『白状せえ!』『何でもない!』と二人でイドの周りを追いかけっこしていたら、イドに『いい加減にしろ!』と言って、首根っこを掴まれた。
俺、悪くないのに。
ぷら~んとイドに掴まれて、目の前の景色が変わっていることに、俺は今更ながら気づいた。
「あれ?いつの間に陸地に??」
さっきまで海の上だったはずだが、すでに陸地で見覚えのある場所だった。
俺の発言に、ニコラが心配そうにこちらを見た。
「おいおい、お前マジで今日大丈夫か?ここまで自分で歩いてただろうが」
「クラーケロートは?」
「俺が剣で解体したやつを、フィンがマジックバックに黙々と詰めていたぞ」
スヴェンはそう言って、俺の鞄を指差した。
無意識に行動していたらしい。
「全部は食べ切れないからって、半分くらい売りに行ったが、それも覚えてないのか?」
地面に下ろしてくれたイドが、優しくこつんと頭を叩いてきた。
やばいな。全く記憶にない。
「ごめん。考え事してて、覚えてないや」
「ほんまか。そない深い悩み事があるんやったら、帰ったらお兄さんが聞いたるさかい、あんま考え込まんとき」
そう言って、ベルボルトは俺の頭を優しく撫でてくれた。
元気がない俺を、ベルボルトなりに心配してくれていたみたいだ。
「どんな話か楽しみやなー!」
いや違うなと、ベルボルトの嬉しそうな顔を見て認識を改める。
あまり他人に相談しにくい内容だし、違う話を考えておかねば。
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