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第二話 バイト先にイケメン来店
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狐の銀乃と同居して3日。
家でごろごろしている私に注意するでもなく、銀乃は
「病み上がりだからね」
と、家事掃除洗濯のすべてをなんでもやってくれていた。いや、頼んでないけど私が気が付くと終わっているのだ。確かに役に立つ、という言葉に二言はなく、めちゃめちゃ役に立っていた。
特にご飯が素晴らしく、今まで自分では作らないような料理が、毎食でてくるのは、ちょっとした楽しみにもなっていた。
が。
「だめだよ、ピーマンを残しちゃ」
銀乃の言葉に、しぶしぶ私はチャーハンからより分けたピーマンを口に運び溜め息をついた。
「健康な体は健康な食事から。偏食はいけません」
銀乃の作ってくれたチャーハンを食べながら、
意外と口うるさいな……と私は思っていた。
「はぁい…」
「あはは、よしよし、ちゃんと食べたら3時のおやつを作ってあげるからね!」
「あ、おやつはいいよ、私出かけなくちゃ」
え、と銀乃は私に視線を向けた。
「君、どこに出かけるの?」
「えっと、アルバイトに」
「仕事しに行くの?病み上がりなのに?」
明らかに心配そうな口調で、エプロンを付けた二足歩行の狐は私のそばにやってきた。
「半年くらいは外に出て欲しくはないんだけど……人間は働かないとなんだっけ……」
「ちょ、ちょっとまって、半年も外に出るなっていうの?そんなの無理だよ!仕事しないと家賃も払えないし、それに来月からは大学も始まるし、そもそもそんな不自由な生活したくないよ」
「わかってるって、そっかぁ、うーんわかった。あんまり遅くならなければ大丈夫だと思うけど……君、このお守りを必ずもっていって」
銀乃はどこからとりだしたのか、もふもふの手の中から、小さな鈴のついた紐を取り出した。
「はいこれ、腕につけておいてね」
いうなり、銀乃は私の手首にきゅっと緩く結んだ。
「何時くらいに帰ってくるのかな?」
「えーと、夜の9時くらい」
「うーん、遅いなぁ、僕心配なんだけど」
「あのね、私もう18歳なの、大人なの。狐さんに心配してもらうほど子供じゃないんだから、心配しなくて大丈夫だからね」
それになんかこう…息苦しいし。と思った私の心を見透かしたのか、銀乃はふふっと笑った。
「そうだね、あんまりあれこれ言うのもうるさいもんねぇ。
わかったよ、気をつけてアルバイト、いってらっしゃい」
◇◇◇
私のアルバイト先は、自宅から踏切を越えて自転車で15分ほど。
選んだ理由は一人暮らしの自宅からそこそこ近く、かつ、カフェのオーナーことマスターがゆるいことで有名だったから。
カフェアマデウス。創業40年、コーヒーと手作りのケーキとカレーが売りの学生御用達クラシカルカフェは、大正ロマンにあふれ無駄に広い。
私の通う新帝大の学生はほとんど知っているカフェだ。何しろ大学の正門の真ん前にある上、大変立派でクラシックな店構えをしている。
ちなみにアマデウスというだけあって、音楽はモーツァルト以外は流れない。これはマスターの趣味。
カフェのロッカーで制服のベストとスカートに着替えて、ちょうどシフトの時間15時、おやつの時間に間に合った。
今日のカフェアマデウスは、夏休みのせいか閑散としている。ちょっと前までのテスト期間の頃の喧騒が嘘のようだった。
大学がやっていれば、部活帰りの大学生、一休みしている教授、サボりに来ている学生などで賑わうここは、
4部屋に40人は入るひろいカフェの中にいるお客さんは若いお兄さんと教授らしき男性一人だけだった。
「おはようございます」
キッチンに入ると、先輩のリコさん、メイナさん二人が入っていた。
「おはよ、さあやちゃん」
1つ上にの先輩、ふわふわの巻き髪のリコさんは、ナチュラルめ、うすピンクのアイシャドウをキラキラさせて、抜群の笑顔でにっこり笑った。
界隈の男子に抜群の人気をほこるリコさんは、ふんわりした見た目同様、ふんわりした言動と優しさを兼ね備え、仕事はきっちりしているけれど他人にそれはもとめず抜くときは抜く。素晴らしい人である。
「あ、さあやちゃん、今日もマスターこないから」
