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第二章

76話 お出かけ

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 青と白の二色の花弁をもつ珍しい花を見て、今日のフィンみたいだな、とラインハルトが言った。
 俺は自分の体を見下ろして納得する。
 上は少し刺繍の入った真っ白な半袖のシャツで、下は青いゆったりとした七分のズボンを穿いていたからだ。
 日射しが強いので、頭には麦わら帽子を被っている。その帽子には、ズボンと同じ色の青いリボンが巻いてあった。

「こんな不思議な花、僕、初めて見る」

 青と白の花弁が交互についていて、自然に咲いたとは思えない不思議さだった。
 その他にも、色んな花や草木が生えている。
 ここは王都から少し離れた場所にある自然公園だ。

「いい場所だろう?」
「うん!連れて来てくれてありがとう、ライン」
「どういたしまして。じゃあ、次はあっち見に行こうか」

 そう言って、さり気なくラインハルトは俺の手を握って歩き出した。
 振り払うわけにもいかず、俺は少し緊張しながら、ラインハルトについて行く。

 デ、デートだもんな。
 これくらい、普通か。

 そう。これはデートなのである。
 初のデート相手がラインハルトとは、人生分からないな、と俺は昨日のことを思い出していた。


「フィン。ゴットと勝負したんだって?俺も見たかったし、俺もフィンと勝負がしたかった」

 ラインハルトに拗ねたように言われ、俺は困ったように眉を下げた。
 レオンとラルフから自慢された父上、母上、シャルロッテからも『私も見たかった』と言われ、従者たち二人からも『フィン様の勇姿を見たかった』と視線で訴えられて、もうお腹いっぱいなのである。
 シャルロッテには『いっつもレオン兄さまとラルフ兄さまばかり贔屓にしてずるい!』とギャン泣きまでされて、宥めるのが大変だった。
 その為、俺の戦う姿を見せられなかったお詫びとして、ここ最近は家族への奉仕活動に勤しんでいた。
 母上とシャルロッテの買い物やお茶に何度も付き合い、父上の仕事の視察に同行し、その合間に、従者たちに色々お願い事をして世話を焼いてもらった。
 従者二人は、俺が何かお願い事をすると嬉しそうに動いてくれるので、世話を焼かせてあげるのがお詫びになると勝手に思っている。
 レオンとラルフまで拗ねると困るので、勉強を見てやったり、シャルロッテも交えて室内でゲームをして遊んだりもした。
 そんなことをせっせとしていたら、ゴットフリートと勝負をしてから、あっという間に二週間も経ってしまっていた。
 勝負のすぐ後に、ラインハルトから会いたいと言われていたのだが、家族を宥めるのに手一杯で後回しになっており、やっと会えたと思ったら開口一番に先程のセリフだ。
 そんなことを言われても、である。
 俺だってやりたくて勝負したわけじゃない。
 いや、やってみたら案外楽しかったけどさ。
 やったことに後悔はないが、ゴットフリートと二人だけで楽しんだ申し訳なさはある。
 だから、素直に謝罪した。

「ごめんね、ライン。また今度、機会があったら勝負しよう」
「いや、それはもういい」

 ええんかい!
 思わず関西弁で突っ込む。

「だからさ、代わりに明日一日俺に付き合ってよ」
「明日?」
「うん。俺とデートしようか。フィン」



 昨日、一緒に行きたい場所があるからと言われ、今日連れて来られたのが、この自然公園だった。
 ゴットフリートと勝負をした日に、ラインハルトは友達に誘われて、この場所を訪れていたそうだ。
 
「綺麗な場所だったから、フィンにも見せたいと思って」

 ラインハルトの言葉通り、緑豊かで、たくさんの花が咲いていて、とても綺麗な景色だった。
 疲れた時や、のんびりしたい時などに、ふらっと訪れたくなるような感じだ。
 奥の方には池もあって、ボートにも乗れるらしい。

「友達って、何人くらいで来たの?」
「初めは五人だったけど、偶然ここで学校の他の奴らと会って、最終的には八人くらいになったかな」
「ふうん」

 学校の人と偶然会うなんて、ここは結構有名な場所なんだな。
 周りを見回すと、二人連れも多く、デートスポットでもあるようだった。
 ラインハルトとポツポツ話をしながら一通り見たところで、お昼にすることになった。
 空いているベンチを見つけ、二人で座る。
 大きな木が近くにあって、ちょうど木陰になっていた。
 俺は、マジックバックから水筒やランチボックス、お手拭きなどを出していく。
 お昼ご飯は簡単なサンドイッチにした。

「はい。ライン、どうぞ」
「ありがと。うまそうだな」

 ラインハルトはそう言うと、サンドイッチを一つ手に取り、がぶりと食いついた。
 俺はちょっとドキドキしながら、それを見守る。

「ん!うまいな。このソース?みたいなやつ酸味があっていいな。何だろ?」
「それはね、マヨネーズっていうんだよ」

 俺もパクリとかぶりつく。
 うん。美味しい。
 懐かしい味だ。
 この国でも隣国でも、マヨネーズってなかったんだよね。
 料理長に無理言って、厨房に立たせてもらえて良かった。
 ラインハルトは『へぇ、マヨネーズか!』と言って、すぐに二つ、三つと手に取り、嬉しそうに食べている。
 気に入ってもらえたようで良かった。
 昼食を食べて少し休憩した後は、池でボートに乗ることになった。
 さすがにスワンボートはなく、オールで漕ぐ普通の小舟タイプだった。
 ラインハルトが漕いでくれて、俺はのんびりと景色を楽しむ。
 少し離れた場所で、水鳥が後ろに小さな子を引き連れて、ゆっくり泳いでいるのが見えた。

「ライン。ねぇ、見てみて。あそこ、親子で泳いでるよ。可愛いね」
「あぁ、本当だ。フィンみたいだな」
「…?そうかな?」

 今日は俺がよく登場するな。
 小さいからとか、そういう意味じゃないだろうな。
 どこら辺がと聞いてみたら、いつも弟妹を後ろに引き連れてるからと言われた。
 なるほど。

「今日も一緒に来たいって言われなかった?」
「言われたけど、さすがに断ったよ」

 弟妹だけでお留守番、とかなら連れてくるしかないけど、あの屋敷でそれはない。
 デートと言って誘われたんだ。
 俺だって空気くらいは読む。

「そっか」

 俺の言葉に、ラインハルトは嬉しそうに微笑んだ。



 


 
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