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第二章

65話 一日目①

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 メンバーが揃ったので集合と班長に呼ばれ、集まったのは俺も合わせて八人の生徒だった。

「皆、行き渡ったかな?まずは配った腕輪を左右どちらでもいいから付けてください」

 言われて、受け取った銀色の輪っかのような腕輪を右手首につけた。
 大きくて、すぽっと抜けてしまいそうである。

「次に班分けでもらった札、僕達は赤色に七が書かれた札だね。これを腕輪についている台座の上に乗せて、指で押さえながら、少しでいいので魔力を流し、今から言う呪文を唱えてください」

 腕輪には、指輪の台座のような小さな物がついていた。
 説明された手順で札を乗せ魔力を流す。
 台座よりも大きく四角い札は、呪文を唱えた瞬間に、楕円の小さな形に姿を変え、するりと台座に収まった。それと同時に、大きかった腕輪は手首の大きさまで縮まり、簡単には抜けないようになってしまう。

「これで、登録完了です。この腕輪に、今回行われるテストの情報が記録されていきます」

 すごい!
 記録媒体の魔道具なんだな。

「では、ルールや注意事項などを説明しますね」

 俺たちは赤組で、赤のフィールドは山だそうだ。
 山に行き、七つのミッションをクリアしてから、頂上にある魔道具を回収して下山できれば課題は終了。
 ただし、山には俺たちを含め十五の班が参加し、頂上にある魔道具は一つしかない。
 つまり、一つの班しか完全クリアはできない仕組みとなっている。
 七つのミッションをクリアしてからでないと、魔道具を入手しても意味はなく、ルール違反となり減点される。
 ミッションの内容は班ごとに違い、早くクリアできれば、それだけ魔道具を手に入れる時間も増える。魔道具は頂上にただ置いてある訳ではなく隠されているので、探す時間も必要なのだ。
 尚、大怪我をしたり、遭難した場合など、命の危険を感じた時点でリタイアすることも可能だ。
 腕輪に向かってリタイヤの呪文を唱えると、待機している教師陣へ伝わるようになっている。

「例え魔道具を入手できる可能性がなくなったとしても、ミッションのクリア数が多いほど加点されますので、諦めず一つでも多くクリアできるように、頑張りましょう」
「「「はい!」」」

 山へは一斉に転移魔法で移動するらしい。
 今回の階級テストのために用意された転移魔法陣が、十五個用意されていた。
 班の番号で魔法陣が割り振られており、皆で魔法陣の上に立つ。
 いよいよ始まるんだと、転移する瞬間をドキドキしながら待っていたら、横にいるアンリ先輩の顔が再び皺々になっているのに気づいた。

「アンリ先輩大丈夫ですか?緊張してます?」
「…っ…っ!」

 口をパクパクしているが声が出ていない。

「アンリ兄は転移魔法苦手なのよね」

 言葉が出ないアンリ先輩に代わり、リリアーナ様が答えてくれた。
 分かる。俺も最初は酔って二度としたくないと思ったもんな。
 何度か必要に迫られ転移するうちに、父上が言ってた通り、本当に慣れて平気になったけど。
 でも、それまでがしんどいんだよな。

「アンリ先輩。僕も転移魔法ちょっと苦手なんです。手、繋いでおきません?」

 俺の言葉に、アンリ先輩は首を縦に振ってくれた。失礼しますと言って、俺がアンリ先輩の左手を握ると、リリアーナ様が『じゃあ、私も!』と言って、アンリ先輩の右手を握った。
 人懐こい王女様である。
 それとも身内にだけだろうか。

「準備はいいですね。転移魔法を発動します。着地したと同時にテスト開始です。では皆さん、頑張ってください」

 山を担当する教師の言葉が終わったと同時に、魔法陣が光りだした。魔法陣の中にいた人々の姿が光に包まれ始め、お馴染みの浮遊間を感じ、気づいた時にはすでに山の中だった。
 先程まであった大勢の人の気配がない。
 ぐるりと辺りを見回すと、周りにいた人たちはおらず、手を繋いでいたはずのアンリ先輩も横にいなかった。

「おえぇぇぇ」

 いや、少し離れた位置にいた。
 酔ったようで蹲り、木の根もとにリバースしている。
 背中をさすってあげようと近づこうとしたら、目の前にパネルがいきなり現れ、思わず立ち止まった。