厨房担当、すらっと背の高いメイナさんが、キッチンの向こうから私に声をかけた。
「あ、やっぱりですか」
「やっぱりだよ。なんで私、ケーキの仕込みやってるから、二人で接客よろしく。
父さん、ぜんぜん来ないよね。実質私の店みたいになってると思わない?」
にやっと笑ったメイナさんに、ですよね~と私とリコさんも笑う。
「今日はお客さんも落ち着いてるし、空いたテーブルの補充とかお掃除とかしてきちゃおっかな?」
リコさんが私に目配せをして、私たちはテーブルを拭いたり楊枝を補充したり、ナプキンを補充したりとやることはやりながら、雑談に花を咲かせていた。
「正直、この時期に三人シフトだと多すぎじゃない?やることないよねぇ」
「ですね」
「でもメイナと私とさあやちゃんの3人っていうのは楽しい~。
あっ、ねえメイナから聞いたんだけど、メイナパパ、しばらくこっちに来ないみたい。
今外国のマラソンの大会に出てるらしくって、5日くらい戻ってこないんだって。すごいよね~」
「えー、じゃあ5日はマスター不在ですか?」
「そうそう、メイナと私とさあやちゃんで、楽しい毎日よ~。しかも夏休みはお客さんも少ないし、落ち着いててゆっくりできるし」
「そうですけど、売り上げが」
私の言葉にリコさんはおかしそうに笑った。
「さあやちゃん真面目~。私はこっちのほうがいいよお、大学がはじまったらまたメイナ目当ての女の子たちがわいわい来たりして面倒なんだもん」
私は内心、
(リコさん目当ての男性のお客さんもわいわいくるよね……)
と思ったけど黙っておいた。
この4か月間だけでも、リコさんに番号を渡してる男子を3人見かけている。
「それにしても、なんかさあやちゃん、感じ変わった?」
「え?」
「うーん、なんて言ったらいいかわからないけど、なんか、ふわふわしてる……みたいな?」
リコさんが言い終わらないうちに、カラン、と店の入り口に取り付けてあるベルが鳴った。
いらっしゃいませ、とリコさんが入り口に向かい、私はお客さんに出すためのお冷を取りにキッチンに戻る。
リコさんがお客さんを席に案内したのを確認して、私はおしぼりとお冷をお客さんに用意すると、すれ違いざま、リコさんが、
「すごいイケメン!」
とこっそり耳打ちするので、お客さんの顔を思わずじっと見てしまった。
家でごろごろしている私に注意するでもなく、銀乃は
「病み上がりだからね」
と、家事掃除洗濯のすべてをなんでもやってくれていた。いや、頼んでないけど私が気が付くと終わっているのだ。確かに役に立つ、という言葉に二言はなく、めちゃめちゃ役に立っていた。
特にご飯が素晴らしく、今まで自分では作らないような料理が、毎食でてくるのは、ちょっとした楽しみにもなっていた。
が。
「だめだよ、ピーマンを残しちゃ」
銀乃の言葉に、しぶしぶ私はチャーハンからより分けたピーマンを口に運び溜め息をついた。
「健康な体は健康な食事から。偏食はいけません」
銀乃の作ってくれたチャーハンを食べながら、
意外と口うるさいな……と私は思っていた。
「はぁい…」
「あはは、よしよし、ちゃんと食べたら3時のおやつを作ってあげるからね!」
「あ、おやつはいいよ、私出かけなくちゃ」
え、と銀乃は私に視線を向けた。
「君、どこに出かけるの?」
「えっと、アルバイトに」
「仕事しに行くの?病み上がりなのに?」
明らかに心配そうな口調で、エプロンを付けた二足歩行の狐は私のそばにやってきた。
「半年くらいは外に出て欲しくはないんだけど……人間は働かないとなんだっけ……」
「ちょ、ちょっとまって、半年も外に出るなっていうの?そんなの無理だよ!仕事しないと家賃も払えないし、それに来月からは大学も始まるし、そもそもそんな不自由な生活したくないよ」
「わかってるって、そっかぁ、うーんわかった。あんまり遅くならなければ大丈夫だと思うけど……君、このお守りを必ずもっていって」
銀乃はどこからとりだしたのか、もふもふの手の中から、小さな鈴のついた紐を取り出した。
「はいこれ、腕につけておいてね」
いうなり、銀乃は私の手首にきゅっと緩く結んだ。
「何時くらいに帰ってくるのかな?」
「えーと、夜の9時くらい」
「うーん、遅いなぁ、僕心配なんだけど」
「あのね、私もう18歳なの、大人なの。狐さんに心配してもらうほど子供じゃないんだから、心配しなくて大丈夫だからね」
