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第32話 お出かけのルカ

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◇◇◇


 ずいぶん立って、ノックの音に、私は目を開けました。

「ルチル、入っていいか」

 はい、と弱弱しく返事をすると、ルカが水を持ってやってきました。

「起きたな」

「……もう夕方……私、ずっと寝ていたのですか」

「ああ、そうだよ。具合はどうだ?」

 彼は薬湯を私に手渡すと、手の甲を軽く私の額に当てて、私の熱を見てくれます。

「まだ熱っぽいな」

「いえ……薬もいただきましたし、昨日よりもずっと良いです。
 ああそうだ、それよりそろそろルカの呪いを薄めないと……」

「ああ、そんな時間か……」

 少しすまなそうに彼は眉を寄せました。

「……具合の悪いのに」

「そうはいっても、呪いが戻っても困ってしまうでしょう?」

「まぁ……それはそうだが……大丈夫なのか?」

 私は頷くと、解呪の文言を唱えます。キラキラした光が舞い、ルカを包みました。

「ありがとう。
 俺はこれから、少し家をあける。できるだけ早く帰るが、ここでおとなしく養生していられるな?」

 私は頷きました。

「そうだルチル、何か食べたいものとか、欲しいものはあるか?」

 私は首を振りました。

「じゃあ好物でもなんでも」

「何もないですよ」

「本当は?」

「本当とは……?」

「遠慮しなくていいってことだ。
 こんなときに気兼ねしなくていい。とにかく食べたいものでも欲しいものでも。あればもってこよう」

「本当に何もないのです。だいたいここでは、望んでもそう簡単に何でもという訳には……」

「まぁ言うだけタダだ。いってみたらどうだ」

「……」

 私はあまり思いつかず、黙ってしまいました。

「じゃあルチル、子どもの頃、好きだった食べ物は?」

「……えーと、アイスクリームの乗ったアップルパイ?」

「じゃあ子どもの時に欲しかったものは?」

「……ふふっ、くだらないものですよ、キラキラしたアクセサリーとか、お姫様みたいなドレスとか。
 まぁその後は巫女になり聖女になりましたので、そういう世俗のものとは縁遠い人生です」

 彼も下らないと思ったのでしょう、そうか、と言って少し笑いました。

「食事は、台所の鍋にスープを作っておいた。
 食べられるようなら食べてくれ。俺はいってくる。安静にな」

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