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PART6
性欲と愛情は似て非なる物
しおりを挟む「桜庭くんて意外と二面性あるんですよね……。私、中学からの同級生なのに全然彼の内面を知らなくて。だから私が上原さんと目の前で仲良くしてたら、桜庭くんがまた上原さんに嫌味みたいな事を言うんじゃないかって心配で」
「あ、オラの事なら心配ねーゾ!あんな弱っちそうな奴なんて片手で捻り潰してくれるわ!」
「いやいや、殴りかかってこないとは思いますけど……さすがに」
「んじゃなくて、私はユッキーが心配だなっ。奴は陰湿そうじゃん?見るからにさあ。あんなファッション誌の真似事みたいなパーマかけてるような奴、絶対、陰湿に違いないし!」
「それ、すんげえ偏見じゃないですか……どういう判断基準ですか?」
「ふうむ、それにしても困ったもんだねぃ。職場でユッキーと話さないフリならいくらでも出来るんだけど、なんかそれも違う気がするし。奴の思惑通りって感じ」
「いや、ほんと……困りますよね?すみません。とんだ人間関係クラッシャーです、私」
「どうせユッキーの事だから、なし崩し的に断れなくてホテル行っちゃったとかそんな感じ?」
「ぶはっ!え!?なんで分かるんですか!ってか、まあ、断り切れなくてというか……、こっちも満更では無かったので、その……」
「分かってるよー、ユッキー、純粋ぶってるけど実は色恋大好きだもんね。いっつもレディコミの主人公みたいな顔してるじゃん」
「ちょ、上原さん!図星だけど、やめてくださいよ!」
「なぁにカマトトぶってんだよっ。この、モテる女は辛いねぇ~!ま、何かあったらとりあえず真っ先に私と宮野課長に報告しなよ?」
「え、課長ですか……?」
「んだんだ。宮野はね、ああ見えて責任感の強い日本男児だからね。何だかんだで年下だけど頼りになる上司だよ。よし、そんなメンヘラ野郎なんかより宮野とくっつけ恋する乙女よ!
……あ、だめだ!昼に部長が宮野に弁当作ってくれる彼女が出来たって小躍りして喜んでた」
「あの……上原さん……、これを聞いても、私の事を嫌いにならないで欲しいんですけど、そのお弁当、私が作ったんです……!」
「う、うえええええ!!!???マ!?それ、マ!?雪村里帆、オメー、魔性の女だな!オラ、おでれーたゾ!!」
「うん……、先週、残業した後、2人きりになって、その、良い雰囲気になっちゃって」
「あのさ素朴な疑問なんだけど、何でそんなに人の事ライクじゃなくてラブで好きになれるの?」
面白おかしく親身になって相談に乗ってくれた上原さんは、蔑むでもなく至って真面目な面持ちで私の顔を不思議そうに覗き込んできた。
4月、私が入社した日にしてくれた自己紹介で、『おっす!オラ、ドールオタクのアセクシャル!よろしくな!』と、恥ずかしげもなく堂々と言ってきた彼を忘れもしない。
それなのに私ときたら、自分の好きと言う気持ちを汚い物から目を逸らすようにひた隠しにして、自分が快楽主義だという事に対して真面目な優等生ぶって否定しようとしている。
だからこんな風に、自分の性に対してオープンで所かまわず好きな物に対する愛を叫べる、堂々とした上原さんを人として尊敬するのかもしれない。
「んー、何ででしょう?ちょっと違ったら申し訳ないんですけど、上原さんのドール達に対する気持ちと似てるのかも」
「へ!?えーっ!!嘘だろぉー!?」
やはり、人が何かに向けて好きだと言う感情と、私のこの性欲由来の好きと言う気持ちを同列に語る事はお門違いなのかもしれない。
「私、ユッキーもドールも同じくらい好きだけど、ユッキーともドールとも生殖行為に及ぼうなんて思った事もない!無理!」
「んえ?私の事、そんなに大事に思ってくれてるんですか……?」
あまりに意外すぎる回答に、面を食らった。
「そうだよ!ダチだろ、アタイ達!我等友情永久不滅だろ!なめんなよ!ざけんなよ!」
「なぜ突然レディースに……」
「うーん。真面目に答えると、ユッキーって誰に対しても裏表無く平等に接するじゃん。人の悪口とか絶対に言わないし。単純にそういうのって信頼置けるし、一緒に居て心地好いから!」
顔から火が出るかと思った。ドールに対する真っ直ぐさと同じくらい、惜しげもなく上原さんは私を褒めてくれた。
「あと、顔がロンダちゃん似てる!」
「あ、ありがとうございます……!」
「なぁに!良いってことよ!」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆
ケーキを食べ終え、ひたすら喋り続ける事2時間が経過し、私は上原さんのマンションを後にした。
だいぶ心の内がスッキリとした。
こんな事誰にも話せないと思っていたのに。
上原さんへの感謝が止まらなくなって、性欲以外でこんなに心が暖かく湧き上がったのは久しぶりだと気付いた。
どれだけ私は性欲に支配された思考回路をしているんだと、少々己を心配してしまう。
その時、メッセージ通知が届いてスマホのバイブが鳴った。
タイムリーな事に桜庭くんだった。
『里帆、今夜は空いてる?良かったから俺の家で一緒にご飯食べて映画でも観ない?』
今夜、か。
特段用事もないし、断る理由が無いんだよなー。
上原さんの件も、綺麗にしておきたいし。
ここはひとつ。
『いいよ!じゃ、ご一緒しちゃう!一回家に帰ってから行くね!』っと。
そう返信して、私は車に乗り込み、帰路についた。
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