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第30話 ピンチはチャンス!

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◇◇◇


 宮廷の王の御前から退出し、私は神殿に戻る廊下を急ぎ足で歩きながら、前後左右、背後にも誰もいないことを確認し、口を開いた。

「……神官長様、ルチル様を連れ戻して幽閉って、これは大変なことになったのでは?」

「大変なことになった」

「どうするのです?」

「今のところどうにもならん」

「ルチル様がもしここに戻ってきたら幽閉されちゃうんですよね!?
 その後絶対ろくでもないことになりますよね!?!?オズワルドとかにどんな目にあわされるかわからないし……」

「案ずるな。ルチル様は戻ってこないじゃろうて」

 神官長様はふん、と笑った。

「ルチル様は機転がきく。安全だという確信がなければ、ここには戻るまい」

 確かに、と私は納得した。ルチル様は賢い。抜けてるところはあるけど、基本すごく頭のいい人なのだ。私もおそばに5年居て、それはわかっていた。

 それに神官長さまは、ルチル様の育ての親。そして私の育ての親でもある。私達が神官長様の顔色でその心がわかるように、神官長様もルチル様を育てただけあって、きっとルチル様の内心がわかるのだろう。

「ララ、この窮地は好機じゃ」

「え?」

 納得いかない顔の私をおいて、神官長さまは話し出した。

「王はオズワルドを重用し、魔術局は力を強めている。今最も権勢が強いのは、魔術局ただ一つ。
 神殿、魔術局、騎士団の3つの均衡は崩れ、魔術局だけが突出して力をふるい、神殿はないがしろにされている。聖女の罷免まで魔術局に手出しされるまでに至った。しかし考えてもみなさい。これは神殿の力を取り戻すチャンスでもある」

「どういうことですか」

「魔術局からきた聖女代理サラはルチル様の代わりにならず、国を守る聖女の結界は破れた。魔物討伐に騎士団や魔術局は駆り出されてたが、それを収められないだろう。
 ルチル様を追い出して聖女の結界を維持できなくし、神殿と国に厄災をもたらしたのは、魔術局のオズワルドだということは、私達も民も皆知っている。
 これから魔術局の地位は失墜していくじゃろうて。
 ルチル様不在であればあるほど、国は傾き、オズワルドの立場が王宮内では悪くなる。ひいては、魔術局の足下を崩すことに繋がるのだ」

「でも、そうしたらこの国はどうなるのです……魔物入り放題じゃないですか。国、滅びちゃいません?」

「それまでに、ルチル様の立場を悪くしない条件を、王から引き出して戻ってもらえばいい。
 あの方がいなければこの国がなりたたないことを、あの王もわかってはいるはずじゃ。今、王はあの稀代の魔術師オズワルドの力にたぶらかされ、妄信している。それを崩すには、今はルチル様がここに居ないほうがいいじゃろう」

「はあ……しかし、あのオズワルドのことですよ?何としてでもルチル様を見つけてくるのでは……」

「ルチル様はみなしご。家族も親戚もなく、いくあてなど見当がつくまい。というかわしにも見当がつかん」

 神官長さまは意地悪に笑った。

 私は少しだけほっとして、心の中で女神様に祈った。
 ルチル様がオズワルドに見つからないように。今日も元気で過ごしていますように。
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