13 / 28
第十三話 銀乃はコンっ!
しおりを挟む「あ、はい」
大変、思わず聞きほれてぼうっとしてしまった。
「コーヒーとケーキのセットで、このおすすめの古典チーズケーキっていうのをお願いしてもいい?
コーヒーはそうだなぁ、甘いのがいいかも、どれがいいと思う?ねぇ、さあや」
「え、はいっ?」
名前を呼ばれた、なんで私の名前を、と思った瞬間イケメンは、ひそひそ声で私にささやいた。
「もしかして、君、わかってないの?」
わかっているとは?
という内心の突っ込みも終わらないうちに、
「さあや、僕だよ、僕。ぎ、ん、の」
とひそひそ声のまま彼は言った。
「んなっ……!」
絶句するとはまさにこのことであった。つられて私もひそひそ声になる。
「どうして、なんで銀乃、これどういうこと」
「今日バイトさきに迎えに行くって言ったでしょ」
「そんな、まさか、なんで!?せめて狐で来ないですか!?」
意味不明に敬語になった私に、銀乃は苦笑いした。いや、苦笑いしたいのはこっちだから。
「狐の姿できたらみんなびっくりしちゃうでしょ?」
いや人間の姿でも超絶びっくりなんですけど。
「いいからさあや、注文お願いしてもいい?コーヒーは君のお勧めでお願いしようかな、甘いのがいいんだけど」
私にお構いなしに銀乃はにこにこしていた。
「え、ええと甘いのでお勧めだと、カフェラテ……」
「じゃあそれにするよ。お願いね、さあや」
はい、といった私に、ありがとう、と銀乃が緩やかに笑う。 その笑顔はとても魅惑的だった。伏せたまつげが意外に長い。
あの狐の銀乃、のはずなのに。これはいけない、何かいけない、とつぶやきながら私はキッチンに戻った。
◇◇◇
キッチンに戻ると、リコさんが待ちかねたように私を迎えてくれた。
「ね、すごいイケメンでしょ」
「はい……」
頭が痛い、知っている人だといったほうがいいのだろうか。しかし、知っている人というより、知っている狐であり、しかも同居しているとかどう言ったらいい…?
いや、これは言わないほうがいい気がする。リコさんすぐいろんな人に言う癖があるし……。
「でしょ、やっぱりそう思うよね。イケメンすぎじゃない?彼……何者??もしかしてこの間の人と兄弟とか??
それにしてもメイナがいないときにこんなことが起こるなんて……残念……メイナもいたら絶対に面白かったのに…!」
ちなみにメイナさんは今日は休みである。
「ちなみにイケメンは何を頼んだの」
「カフェラテです」
「うっ、ブラック飲みそうなのに何それかわいいっ……!やるわね!!ギャップ萌えってやつなの!?レベル高くない!?」
それは私も思った。
「もうちょっとこの話はしたいところ……なんだけど、閉店準備しなきゃ……。
私、お外の片づけをしてくるから、さあやちゃんお客さん対応お願いね」
そういってリコさんが外の片づけに出ていく。時計は20時43分を指していた。
私はカフェラテを入れ、ケーキを準備して銀乃(?)のところへ運ぶ。
「はい、銀乃」
「ありがとう。いただきます」
「閉店は21時だから、それまでに食べてね」
「わかってるよ。君と一緒に帰らなきゃだもんね」
銀乃はそう言ってニコッと私に笑いかけた。
ま、まぶしい。
え、なんだろう、どうしよう、形容しがたい恥ずかしさのようなものが心の中に生まれた私は、とりあえず手短にうん、というと、ささっとキッチンに戻ったのだった。
20時55分。あと5分で閉店だ。すっかり暗くなった外から、リコさんが戻ってくる。
洗い物もお片付けも全部終わって、レジの横に付けたベルがちりん、となった。
「お会計を」
銀乃の声。
あ、はい、とリコさんがレジ打ちに出てくれる。
キッチンからお会計をする銀乃が見える。すらっとした体つき、やっぱり見とれるほど美しい姿をしていた。絵から抜け出てきたみたいだった。
お会計を済ませた銀乃が、キッチンにいる私のほうに顔を上げ、目を向ける。視線が合った。銀乃はその瞬間、にこっとかわいらしく笑った。
「さあや、僕外で待ってるから、一緒にかえろ」
『え?』
というリコさんと私の声がハモった。私に振り返るリコさん。その目は、
『ちょおま、この人外のイケメンと知り合いかよ~!!一緒にかえるとか!?どういう!?』
ということを物語っていた。
ちなみに私は同じ瞬間、
(銀乃ほんとちょっと空気読んで~~~~!!!)
