30 / 171
第30話 ピンチはチャンス!
しおりを挟む
◇◇◇
宮廷の王の御前から退出し、私は神殿に戻る廊下を急ぎ足で歩きながら、前後左右、背後にも誰もいないことを確認し、口を開いた。
「……神官長様、ルチル様を連れ戻して幽閉って、これは大変なことになったのでは?」
「大変なことになった」
「どうするのです?」
「今のところどうにもならん」
「ルチル様がもしここに戻ってきたら幽閉されちゃうんですよね!?
その後絶対ろくでもないことになりますよね!?!?オズワルドとかにどんな目にあわされるかわからないし……」
「案ずるな。ルチル様は戻ってこないじゃろうて」
神官長様はふん、と笑った。
「ルチル様は機転がきく。安全だという確信がなければ、ここには戻るまい」
確かに、と私は納得した。ルチル様は賢い。抜けてるところはあるけど、基本すごく頭のいい人なのだ。私もおそばに5年居て、それはわかっていた。
それに神官長さまは、ルチル様の育ての親。そして私の育ての親でもある。私達が神官長様の顔色でその心がわかるように、神官長様もルチル様を育てただけあって、きっとルチル様の内心がわかるのだろう。
「ララ、この窮地は好機じゃ」
「え?」
納得いかない顔の私をおいて、神官長さまは話し出した。
「王はオズワルドを重用し、魔術局は力を強めている。今最も権勢が強いのは、魔術局ただ一つ。
神殿、魔術局、騎士団の3つの均衡は崩れ、魔術局だけが突出して力をふるい、神殿はないがしろにされている。聖女の罷免まで魔術局に手出しされるまでに至った。しかし考えてもみなさい。これは神殿の力を取り戻すチャンスでもある」
「どういうことですか」
「魔術局からきた聖女代理サラはルチル様の代わりにならず、国を守る聖女の結界は破れた。魔物討伐に騎士団や魔術局は駆り出されてたが、それを収められないだろう。
ルチル様を追い出して聖女の結界を維持できなくし、神殿と国に厄災をもたらしたのは、魔術局のオズワルドだということは、私達も民も皆知っている。
これから魔術局の地位は失墜していくじゃろうて。
ルチル様不在であればあるほど、国は傾き、オズワルドの立場が王宮内では悪くなる。ひいては、魔術局の足下を崩すことに繋がるのだ」
「でも、そうしたらこの国はどうなるのです……魔物入り放題じゃないですか。国、滅びちゃいません?」
「それまでに、ルチル様の立場を悪くしない条件を、王から引き出して戻ってもらえばいい。
あの方がいなければこの国がなりたたないことを、あの王もわかってはいるはずじゃ。今、王はあの稀代の魔術師オズワルドの力にたぶらかされ、妄信している。それを崩すには、今はルチル様がここに居ないほうがいいじゃろう」
「はあ……しかし、あのオズワルドのことですよ?何としてでもルチル様を見つけてくるのでは……」
「ルチル様はみなしご。家族も親戚もなく、いくあてなど見当がつくまい。というかわしにも見当がつかん」
神官長さまは意地悪に笑った。
私は少しだけほっとして、心の中で女神様に祈った。
ルチル様がオズワルドに見つからないように。今日も元気で過ごしていますように。
宮廷の王の御前から退出し、私は神殿に戻る廊下を急ぎ足で歩きながら、前後左右、背後にも誰もいないことを確認し、口を開いた。
「……神官長様、ルチル様を連れ戻して幽閉って、これは大変なことになったのでは?」
「大変なことになった」
「どうするのです?」
「今のところどうにもならん」
「ルチル様がもしここに戻ってきたら幽閉されちゃうんですよね!?