それになんかこう…息苦しいし。と思った私の心を見透かしたのか、銀乃はふふっと笑った。
「そうだね、あんまりあれこれ言うのもうるさいもんねぇ。
わかったよ、気をつけてアルバイト、いってらっしゃい」
◇◇◇
私のアルバイト先は、自宅から踏切を越えて自転車で15分ほど。
選んだ理由は一人暮らしの自宅からそこそこ近く、かつ、カフェのオーナーことマスターがゆるいことで有名だったから。
カフェアマデウス。創業40年、コーヒーと手作りのケーキとカレーが売りの学生御用達クラシカルカフェは、大正ロマンにあふれ無駄に広い。
私の通う新帝大の学生はほとんど知っているカフェだ。何しろ大学の正門の真ん前にある上、大変立派でクラシックな店構えをしている。
ちなみにアマデウスというだけあって、音楽はモーツァルト以外は流れない。これはマスターの趣味。
カフェのロッカーで制服のベストとスカートに着替えて、ちょうどシフトの時間15時、おやつの時間に間に合った。
今日のカフェアマデウスは、夏休みのせいか閑散としている。ちょっと前までのテスト期間の頃の喧騒が嘘のようだった。
大学がやっていれば、部活帰りの大学生、一休みしている教授、サボりに来ている学生などで賑わうここは、
4部屋に40人は入るひろいカフェの中にいるお客さんは若いお兄さんと教授らしき男性一人だけだった。
「おはようございます」
キッチンに入ると、先輩のリコさん、メイナさん二人が入っていた。
「おはよ、さあやちゃん」
1つ上にの先輩、ふわふわの巻き髪のリコさんは、ナチュラルめ、うすピンクのアイシャドウをキラキラさせて、抜群の笑顔でにっこり笑った。
界隈の男子に抜群の人気をほこるリコさんは、ふんわりした見た目同様、ふんわりした言動と優しさを兼ね備え、仕事はきっちりしているけれど他人にそれはもとめず抜くときは抜く。素晴らしい人である。
「あ、さあやちゃん、今日もマスターこないから」
厨房担当、すらっと背の高いメイナさんが、キッチンの向こうから私に声をかけた。
「あ、やっぱりですか」
「やっぱりだよ。なんで私、ケーキの仕込みやってるから、二人で接客よろしく。
父さん、ぜんぜん来ないよね。実質私の店みたいになってると思わない?」
にやっと笑ったメイナさんに、ですよね~と私とリコさんも笑う。
「今日はお客さんも落ち着いてるし、空いたテーブルの補充とかお掃除とかしてきちゃおっかな?」
リコさんが私に目配せをして、私たちはテーブルを拭いたり楊枝を補充したり、ナプキンを補充したりとやることはやりながら、雑談に花を咲かせていた。
「正直、この時期に三人シフトだと多すぎじゃない?やることないよねぇ」
「ですね」
「でもメイナと私とさあやちゃんの3人っていうのは楽しい~。
あっ、ねえメイナから聞いたんだけど、メイナパパ、しばらくこっちに来ないみたい。
今外国のマラソンの大会に出てるらしくって、5日くらい戻ってこないんだって。すごいよね~」
「えー、じゃあ5日はマスター不在ですか?」
「そうそう、メイナと私とさあやちゃんで、楽しい毎日よ~。しかも夏休みはお客さんも少ないし、落ち着いててゆっくりできるし」
「そうですけど、売り上げが」
私の言葉にリコさんはおかしそうに笑った。
「さあやちゃん真面目~。私はこっちのほうがいいよお、大学がはじまったらまたメイナ目当ての女の子たちがわいわい来たりして面倒なんだもん」
私は内心、
(リコさん目当ての男性のお客さんもわいわいくるよね……)
と思ったけど黙っておいた。
この4か月間だけでも、リコさんに番号を渡してる男子を3人見かけている。
「それにしても、なんかさあやちゃん、感じ変わった?」
「え?」
「うーん、なんて言ったらいいかわからないけど、なんか、ふわふわしてる……みたいな?」
リコさんが言い終わらないうちに、カラン、と店の入り口に取り付けてあるベルが鳴った。
いらっしゃいませ、とリコさんが入り口に向かい、私はお客さんに出すためのお冷を取りにキッチンに戻る。
リコさんがお客さんを席に案内したのを確認して、私はおしぼりとお冷をお客さんに用意すると、すれ違いざま、リコさんが、
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