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PART11
平和で卑猥な日常
しおりを挟む◆◆◆◆◆◆◆◆◆
それから数日、謹慎処分の下った桜庭くんは会社に来なかった。
私は2人分の業務に明け暮れ、あっという間に2キロ痩せてしまった。
自業自得とはこのことか……。
自分で撒いた種が、こんなにも大きく成長して、よもやその蔓に自分の首を絞められるだなんて。
オフィスの窓の向こうの、雲ひとつない青天を見つめて目を細める。
その時、ドスン、とデスクが何かの重みで弾んだ。
課長は書類の山を二つ、私の目の前に勢い良く置いた。
「雪村、これ桜庭が担当していた作業所の書類。締め日までに全部チェックしろ」
相変わらず冷徹な我が上司ことマイハニーの宮野孝司は、今まで通り(寧ろ今まで以上に)私に無茶な仕事量を振ってくる。
こんな無愛想で乱暴な口調だけれども、これまた相変わらず、家では私の体を激しく犯してきて、それが終わると甘えてきてご飯をねだってくる。
あの一件があって別れを切り出されるかと思ったけど、話題にすら触れることもせず、彼は今まで通り私に接してくれた。
大量の書類に明け暮れる前に昼を知らせるチャイムが鳴って、私は習慣と化した屋上でのランチタイムへ頭を切り替える。
◆◆◆
「だからぁ、私、その気持ちが分からないの。
だってすんごいイケメンなんだよ?その人。
いい感じだったのにさ、『ごめん、俺アセクシャルだからセックスは無理』だってさ。正直言って、私ほど可愛い子もなかなか居ないわけじゃない?あそこまでいい感じになったのに手を出されなかったの初めて。アセクシャルって何なの一体」
「倉もっち、お前は想像力が欠けているっ。
一口にアセクシャルと言っても容易に説明出来るほど単純じゃあないんだよね~これが」
屋上のベンチが3人で埋まっている。
あの一件以来、何故か倉本さんが私達のランチに混ざるようになってから、女(?)三人寄れば姦しいの図が出来上がっていた。
「いやぁ~あれは反則よ。思わせぶりな態度も取られたしさぁ。許せない!も~!」
「まあ、色恋ばかりが人間の楽しみじゃないし?
私をご覧よ、世界一ハッピーに過ごしてるじゃん?究極を言うと、人類に恋など必要がないわけ!ドールちゃんがいれば、世界は安泰!」
「それは上原さんだけでしょ~?皆が皆そんなだったら1日で人類滅亡よー。子孫途絶えちゃう。ね?雪村さんもそう思うでしょぉ?」
「え?いや、どうかな。そもそも、地球に人間ってそんなに必要なのかな?」
「ヒューッ!うちのユッキーは人畜無害なおしとやかな顔して、こんな恐ろしいことを考えてるんだぜ!?ビビらない?」
空に向かって上原さんは口笛を吹いて、私の背中をこずいてきた。
「え、信じらんない。無理無理。雪村さん、男タラシの言うセリフじゃ無いよそれ。何のためにあなたセックスしてるの?笑えるんだけど」
「は、白昼堂々とそんなこと言わないでくださいよっ!それに私、別に男タラシではないんですよ?誤解されてるみたいですけど……」
「そうそ、ユッキーはこう見えて、愛する男としかそういうこと出来ないレディコミ体質なんだよね~?」
「そうです、まあ、過ちを犯して二股を掛けてしまったのは事実ですけど……本当に2人とも、心から好きだったんです。意外かもしれませんけど、私、少しでもその人のことが好きじゃなかったら食指が動かないんです」
何をもってしてタラシと定義付けるか不明であるが、私はこれでも見境がある方だと自覚している。
「……それは分かるわ。私も好きじゃなかったらセックスなんて無理。ワンナイトも。よっぽどの好みのタイプなら話は別だけども」
「あ、分かります!よっぽどタイプなら有りですよね!?」
「おいおい~、真昼間からそんなとこで意気投合すんなよ~。私、着いていけないよーっ」
平和で卑猥な話に花を咲かせて、私達はごく普通のランチタイムを楽しんだ。
倉本さんの中で私への嫉妬心が消えたかどうかは定かではないけど、もしもまだ嫉妬が消え去らない中で私とこんなに仲良くしてくれているのなら、彼女はとても出来た人物である。
「じゃ、私、午後イチで打ち合わせあるからお先に~!!ニンニン!!」
上原さんは忍者のドロンのポーズをすると、勢い良く屋上の階段を駆けて行った。
「はぁ~。上原さんさ、私、初見で女だと思ってたけど、人事書類よく見たら男なんだもんね?
かなりビビったわ。しかも中身あんなにぶっ飛んでるし?……やっぱり書面じゃ人のナカミなんて分からないもんだよね。今度、中途採用の面接官のサブやるんだけど、正直なところ、どこのどいつかも分からない人間を採用するのなんて、あんな面接ごときじゃ計り知れないっつーの!」
ぐにーっと可愛らしく背伸びをしながら、細い体をしならせて倉本さんは言った。
体はモデルのように細く、胸は恐らくAカップほどだろう。課長は実は貧乳派なのだろうか?
どちらかと言うと健康美を目指す私のBMIは19~20の間くらいで胸やお尻や太腿の肉付きは良い方だ。
課長がスリムな女性がタイプだとしたら、もう少し痩せなくてはならない。
私ときたら、倉本さんのそのか細い華奢なボディラインを見つめて、交際当時に彼女と課長がどんな風にセックスをしていたのか妄想を巡らせて下半身を疼かせてしまった。
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