その後絶対ろくでもないことになりますよね!?!?オズワルドとかにどんな目にあわされるかわからないし……」
「案ずるな。ルチル様は戻ってこないじゃろうて」
神官長様はふん、と笑った。
「ルチル様は機転がきく。安全だという確信がなければ、ここには戻るまい」
確かに、と私は納得した。ルチル様は賢い。抜けてるところはあるけど、基本すごく頭のいい人なのだ。私もおそばに5年居て、それはわかっていた。
それに神官長さまは、ルチル様の育ての親。そして私の育ての親でもある。私達が神官長様の顔色でその心がわかるように、神官長様もルチル様を育てただけあって、きっとルチル様の内心がわかるのだろう。
「ララ、この窮地は好機じゃ」
「え?」
納得いかない顔の私をおいて、神官長さまは話し出した。
「王はオズワルドを重用し、魔術局は力を強めている。今最も権勢が強いのは、魔術局ただ一つ。
神殿、魔術局、騎士団の3つの均衡は崩れ、魔術局だけが突出して力をふるい、神殿はないがしろにされている。聖女の罷免まで魔術局に手出しされるまでに至った。しかし考えてもみなさい。これは神殿の力を取り戻すチャンスでもある」
「どういうことですか」
「魔術局からきた聖女代理サラはルチル様の代わりにならず、国を守る聖女の結界は破れた。魔物討伐に騎士団や魔術局は駆り出されてたが、それを収められないだろう。
ルチル様を追い出して聖女の結界を維持できなくし、神殿と国に厄災をもたらしたのは、魔術局のオズワルドだということは、私達も民も皆知っている。
これから魔術局の地位は失墜していくじゃろうて。
ルチル様不在であればあるほど、国は傾き、オズワルドの立場が王宮内では悪くなる。ひいては、魔術局の足下を崩すことに繋がるのだ」
「でも、そうしたらこの国はどうなるのです……魔物入り放題じゃないですか。国、滅びちゃいません?」
「それまでに、ルチル様の立場を悪くしない条件を、王から引き出して戻ってもらえばいい。
あの方がいなければこの国がなりたたないことを、あの王もわかってはいるはずじゃ。今、王はあの稀代の魔術師オズワルドの力にたぶらかされ、妄信している。それを崩すには、今はルチル様がここに居ないほうがいいじゃろう」
「はあ……しかし、あのオズワルドのことですよ?何としてでもルチル様を見つけてくるのでは……」
「ルチル様はみなしご。家族も親戚もなく、いくあてなど見当がつくまい。というかわしにも見当がつかん」
神官長さまは意地悪に笑った。
私は少しだけほっとして、心の中で女神様に祈った。
ルチル様がオズワルドに見つからないように。今日も元気で過ごしていますように。
0
お気に入りに追加
1,128
あなたにおすすめの小説
追放された聖女の悠々自適な側室ライフ
白雪の雫
ファンタジー
「聖女ともあろう者が、嫉妬に狂って我が愛しのジュリエッタを虐めるとは!貴様の所業は畜生以外の何者でもない!お前との婚約を破棄した上で国外追放とする!!」
平民でありながらゴーストやレイスだけではなくリッチを一瞬で倒したり、どんな重傷も完治してしまうマルガレーテは、幼い頃に両親と引き離され聖女として教会に引き取られていた。
そんな彼女の魔力に目を付けた女教皇と国王夫妻はマルガレーテを国に縛り付ける為、王太子であるレオナルドの婚約者に据えて、「お妃教育をこなせ」「愚民どもより我等の病を治療しろ」「瘴気を祓え」「不死王を倒せ」という風にマルガレーテをこき使っていた。
そんなある日、レオナルドは居並ぶ貴族達の前で公爵令嬢のジュリエッタ(バスト100cm以上の爆乳・KかLカップ)を妃に迎え、マルガレーテに国外追放という死刑に等しい宣言をしてしまう。
「王太子殿下の仰せに従います」
(やっと・・・アホ共から解放される。私がやっていた事が若作りのヒステリー婆・・・ではなく女教皇と何の力もない修道女共に出来る訳ないのにね~。まぁ、この国がどうなってしまっても私には関係ないからどうでもいいや)
表面は淑女の仮面を被ってレオナルドの宣言を受け入れたマルガレーテは、さっさと国を出て行く。
今までの鬱憤を晴らすかのように、着の身着のままの旅をしているマルガレーテは、故郷である幻惑の樹海へと戻っている途中で【宮女狩り】というものに遭遇してしまい、大国の後宮へと入れられてしまった。
マルガレーテが悠々自適な側室ライフを楽しんでいる頃
聖女がいなくなった王国と教会は滅亡への道を辿っていた。
実家を追放された名家の三女は、薬師を目指します。~草を食べて生き残り、聖女になって実家を潰す~
juice
ファンタジー
過去に名家を誇った辺境貴族の生まれで貴族の三女として生まれたミラ。
しかし、才能に嫉妬した兄や姉に虐げられて、ついに家を追い出されてしまった。
彼女は森で草を食べて生き抜き、その時に食べた草がただの草ではなく、ポーションの原料だった。そうとは知らず高級な薬草を食べまくった結果、体にも異変が……。
知らないうちに高価な材料を集めていたことから、冒険者兼薬師見習いを始めるミラ。
新しい街で新しい生活を始めることになるのだが――。
新生活の中で、兄姉たちの嘘が次々と暴かれることに。
そして、聖女にまつわる、実家の兄姉が隠したとんでもない事実を知ることになる。
召喚されたら聖女が二人!? 私はお呼びじゃないようなので好きに生きます
かずきりり
ファンタジー
旧題:召喚された二人の聖女~私はお呼びじゃないようなので好きに生きます~
【第14回ファンタジー小説大賞エントリー】
奨励賞受賞
●聖女編●
いきなり召喚された上に、ババァ発言。
挙句、偽聖女だと。
確かに女子高生の方が聖女らしいでしょう、そうでしょう。
だったら好きに生きさせてもらいます。
脱社畜!
ハッピースローライフ!
ご都合主義万歳!
ノリで生きて何が悪い!
●勇者編●
え?勇者?
うん?勇者?
そもそも召喚って何か知ってますか?
またやらかしたのかバカ王子ー!