『ミッション①  班に合流せよ!』
 
 ステータスオープン!と叫んだら出てきそうなパネルだった。
 こんなもの出せるんだな。
 どんな仕組みなんだろ。
 最初のミッションは、バラバラに飛ばされた班のメンバーと合流することらしい。
 山の中でって、難易度高くね?
 初対面の人もいたし、ぶっちゃけ顔も名前もしっかり覚えてないんだけど。
 アンリ先輩が側にいることだけはラッキーだな。
 パネルは、俺が理解したと同時にふっと消えた。
 さて、頑張りますか。
 俺はとりあえず、アンリ先輩の背中をさする為に、最初の一歩を踏み出した。



「おい!そっちに行ったぞ!!」
 
 三年の先輩の声に振り返ると、一角獣の形をした魔物が三匹飛びかかってくるのが見えた。

「ひぃぃぃぃぃぃ」

 背後にいる二年の先輩がその光景を目にして悲鳴を上げる。
 俺は杖で魔法陣を素早く描くと、火の玉を複数出して放った。

『ギェェェェェ!』

 見事命中した魔物たちは、叫び声を上げて炭となり消えた。
 その声を聞き、再び二年の先輩は悲鳴を上げる。

「先輩。絶対に先輩には近づけませんから、早く解除をお願いします!」

 俺たちは今、洞窟の奥深くに閉じ込められ、周りをぐるりと魔物たちに囲まれていた。
 いや、正確には魔物ではないのかもしれない。
 魔物のような形をした何か、だった。
 全身が真っ黒で目や鼻はない。何故か口は存在し、個体によっては、ねっとりとした粘液のような物を吐き出してくるので気持ち悪かった。
 戦斧を得意とする三年の先輩、双剣を扱える二年の先輩、槍を持っている一年生が外側を、アンリ先輩、リリアーナ様、俺がその内側から魔法攻撃を仕掛けて、班長と二年の先輩を守っている。
 守られながら超絶ビビっている二年の先輩は、戦闘は不得意だが、頭はいい。
 謎解きには有能な人物なのだ。
 今もこの閉じ込められた空間から脱出するため、班長と共に複数の石でできたオブジェの鍵を解こうとしてくれている最中だった。ある順番通りに石を入れ替えれば魔法が解除され、閉じてしまっている通路が開くはず、らしい。
 だが、簡単に解かせてもらえるはずもなく、石を動かせる度に、天井から壁から魔物がボトリボトリと液体のように滲み出てきて襲いかかってきた。
 幸い、数は多いが魔物のレベルは高くないので倒すのは簡単だったが、長期戦になると皆の体力と魔力の底がついてしまう可能性があった。

「まだかよ!」
「今やってるよ!」

 三年の先輩と班長が切れ気味に怒鳴りあっている。
 どちらの気持ちも分かるが、班の仲がギスギスするのでやめて欲しい。
 皆、こんなに多くの魔物に囲まれたことがないのか、焦る雰囲気が徐々に高まってきていた。
 焦ると注意力も集中力も散漫になってしまう。

「ぐっ」
「きゃ」

 俺以外の一年二人が魔物に攻撃を受けて地面に倒れた。

「リリ!」
「アンリ先輩!危ない!」

 リリアーナ様の悲鳴に気を取られたアンリ先輩が、横から体当たりしてきた魔物を避けきれず、壁まで吹っ飛ばされる。

「ぐはっ!」

 魔法使いが二人も戦線離脱してしまった。
 やばいやばいやばい。
 これは出し惜しみしている場合じゃない!
 魔法陣を連続して描きつつ、俺は叫んだ。

「班長!使い魔を使っても!?」
「大丈夫だ!!」

 その言葉に俺は腕を振り上げると、相棒の名前を大声で呼んだ。

「出でよ!ココ!!」

 その瞬間、俺の影からココが咆哮を上げながら飛び出してきた。
 魔力が込められていたのか、空気をビリビリと震わせ、小さな魔物はその叫び声により消えた。
 いきなり登場した大きな獣に、皆の顔が引き攣る。

「行け!魔物を焼き尽くすんだ!」

 ココは俺の命令に従い、前線に向かって素早く走り出すと、外側を守っていた先輩たちに当たらないように、炎を口から放った。
 一気に大量の魔物が燃えて消え去る。

「すげっ」

 誰かの驚いたような声が聞こえた。
 ココは炎を吐き、魔物を尻尾で弾き飛ばし、時には噛みちぎって、とフル回転で戦ってくれた。
 ココが短時間で半分近くの魔物を消し去ったことで、皆の士気が上がった。
 俺とココが穴をカバーしている間に、倒れていた三人も持ち直したようで、自分の持ち場に戻った。そのすぐ後に鍵が解除され、俺たちは洞窟を脱出することに成功した。
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