と思っていた。
「え、二人は知り合い?」
私と銀乃を交互に見て問うリコさん。
「ええ、そうですよ」と銀乃が答える。
「僕、さあやのいとこです。ね?」
ふぁ?
と思ったが、銀乃が合わせて合わせて!という感じに目配せを送るので、私はとりあえず同意した。
「あっ……そうなんです」
「え、そうだったんだ。すごおい。あなた、結城さんのいとこさんなんだ」
リコさんは、かわいらしく銀乃に一礼した。
「私、東リコっていいます。よろしく。またお店に来てくださいね」
「あ、これはこれは丁寧に、僕は銀乃っていいます」
「銀乃ってお名前ですか?苗字?どっちにしても珍しい……」
「あっ、えーっと、苗字かな」
たぶん思い付きで銀乃はいい、リコさんはすかさず、
「へーかっこいい苗字ですね!お名前も気になる」
と言葉を継いだ。銀乃が言葉に窮した気配があった。
「銀乃の名前はコン、です」
「ああ、そうそう、僕の名前、銀乃コン、です」
はっとしたように銀乃は私の言葉を繰り返し、リコさんににっこりと笑いかけ、
「それじゃ、外で待ってる」
そう言い残して、カランカランとベルを鳴らし、銀乃は店の外へと出ていった。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
神農町奇談
棒
キャラ文芸
家の宝である「来燎火(らいりょうか)」という武器が行方をくらませる。人知を凌駕する伝説の武器の失踪にその家の守り神は、一春という家でもっとも年少の人物に目をつける。手助けのため、鹿鳴(ろくめい)という神をつける。守り神が作った偽物の神だったせいか、まるで一春の言うことをきかず、結局彼は一人で捜索することになる。
いろんな人、あるいは人以外の者と触れ、一春は自分の生まれ育った町が見た目以上に複雑にできていることを知り、その果てで鹿鳴と再会する。
ついに来燎火を発見する。しかしその犠牲は大きかった。鹿鳴はまた単独行動をして来燎火に挑むが返り討ちに遭ってしまう。
ようやくふたりは協力して討ち果たすことを約束する。その結果、鹿鳴が命を捨てて来燎火の足を止め、一春が守り神から受けとったもうひとつの力を使って見事に仕留める。
宝を失った家は勢いが衰えるが、新たな当主となった一春が立て直す。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
【R18】もう一度セックスに溺れて
ちゅー
恋愛
--------------------------------------
「んっ…くっ…♡前よりずっと…ふか、い…」
過分な潤滑液にヌラヌラと光る間口に亀頭が抵抗なく吸い込まれていく。久しぶりに男を受け入れる肉道は最初こそ僅かな狭さを示したものの、愛液にコーティングされ膨張した陰茎を容易く受け入れ、すぐに柔らかな圧力で応えた。
--------------------------------------
結婚して五年目。互いにまだ若い夫婦は、愛情も、情熱も、熱欲も多分に持ち合わせているはずだった。仕事と家事に忙殺され、いつの間にかお互いが生活要員に成り果ててしまった二人の元へ”夫婦性活を豹変させる”と銘打たれた宝石が届く。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる