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PART6

『上原翼』

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◆◆◆◆◆◆◆◆◆


車内で上原さんを待つ事30分。上原さん、遅いなあ~なんて自分から申し出た会合なのに失礼な独り言を呟いていると、車の窓がコンコンと叩かれた。
上原さんがケーキが入っているであろう白い箱を目線に掲げてプラプラとさせ、ニッコリと微笑んでいた。

車から降りるなり、私は頭を深く下げる。


「上原さん!本当~に、すみませんっ。今日、私、ずっと変な態度でしたよね?それにはカクカクしかじか、理由が色々とございましてっ」


「おう!良いってことよ!姉ちゃん!とりあえず、家に入ってくれよな!」


何故か江戸っ子のような口調を続ける上原さんが、自室のあるマンションの3階まで先導してくれて、私はその後を着いた。

改めて、まじまじと歩く上原さんの後ろ姿を見つめていると、やはり、彼女……彼を形容するに当たっては儚さと透明感を併せ持つ、妖精と言うのが相応しい。
ショートヘアの色白の美人で、鼻先が細くツンと尖っているので、どこか西洋のエルフを思わせる。

階段を上る彼の体を思わず見ると、お尻も小さいし、脂肪分も少なく骨格が分かりやすいフォルムである所が男性を感じさせた。

だからどうなのだと言う話であって、私は上原さんを良き先輩であり、友人である以上の感情を持った事はない。

何より、私の下腹部が反応しないのがその証拠である。
というか今の時代、いちいち男女の括りで分類させて考える事が大きな間違いだ。

上原さんにまで嫉妬するなんて、桜庭くんは本当にどうかしている。


「さてはて!ただいま、私の可愛いお姫様達ー!」


上原さんは自宅に入室するなり、バッグを床に置き、たくさんのスチールラックにびっしりと並んだ球体関節人形の一体一体に『ただいま』の挨拶を始めた。

その手の界隈に疎い私からすれば、相変わらず異様な光景ではあったが、素人目から見ても美しいドール達は、妖精モチーフであったり、ロリータの装いをした金髪美少女であったり、黒髪の中性的な少年だったりと、非常に緻密に作られた作品ばかりであった。

これが一体10万円前後するだなんて……、愛はお金に変えられないんだなあと感心してしまう。


「見て見てー!この子、新しく仲間入りー!今月の副業の収益良かったからお嫁に来てもらっちゃったー!」


「えー、綺麗じゃないですか!ヴァンパイアですか?」


紫のロングヘアをしたボディコンのような格好をした妖艶な女性のドールだった。背中にはコウモリの翼のようなものが生えている。


「うーん、サキュバスなんだな!サキュバスのロンダちゃん!ほらー、ロンダちゃん!ユッキーが家に来てくれたよー、挨拶しなー?」


「あ、いつもお世話になっておりますー、雪村ですー」


条件反射でついビジネスライクな挨拶をすると、上原さんは満面の笑みでロンダちゃんと私を交互に見た。


「この子ねー、ちょっとだけユッキーに雰囲気が似てるんだー。なんか綺麗で妖艶なんだけど、どこか幼くて、邪悪そうに見えて純粋なところー」


えへへ、と目を細めて笑いながら上原さんは恥じらいもなく言った。


「え!私がですか!私、こんなに綺麗じゃないですよー!」


「まあドールちゃんと比べたら全ての人類は猿みたいなもんだけどさっ。何となく似てるなって話!んで、メッセージで言ってた話とは何ぞや!ちょっくらケーキでも喰らいながら腹割って話そうぜ!私、モンブランね!」


上原さんはケーキの箱を開けると、自分用にモンブランを出した後、私にいちごのショートケーキと食器を用意してくれた。

こんな純粋無邪気を絵に描いたような上原さんに、私ときたらこれから非常に不埒な話を始めようとしている。気が引けるし、嫌われるかもしれない。


「あの、単刀直入に申し上げますと……、私、実は桜庭くんと先日の同窓会に一緒に出席して以来、深い仲になってしまい、ですね……」


「ぬぁ!?桜庭!?マ!それ、マ!?早く言ってよー、ユッキーのいけず!」


上原さんは飛び跳ねて最高のリアクションをとってくれた。


「それでなんですけど、桜庭くんはどうやら大変嫉妬深い性格のようでして、事もあろうか私と上原さんの仲にまでヤキモチを妬いてしまいですね……?今朝も何だかトゲのある言い方を上原さんにしてませんでした?ほら、メロンパンの件で」


「は!?あれ、嫉妬だったの!?ごめん、全然気付かなかった!桜庭、生理なのかな?って思ってた!!」


「生理って……、上原さんたら」


「だって、アイツすごい神経質そうじゃん!?こないだだって私がホチキス止めした議事録配ったらさ、ホチキス剥がして書類を机にドンドンドン!って打ち付けて、わざわざ整え直してからホチキス止めし直したんだぜ!?トイレで手洗ったらハンドドライヤー使わないでアイロン掛けしたハンカチで手拭いてるんだぜ!?潔癖症でいつも人のことバイ菌みたいな目で見てくるからさ、私は桜庭の事、万年生理野郎って脳内で呼んでやってんのよっ」


うん。とりあえず、上原さんが桜庭くんの事を嫌いなのはよく分かった。






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