●魔界編●
いきおくれって分かってるわー!
それよりも、クロを探しに魔界へ!
魔界という場所は……とてつもなかった
そしてクロはクロだった。
魔界でも見事になしてみせようスローライフ!
邪魔するなら排除します!
--------------
恋愛はスローペース
物事を組み立てる、という訓練のため三部作長編を予定しております。
悪役令嬢と呼ばれて追放されましたが、先祖返りの精霊種だったので、神殿で崇められる立場になりました。母国は加護を失いましたが仕方ないですね。
蒼衣翼
恋愛
古くから続く名家の娘、アレリは、古い盟約に従って、王太子の妻となるさだめだった。
しかし、古臭い伝統に反発した王太子によって、ありもしない罪をでっち上げられた挙げ句、国外追放となってしまう。
自分の意思とは関係ないところで、運命を翻弄されたアレリは、憧れだった精霊信仰がさかんな国を目指すことに。
そこで、自然のエネルギーそのものである精霊と語り合うことの出来るアレリは、神殿で聖女と崇められ、優しい青年と巡り合った。
一方、古い盟約を破った故国は、精霊の加護を失い、衰退していくのだった。
※カクヨムさまにも掲載しています。
【完結】私、四女なんですけど…?〜四女ってもう少しお気楽だと思ったのに〜
まりぃべる
恋愛
ルジェナ=カフリークは、上に三人の姉と、弟がいる十六歳の女の子。
ルジェナが小さな頃は、三人の姉に囲まれて好きな事を好きな時に好きなだけ学んでいた。
父ヘルベルト伯爵も母アレンカ伯爵夫人も、そんな好奇心旺盛なルジェナに甘く好きな事を好きなようにさせ、良く言えば自主性を尊重させていた。
それが、成長し、上の姉達が思わぬ結婚などで家から出て行くと、ルジェナはだんだんとこの家の行く末が心配となってくる。
両親は、貴族ではあるが貴族らしくなく領地で育てているブドウの事しか考えていないように見える為、ルジェナはこのカフリーク家の未来をどうにかしなければ、と思い立ち年頃の男女の交流会に出席する事を決める。
そして、そこで皆のルジェナを想う気持ちも相まって、無事に幸せを見つける。
そんなお話。
☆まりぃべるの世界観です。現実とは似ていても違う世界です。
☆現実世界と似たような名前、土地などありますが現実世界とは関係ありません。
☆現実世界でも使うような単語や言葉を使っていますが、現実世界とは違う場合もあります。
楽しんでいただけると幸いです。
異世界から本物の聖女が来たからと、追い出された聖女は自由に生きたい! (完結)
深月カナメ
恋愛
十歳から十八歳まで聖女として、国の為に祈り続けた、白銀の髪、グリーンの瞳、伯爵令嬢ヒーラギだった。
そんなある日、異世界から聖女ーーアリカが降臨した。一応アリカも聖女だってらしく傷を治す力を持っていた。
この世界には珍しい黒髪、黒い瞳の彼女をみて、自分を嫌っていた王子、国王陛下、王妃、騎士など周りは本物の聖女が来たと喜ぶ。
聖女で、王子の婚約者だったヒーラギは婚約破棄されてしまう。
ヒーラギは新しい聖女が現れたのなら、自分の役目は終わった、これからは美味しいものをたくさん食べて、自由に生きると決めた。
本当の聖女は私です〜偽物聖女の結婚式のどさくさに紛れて逃げようと思います〜
桜町琴音
恋愛
「見て、マーガレット様とアーサー王太子様よ」
歓声が上がる。
今日はこの国の聖女と王太子の結婚式だ。
私はどさくさに紛れてこの国から去る。
本当の聖女が私だということは誰も知らない。
元々、父と妹が始めたことだった。
私の祖母が聖女だった。その能力を一番受け継いだ私が時期聖女候補だった。
家のもの以外は知らなかった。
しかし、父が「身長もデカく、気の強そうな顔のお前より小さく、可憐なマーガレットの方が聖女に向いている。お前はマーガレットの後ろに隠れ、聖力を使う時その能力を使え。分かったな。」
「そういうことなの。よろしくね。私の為にしっかり働いてね。お姉様。」
私は教会の柱の影に隠れ、マーガレットがタンタンと床を踏んだら、私は聖力を使うという生活をしていた。
そして、マーガレットは戦で傷を負った皇太子の傷を癒やした。
マーガレットに惚れ込んだ王太子は求婚をし結ばれた。
現在、結婚パレードの最中だ。
この後、二人はお城で式を挙げる。
逃げるなら今だ。
※間違えて皇太子って書いていましたが王太子です。
すみません
王命を忘れた恋
須木 水夏
恋愛
『君はあの子よりも強いから』
そう言って貴方は私を見ることなく、この関係性を終わらせた。
強くいなければ、貴方のそばにいれなかったのに?貴方のそばにいる為に強くいたのに?
そんな痛む心を隠し。ユリアーナはただ静かに微笑むと、承知を告げた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる